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のんがパワーアップしてスクリーンに帰還! 『星屑の町』にみる、6年間の“表現活動”で増した魅力

リアルサウンド

20/3/10(火) 10:00

 3月6日に公開を迎えた映画『星屑の町』で、『海月姫』以来、約6年ぶりに劇場公開の実写映画への出演となったのん。劇中では、芝居はもちろん、ギターでの引き語りやレトロな衣装を身にまとい歌にダンスに、その魅力を爆発させている。2016年に“のん”となってから、芝居はもちろん、音楽活動、ライブ、舞台、映画監督など、さまざまなジャンルで活動してきたからこその“表現”が、本作には詰まっている。

 『星屑の町』でのんが演じる久間部愛は、歌手になることを夢見て上京したものの挫折し、現在は東北の田舎町に住んでいる女性。そこに地方回りをしている売れないムード歌謡コーラスグループ・ハローナイツがやって来たことで、愛のなかでぼんやりしていた夢がクリアになっていく。

 まず注目したいのが、愛という女性の変化だ。ハローナイツがやってくる前は、歌手になる夢を捨てきれないものの、糸口をつかめない愛は、どこか自信なさげで、自らの魅力にも気づいていない。そこから、グループが街にやってくることで、ボーカルとしてがむしゃらに自身を売り込みはじめる。

【写真】のん撮り下ろしカット

 とは言うものの、そう簡単には採用されない。そこでギター片手に往年の名曲「新宿の女」を熱唱し「こんな逸材を使わないなんて、あんたらおかしいぞ!」とでも言わんばかりに猛アピールする。このあたりから、破れかぶれ感も相まって、愛のスイッチが入り、表情がガラリと変わる。

 そこからは、シンデレラロードを歩むかのように、どんどんあか抜け、キラキラと輝く。もともとデビュー当時から、その素材は誰もが認める存在であったが、彼女の場合、芝居のなかで、自身の魅力やオーラを、表情や仕草や姿勢などで消すことが上手い。話が進むなか、そのオーラを解き放つことで、一つ物語が成立してしまうのも、のんという女優の大きな持ち味だ。久々の劇場映画でも、その魅力はまったく色あせるどころか、さらに増している。

 もう一つ、のんになってから精力的に行っている音楽活動も作品に大きな彩りを添えている。前述した「新宿の女」のパンチの効いた歌い出しをはじめ、「恋の季節」「ほんきかしら」など往年の昭和歌謡の名曲を、吹き替えなしで見事に歌い上げた。しかも「新宿の女」のギターは、当初、メガホンを取った杉山泰一監督からは「弾かないでもいい」と言われていたが、自ら志願してギターを弾き、臨場感を加えた。

 のんは2018年にアルバム『スーパーヒーローズ』をひっさげ全国5大都市ツアーを行った。当時のインタビューで「自分のなかにある表現したいことを一番ストレートに出せるのが音楽活動なんです」(参考:ORICON NEWS|のん5大都市ツアー直前、根強い“女優待望論”への想い)と話していたが、自らが愛として歌い、ギターを弾くことで、キャラクターのうちからにじみ出る表現を大切にしたのだろう。

 田舎でくすぶっていた少女が、歌うたびに自信に満ち溢れていく姿は、レトロな衣装も相まって、スター誕生を目の当たりにしたような感動すら覚える。共演したラサール石井は「これはのんちゃんの映画。スターというのはこういう人のことを言う。オードリー・ヘプバーンみたい」と完成披露上映会で大絶賛していたが、まさにスクリーン映えする輝きを放っている。

 ギターの引き語りを吹き替えなしで演じたこともそうだが、役に対しても徹底的に突き詰めていくいい意味の頑固さも、のんの特徴だ。大ヒットを記録したアニメ映画『この世界の片隅に』では、戦時中の女性という、まったく未知の人物を演じるうえで、疑問に思ったことを箇条書きにして片渕須直監督に一つずつぶつけていった。こうして役を深掘りしていくことで、キャラクターの行動や表情に矛盾が生じない。本作で演じた愛も、やや脱線するストーリーラインもあるが、終始感情移入できる人物になっている。

 本稿でも“6年ぶりの実写映画出演”と煽ってみたものの、その間にも、女優活動や、声の演技をはじめ、音楽活動、自身で監督、脚本、主演、演出、編集を含めた作品の製作など、さまざまなな“表現活動”は継続して行っており、映画女優としてのブランクがどう出るかというよりは、こうした経験によって、どんな魅力が増しているのだろうという期待が大きかった。

 そんな期待以上のパフォーマンスを本作では観ることができる。愛は挫折して夢を諦めざるを得ない状況のなか、内から湧き出る思いで活路を切り開き、大きな輝きを得た。のんも、初監督を務めたときのインタビューで「失敗することで前に進める」(参考:クランクイン|監督デビューのん、創作の原動力は「失敗する勇気」)と話していたが、自ら困難だと思うことに積極的にチャレンジし、失敗してしまっても、そのことで得られたものを身にまとい、さらにパワーアップしていくという戦い方が、愛と重なった。

 以前「やりたいと思ったことはブレーキをかけないようにしている」(参考:cinemacafe.net|のん、“リミッター”を意識しても譲れないこだわりとは?)と語っていたのん。自身の感情に純粋に向き合える仕事に全力投球している彼女の清々しさも十分堪能できる作品だ。

(磯部正和)

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