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遠山正道×鈴木芳雄「今日もアートの話をしよう」

西野達個展「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」

月2回連載

第34回

20/2/10(月)

鈴木 今回は、ANOMALYで個展「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」(2月22日まで)が好評開催中の、西野達さんをゲストにお迎えして、いろいろとお話をうかがっていきたいと思います。

遠山 よろしくお願いします。

西野 ありがとうございます。よろしくお願いします。

鈴木 少し西野さんのご紹介をしておくと、西野さんは、例えばシンガポールのマーライオンや銀座のエルメスの屋上に設置されているスカーフを持った騎馬像「花火師」とか、屋外にあるモニュメントや街灯などを取り込んで部屋を建築し、リビングルームとして公開したり、あるいは実際に宿泊できるホテルとして営業するなど、公共空間を舞台として作品制作をしている作家さん。いつも度肝を抜く展示で、独特な存在感を放っています。今回は10年ぶりの個展ということで、我々も楽しみに待っていました。

シンガポールのマーライオン Photo by Tatzu Nishi ※この有名なマーライオンは、西野さんの手にかかると、ホテルに! 鈴木さんはこのマーライオンホテルにも滞在されました。
西野達《The Merlion Hotel》2011 Marina Bay, Singapore ©️Tatzu Nishi Courtesy of the artist, ANOMALY Photo: Yusuke Hattori

西野 ありがとうございます。鈴木さんはそれこそ世界中見に来てくれてますよね。

鈴木 うん、追いかけてるね(笑)。
しかも遠山さんの中目黒のレストラン「PAVILION(パビリオン)」には、日本で初めて常設展示されたパーマネントの西野作品が2つも展示され、それを見ながら飲食を楽しむことができる。我々にとって、とても縁深い作家さんです。まずは個展について聞きたいんですが。

西野 俺の作品コンセプトは、「笑い、暴力、セクシー」なんです。

鈴木 それ初めて聞いた気がする(笑)。

西野 いやいや、鈴木さんはもちろんご存知だと思います(笑)。最初のカタログのインタビューから言ってるので。ちなみに「笑い」は、世間の常識を転覆させるというか、外と中であったり、ハイとロウなものが逆転したりして、作る側はもちろん、見る側の想像力を刺激すること。「暴力」は簡単なことで、芸術って常に暴力的なものじゃないですか。芸術なんて、簡単に土足で俺たちに踏み込んでくるものじゃないですか。それってすごい暴力的。そして「セクシー」ですが、セクシーさって、公私の境目というか、混じり合ったところから生まれるものだと思っています。

遠山 そのセクシーさっていうのは、まさしく西野さんの作品のことですね。パブリックなものが、プライベートの空間と混ざり合う。

西野 そう、公共の場にいつも普通に立ってる彫像とかが、いきなりリビングっていう個人的な空間に取り込まれたり、人がプライベートを過ごすホテルになったりしてしまうことって、俺はセクシーだと思うんです。

西野達《地軸は23.4度傾いている》2009 ミクストメディア「バレたらどうする」展示風景 ©️Tatzu Nishi Courtesy of the artist, ANOMALY Photo: Keizo Kioku

鈴木 それに西野さんの個展って、いつもタイトルが面白いというか、とんちが効いてるというか。例えば10年前の個展は「バレたらどうする」。水銀の街路灯を、実際に壁に穴を開けて通した作品があったんだけど、スタッフが常駐しているオフィスにぶっさしてるもんだから、異常に明るいし暑いしで、スタッフさん大変だったと思う(笑)。あとはギャラリー展示室内の天井をはがして、新しく板で天井を作って、それを半宙吊り状態にしていたり。で、タイトルは大家さんに「バレたらどうする」?(笑)

「PAVILION(パビリオン)」内に設置されている西野作品《What if someone finds out?(バレたらどうする?)》2016

遠山 なるほど! それはバレたらヤバイ(笑)。そういえば、「PAVILION(パビリオン)」のエントランス入ってすぐの、剥き出しのコンクリートに街路灯、そして街路灯につながれているヴェスパ、それらが土台ごと引っこ抜かれて、天井から吊るされている作品も《What if someone finds out?(バレたらどうする?)》(2016)ってタイトルだ(笑)。

鈴木 本当だ! しかも街路灯(笑)。

西野 ずっと街路灯を使い続けてるところとか、全然進歩がないね(笑)。

遠山 でもわかりやすいし、みんなびっくりする。そしてなんでこれがここにあるの? どうなってるの? っていう、このわかりやすくもわかりにくいコンセプトが、西野さんの大きな魅力だよね。

鈴木 ということで、今回のタイトル、その心は?(笑)

西野 その心は、これは俺自身のことを言ってるんです。やめられない習慣っていうのは、俺にとっては「アート」っていうことなんです。

鈴木 アートをやるのは習慣なの?

