Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『チェンソーマン』5巻、壮絶な戦闘描写で捧げる“B級ホラー映画”へのオマージュ

リアルサウンド

20/1/8(水) 8:00

 週刊少年ジャンプで連載中の漫画『チェンソーマン』(集英社)の第5巻が発売された。藤本タツキが描く本作は、“悪魔”が跋扈する世界で、チェンソーの悪魔・ポチタと一体化した16歳の少年・デンジが、公安対魔特異課の仲間たちと戦う姿を描いた異能バトルアクション。

関連:『約束のネバーランド』読者を惹きつけるポイントは? 緻密なストーリーと頭脳戦の魅力

 人間の恐怖を力の源とする“悪魔”、悪魔が人間の身体を乗っ取った“魔人”、悪魔と契約し悪魔の力で戦うデビルハンター、そして人間でありながら悪魔の力を操ることができるデンジたちの物語は、味方だと思った人間があっさりと裏切ったり、逆にあっさり殺されるといった超展開が続くため、まったく先が読めない。

 この5巻では、3巻からはじまった「ヘビの悪魔」を操る佐渡アカネ&「刀の悪魔」に変身するサムライソードvsデンジたち対魔特異4課の戦いに決着が付く。

※以降、ネタバレあり
 佐渡たちの奇襲によってデビルハンターの半数が殺された特異課の1~4課はデンジの上司・マキマの指揮する4課に統合される。生き延びた特異課のデンジと魔人のパワーは、デビルハンター・岸辺の元で修行をし、早川アキは新たな悪魔「未来の悪魔」と契約してパワーアップ。そして、サメの魔人、暴力の魔人、天使の悪魔、蜘蛛の悪魔と共に、佐渡&サムライソード率いるゾンビ軍団に戦いを挑む。

 この壮絶な戦いは見応え抜群だ。デンジのチェンソーの悪魔と同系統の力を持つサムライソードとの電車内バトルは、見開きの迫力で見せる藤本タツキの壮絶戦闘描写の、現時点での到達点だと言えよう。

 同時に、行き当たりばったりに思えた物語も、全体像が見えてきた。

 佐渡たちにヤクザを使って特異課を襲わせたのは“銃の悪魔”で、狙いはデンジの中にあるチェンソーの悪魔の心臓だった。2巻でもデンジが悪魔に狙われていたが、どうやらチェンソーの悪魔の心臓を持つデンジに対し、悪魔は恐れを抱いているらしい。同時にマキマも怪しい動きを見せていて、今回の襲撃もマキマは想定していたのではないかと匂わされている。何より彼女の力は、謎に包まれている。新幹線で銃殺された際には、一人無傷で生き残り、佐渡たちの仲間を、死刑囚を生贄にして、遠方から暗殺するという凄まじい力をみせた。

一方、佐渡たちを倒し、銃の悪魔の肉片を回収したことで、銃の悪魔の居場所が明らかになり「討伐遠征」が間近だと知らされる。劇中では、銃の悪魔が一番恐ろしい悪魔だと言われているが、最終決戦に向けて「デンジを恐れる銃の悪魔」と「マキマの謎」という2つの物語が本格的に動き出したのだ。

 他にも気になる謎はたくさんある。

劇中にはソ連が登場するが、舞台は架空の80年代なのだろうか? パソコンやスマートフォンといった現代的な機器が登場しないため、時代背景は謎だが、銃の悪魔が世界中を駆け巡り、5分で120万人弱の人々の命を奪う大殺戮の場面は核戦争の不安が支配していた冷戦時代よりも9.11以降のテロの連鎖を思わせる。

 同時にデンジの不幸な境遇は、格差社会における貧困問題を扱っていると言える。このあたりは、映画の影響も大きいのだろう。本作を読んでいると藤本は映画マニア、特に『映画秘宝』(洋泉社)が紹介するようなボンクラ映画が好きなんだろうなぁと伝わってくる。表紙袖の作者コメントには一巻の「チェンソー大好き!」以降は、2巻「悪魔のいけにえ大好き!」3巻「へレディタリー大好き!」4巻「貞子vs伽椰子大好き」5巻「デスプルーフinグラインドハウス大好き!」と筆者が好きな映画タイトルが並んでいるが、エグい描写が続くバッドテイストのホラー映画がほとんどだ。

 おそらくデンジがチェンソーの悪魔と同化して戦うのはホラー映画『悪魔のいけにえ』に登場する殺人鬼・レザーフェイスの武器からの引用だろう。同時に竜巻によって飛来するサメの襲撃に対し、チェンソーを武器に戦う男・フィンの姿を描いた『シャークネード』シリーズからの影響も伺える。このあたりはサメの魔人がデンジのことを大好きだという友好関係からも明らかだろう。

 一方で感じるのは韓国映画の影響。マキマの呪術場面には韓国のホラー映画『哭声/コクソン』の影響が伺えるが、節々で、ホラー、アクション系の韓国映画テイストを感じる。実写化するなら、『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノがNetflixでドラマ化したら面白いかもしれないが、低予算で強引に作る方が本作にはふさわしいのかもしれない。

前作『ファイアパンチ』の頃から、映画は藤本にとって重要なモチーフだ。第5巻ではマキマとデンジがデートで、一日中、映画館をハシゴする姿が描かる。面白さがわからず「映画とかわかんないのかも」というデンジに対し、マキマは「私も十本に一本くらいしか面白い映画には出会えないよ」「でもその一本に人生を変えられた事があるんだ」と言う。きっと名作だけでなく、B級、Z級の映画が「大好き!」だからこそ、こういう雑多で奥行きのある世界が描けるのだろう。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む