西野 習慣っていうか、もう生活すべてですね。で、本当の理由は「アートが好きで好きでたまらないです」。で、その対処法は「アートを作る、作品を作るしかない」ってこと。要するに俺がアート漬けだっていうことを言いたかったというだけです(笑)。実はこのタイトルは ANOMALY向けでもあるんです。ギャラリー内で作業する日数を長く確保するために開催時期を年始明けにしたのですが、俺がギャラリー内で長い期間制作することでギャラリーに迷惑がかかることは最初からわかってた。ギャラリーのスタッフにはハードな仕事になる、俺のわがまま、巨大な作品、売ることを最初から拒否しているような作品、などの理由によります。「やめられない習慣の対処法なので勘弁してくれ」というわけ。このことはいまだにギャラリーには言ってないけど。

遠山 西野さんって、個展や作品のタイトルが面白いのはもちろんだけど、ご自身のアーティスト名というのかな、「西野達」という名前だけじゃなくて、いろんな名前を使い分けてるじゃない? 大津達とか、西野達郎とか。

鈴木 名前交換プロジェクトだよね。名前っていうのは、個人を表すパブリックなものであり、身近で重要なものでありながら、当たり前のものでもある。

遠山 そう考えると、名前ってパブリックでありながら、すごくプライベートなものだよね。だから名前もセクシーなものかも。今回は「西野達」?

西野 変えずに「西野達」ですね。最も新しい名前の例だと、2018年にパレ・ド・トーキョーでやった「Enfance/こども時代」に参加した時に、「Amabouz Taturo」っていう名前を使用しました。今回の展覧会にもこの名前を使うことを考えたんだけど、漢字を思いつかなかった。

遠山 相変わらずいろんなこと考えますね(笑)。
西野さんといえば、巨大なインスタレーション作品とか、さっき芳雄さんが言ってたみたいに、公共空間を舞台としていることが多いですよね。でも今回はホワイトキューブのギャラリーで展示している。西野さん的に制作するにあたって、「場所」に合わせるというか、作品制作について何か気の持ちようとかって違うものなんですか? 例えば売る売らないとか。

西野 「売る売らない」に関して言えば、室内作品はサイズ的に売れる可能性はゼロではないとは思っていますが、まずアイデア先行で作品を作り始めるので結局は販売することが難しい作品になってしまいますね。屋外作品の場合はその巨大なサイズや作品の性質から、販売するなんてことが頭をよぎったことは一度もありません。購入が不可能な作品なのです。外でやる場合は展示期間が終わったらその作品はすぐゴミ箱行きです。

遠山 え? すべて破棄になっちゃうんですか? どこかで保管してるとかではなくて?

西野 破棄ですね。その作品のために選んだ材料を使っているので、それをまた使うっていうことはできないし、しません。美術館側が破棄するのはもったいないということで、展示した作品がそのオフィスにぶら下げられていることはありますが。今回の車の作品で使われている街灯が、唯一その例外かもしれません。今回、街灯が手に入りづらかったので。間違って捉えられると嫌なので言いますが、作品を売ることを拒否しているわけではないのです。売ることが不可能な作品ばかりを作ってるということです。というか、売ることを前提にして、つまりアートマーケットを気にして制作するのが嫌だということ。俺は元々アートマーケットを捨てることで作家活動を始めたのです。

実は絵画の個展になるはずだった?

遠山 今回もそこそこ大きな作品がありますよね。制作って、スタジオとか自宅でそう簡単にいかないのが、西野さんの作品だと思うんですが。

西野 実は今回の個展、絵画の展覧会にするつもりだったんです(笑)。

鈴木 え!? 絵画の?(笑)

西野 ええ。いま俺は熱海にスタジオを構えているんですが、それを借りた理由は、絵画作品を制作しようと思ったから(笑)。で、半年ぐらい描き続けてた。それで、「まさかのあの西野達が初めて絵画作品で個展!?」って驚かせようと思ってたんですが、最終的に全然うまくいかなかった(笑)。

遠山 じゃあその制作した作品は?

西野 全部破棄(笑)。絵画を完全に舐めていた。

遠山 これまたもったいない!!(笑)

鈴木 西野さんって、もともと武蔵野美術大学の絵画科出身なんですよね。で、そのあとにドイツのミュンスター美術アカデミーを卒業されている。

西野 武蔵美時代に教授に天才って言われていたんだけど、ドイツへ行ったらそこでも美術大学の教授に天才だって言われた。もっとも日本の場合は天変地異の天災にもかけていたんだけど。西野が動くと何もかも破壊されるっていうわけ。

鈴木 (笑)。確かに、奈良美智さんがずっと西野さんの絵画作品を気にしてたんだよね。

西野 奈良と知り合ったのも、奈良が武蔵美の芸術祭に来ていて俺の絵を気に入ってくれたのが始まり。それからダラ〜っと付き合いは続いてる。

鈴木 だから奈良さんがもう35年近く前のその時すでに、西野さんを発見してるわけ。ものすごい先見の明。

遠山 さすが奈良さん。

鈴木 じゃあ西野さんは日本で絵をやり尽くしたと。で、ドイツに行ってからは?

西野 絵画はもう完全に理解したと思ってたから、だからドイツでまた同じことやってもしょうがないので、ドイツの美大受かった瞬間に、絵以外のことを全部やろうって。写真もパフォーマンスもインスタレーションも彫刻も、ありとあらゆることをやりましたね。

遠山 それで最終的に、いまやっているような方向になったんですね。

西野 そうです。今回は実際に絵画の展覧会にしようと思ってやってたけど、いままで全然描いてなかったから、絵画に対する感覚が鈍っていて、すぐにその感覚が戻ってこなかった。歳とったっていうのもあるかも。俺は絵画制作の感覚は2週間で戻ると読んでいたんだけどね。

鈴木 やっぱりその作品見たかったな。ではさっそく、会場を西野さんに案内していただきましょう。今回は、デッサンで使われる石膏像を使ったシャンデリア作品や、写真作品、仏像が彫られた木の作品、そして車を使った作品が並びます。

生木に彫られた仏像達
さて、達仏とは?

展示会場入ってすぐ右側にある、達仏1作品目《達仏-仏陀は生きている(三尊仏)》

遠山 やっぱり今回の展示でまず聞いておきたいのが、仏さまを彫っている植木みたいな作品だな。これらは本物の生木?

西野 そうです。今回は3つのヘビー級の巨木に彫られた仏像作品を展示していますが、すべて生木に彫刻しています。

西野達《達仏》2018 樹木 ©️Tatzu Nishi Courtesy of the artist, Tsunagi Art Museum, ANOMALY

鈴木 これと同じような作品が、熊本の津奈木町で開催された個展「西野達 ホテル裸島 リゾート・オブ・メモリー』(2017年10月〜12月)で公開されて、いまは常設展示になってますよね。「PAVILION(パビリオン)」に続いて2件目。パブリックコレクションとしては日本で初めてです。
そのほかにもフランスのナントに常設のホテルがありますが、日本では東京と熊本でしか、西野作品を常設で見ることはできません。

西野 熊本の作品は、森の中の仏像群です。

鈴木 実際に僕は津奈木で見ていますが、遠くから見てると全然わからないんだけど、森に入ると、生木に彫られた仏像が急に目の前に現れて、すごくびっくりする。津奈木には全部で33体彫られてるんだけど、もうその様は壮観としか言いようがない。

遠山 その時も今回も、仏像は西野さんが彫ったんですか? 木もそこから持ってきた?

撮影:Yoshio Suzuki

西野 津奈木の時は、熊本在住の彫刻家に依頼して彫ってもらったんですけど、今回は千葉の造園業者さんのところで木を選んで、熊本の彫刻家の先生でもある仏像も彫れる鳥取の教育大学の教授の彫刻家さんに彫ってもらいました。だから俺はディレクションしたってことですね。木を選んで、どういう仏像をどこに彫るかというのを決める。

鈴木 もし買った人がいたら、どういう形で展示というか、保管というかするの?

西野 1つは今の状態で土を見せた状態で持ってもらう。今の麻布に土を覆っただけでは生かし続けるには難しいので、でかい鉢を作って盆栽のように愛でる。2つ目は、購入者の庭の地面に植え替える。

遠山 ちなみに、どういうふうに成長していくかっていうことも想定して制作してるんですか?

西野 いえ、それがどうなるかがわからないんですよ。造園業のプロたちも、これから先どう成長するかわからないって言っている。その未知数さを含んでの作品で、そこが面白いのです。この先どう変化していくか誰にもわからないので、さっきのことと関係するけど、アートマーケットに流通することを最初から拒否してるような作品なのです。仏像を彫った木の皮のない部分は成長しないと聞いています。だから仏像には新芽も出ないし、枝も生えないけど、ほかのところは生き続けます。実際に作品を見てもらうと、幹や枝に新芽が生えてきているのがわかります。年月が経つと、幹や枝も大きく太くなっていき、そうすると仏像はどうなるのか。

撮影:Yoshio Suzuki

鈴木 ひび割れたりするかもしれないってこと?

西野 そう! もしかしたらそのまま枝が伸びて、仏像も一緒に伸びるかもしれない。でもわからない、実際のところは。それが俺が楽しみにしているところなんだけど、これを自分のものにして成長を見続けたいっている懐の大きなコレクターが現れて欲しいね。

遠山 でも枯れる可能性もあるんだよね?

西野 あるそうです。地面にも植えてなくて鉢のない今の状態のままなら、死んじゃうかもしれない。個展のオープニングの2、3週間前、サザンカを使った達仏が盛大に花を咲かせていてとても綺麗だったんだけど、そういうのを見ると枯れるなんて想像できないけどね。

鈴木 この作品って、庭の木に彫ってほしい! っていう人もいるかもしれないよね。

西野 そうなんですよ。展示されている作品を買うんじゃなくて、庭とかに生えてる木に彫りにいくっていうのもできると思ってます。それがこの作品と一緒に暮らす3つ目の方法になりますね。

鈴木 コミッションワークとしてね。

西野達《無題、成長するA氏の首像》2020 樹木(ホルトノキ)©️Tatzu Nishi Courtesy of the artist, ANOMALY Photo: Keizo Kioku

遠山 ちなみにこの3つ目の木の作品。ほかの2つと趣が違う気がするんですが、顔とか。

西野 これは俺が彫って、着色したんです。俺は仏像じゃなく人物像を彫ったつもりだったけど、仏像にも見える。

遠山 実は今回の展覧会の中で、私この作品が一番好きだなって思ってて。

西野 めちゃくちゃ嬉しい! どこが好きですか?

遠山 まず彫刻がボリューミーで、存在感があるところかな。木の中心にあって、何か象徴的なのもいいし、枝振りが千手観音の手のように見えるのも面白いなって。どっちかっていうと、インドネシアとかそっちの仏頭とかにも見える。

西野 本当に嬉しいなあ。俺は今回、一つだけ着色した像を作りたかったんです。昔の仏像って、極彩色で、ギラギラしてたじゃないですか。本当はほかの仏像たちも着色しようかと迷ったんですが、本職の方のような色塗りテクニックは俺にないから、この一体だけ色を塗ることにしたんです。それこそインドネシアとかあっちのイメージで。

鈴木 この作品、会場の一番奥にあるから、ちょっとオチっぽく見えるのもいいよね(笑)。何とも言えない彫られた人物の顔もだけど、ほかの仏像からちょっとかけ離れているのも。ものすごい存在感がある(笑)。

西野 それも言ってもらえて嬉しい。この作品こそ、俺のコンセプトの一つ「笑い」の比重が高い作品になってます。(笑)。これはギャラリーで制作していて最後まで悪戦して何十回も完成するのを諦めたものなので、皆さんの言葉で報われた気分です。

遠山 そういえばさっき絵画の話してましたが、もしかして、それの残り香をこの作品から感じることができる?

西野 そうですね、確かにあんな感じの絵かも(笑)。わざと下手くそに描いたような。

鈴木 わざと下手くそに描いてたんだ。

西野 そう、わざとそうしてたんですよ。俺は作品を制作する時に、もともとテクニックを拒否して作ってる。いまの日本のアートって、鉛筆やアクリルなんかですごい細密に本物と見紛うように描いたり、例えば砂を使って儚くも美しい作品を作り出すとか、テクニックを駆使してる作家をすごいっていう傾向が強いと思うんですよね。テクニックって、工芸とかにはもちろん必要なものだと思うけれども、アートって本来はテクニックではなく、発想とかコンセプトが重要なんです。テクニックとはまったく真逆の発想なわけですよ。例えば今話題のバスキアなんてそういうテクニックはない。

遠山 そう言われると、ますます絵画作品が見たくなる(笑)。

街路灯と切断された車

《やめられない習慣の本当の理由とその対処法》

遠山 そして会場内で一際異彩を放つ、切断された車と街路灯。まさしく西野作品って感じ。

鈴木 しかも座って写真を撮ることができる、ある意味参加型作品。

遠山 街路灯を使った作品を作り続けてますねえ。しかも今回は壁とかじゃなくて、車にぶっ刺さってる(笑)。

西野 そうです、前後を切って、真ん中だけ残して。車のイメージを消したかったんです。遠山さんがおっしゃったように、街灯は俺にとって常に興味のある対象なんですよ。それは屋外のモニュメントと同じように、街中に立ちつづけているというのに普段は誰もその存在を忘れ去れているおかしなものだからです。俺にとっての街灯と銅像は、セザンヌのサントヴィクトワール山やダリの妻ガラのようなものかもしれません。

鈴木 これは、車と街路灯の自重だけで立ってるんじゃないよね?

西野 ええ、街路灯を床に杭を打って固定しています。

鼎談を終えて
西野さんと僕たち

ニューヨークのコロンバスサークル Photo by Tatzu Nishi ※円形広場の中央には、大理石像のコロンブスが、約21メートルの高さの花崗岩の柱の上に立っています。そのコロンブスがリビングに現れる!
西野達《Discovering Columbus》2012 Columbus Circle, New York, USA©️Tatzu Nishi Courtesy of the artist, ANOMALY

鈴木 さて、西野さんと鼎談をしたあとに、遠山さんと二人で、少しだけ西野さんについて語る時間を設けました。
僕にとって西野さんは、20年近く追い続けている作家。彼の作品を見るために、世界中に行っていますね。こんなにスケールが大きくて、次に何をやるのかって楽しみにさせられる作家さんもそうそういません。もうすでに次の作品が楽しみ。
西野作品には、日常の中に当たり前にあるものが使用されています。でもその本来の意味や意図が剥奪されて、新しい何かに変換されたり、転換されたり、還元されたりする。だからその作品は異物の塊なのかもしれないなと思います。当たり前のものが当たり前じゃなくなってしまう。

遠山 そうそう、一種の異物感というか。本来持っているモノの意味や文脈なんかがまったく違ってくるから、一瞬戸惑う。でもそれがまた面白いし、西野作品の魅力だと思います。
例えば「PAVILION(パビリオン)」のヴェスパも、まさかレストランの天井から、ヴェスパが吊り下がってるなんて思わないでしょ? その驚きに満ちた空間を提示してくれるのが西野さんだなって思う。
だから私も西野さんと仕事をご一緒させてもらえたのは、すごく嬉しかったですね。こんなにも気持ちの良い人ってなかなかいない。裏表がないというか、テンションも変わらないし、こちらが意見を言っても、それを嫌がることなく、一緒に作品を作ってくれる人。その直球感がすごいなって、いつも思わされます。

鈴木 ものすごく柔軟性の高い作家さん。

遠山 作家さんとしても本当に素晴らしいですよね。「PAVILION(パビリオン)」での設置とか施工の時もずっと立ち合ってくれて、細部まですべてご自身の目と手を大事にされている人。

鈴木 西野さんという人は、入口のダイナミズムから、出口のすごく繊細なところまで一貫している人。あれがすごいなっていつも思わされる。本当に彼は「世界の西野」。

遠山 そうだよね、世界中見ても、こんな作家さんはいないと思う。ある意味、唯一無二のだと思います。そんな彼の作品が、いま目の前で見られるって、実はすごく贅沢なことだよね。

鈴木 そうそう、もちろん「PAVILION(パビリオン)」や津奈木、ナントに行けば見られるけど、個展をしているこの機会を逃すのはもったいないと思います。そうそう見られる作家じゃないからね。

遠山 しかも、個展中に、ギャラリーの近くで西野さんの新作を見られるっていうことを聞きました。

鈴木 そう、展覧会は2月22日まで開催中ですが、その間に西野さんは、2月15日(土)〜24日(月)まで、天王洲で「大阪万博50周年記念展」というのに参加されるそうです。

遠山 万博と西野達。なんかものすごい巨大な何かが生まれそう(笑)。

鈴木 そして今回の個展を記念して、新作品集が2冊同時発売となりました。そして出版記念などを兼ねて、アーティスト集団「目」の荒神明香さん、南川憲二さんとの対談が開催されるのですが、残念ながら完売とのこと。

遠山 でも個展はぜひ皆さんご覧ください。驚かされるし、笑わさせられるし、考えさせられること間違いありません。


構成・文:糸瀬ふみ

プロフィール

遠山正道 

1962年東京都生まれ。株式会社スマイルズ代表取締役社長。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」などを展開。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。


鈴木芳雄 

編集者/美術ジャーナリスト。雑誌ブルータス元・副編集長。明治学院大学非常勤講師。愛知県立芸術大学非常勤講師。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』など。『ブルータス』『婦人画報』ほかの雑誌やいくつかのウェブマガジンに寄稿。

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