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『エール』“ミュージックティチャー”古川雄大 演劇界のプリンスから独特な曲者キャラへ

リアルサウンド

20/4/26(日) 6:00

「だから先生はやめてぇええっ!」

参考:『エール』古川雄大、“跳んでるキャラ”御手洗役を語る 「自然に受け入れてもらえるような人物に」

 NHKの朝ドラ『エール』4週目に登場し、初回1分弱の出演時間で鮮烈な印象を残した御手洗清太郎。のちに主人公・古山裕一(窪田正孝)の妻としてともに音楽の道を歩む関内音(二階堂ふみ)の歌の先生である。

 女性言葉と個性的な動作でこの“御手洗ミュージックティーチャー”を演じるのは古川雄大。じつは彼、その美貌とキレのあるダンス、繊細な演技で多くの観客を虜にする“ミュージカル界のプリンス”でもあるのだ。

 今回はこれまで舞台の現場で何度かインタビューした印象なども含め、『エール』で視聴者に強いインパクトを残す古川雄大について書いていきたい。

 もともと長野のダンススクールでジャズダンスやバレエを学んでいた古川は、2007年にテニミュこと「ミュージカル『テニスの王子様』」に4代目・不二周助役で出演。この作品を起点に、その後もさまざまな舞台に参加する中で大きな転機となったのが、2012年に帝国劇場他で上演されたミュージカル『エリザベート』のルドルフ役だ。

 『エリザベート』は19世紀末のオーストリアにおけるハプスブルグ家の栄光と滅亡を描いた大ヒットウィーンミュージカルで……と、この話をすると止まらなくなるので割愛するが、何が言いたいかというと、古川がこの舞台で演じたエリザベートの息子・ルドルフ役は、ミュージカルスターの登竜門のひとつということである。

 美しく繊細、青白い炎を放つような古川の演技は高い評価を受け、彼はプリンスとして大舞台の階段を駆け上がっていく。フレンチロックミュージカル『ロミオ&ジュリエット』ではロミオ役を担い、枢やな氏の同名漫画を原作とした「ミュージカル『黒執事』」では悪魔のセバスチャン・ミカエリスを演じた。

 そして2018年には100年以上の歴史を有し、客席数約1900の帝国劇場にてミュージカル 『モーツァルト!』のタイトルロール、ヴォルフガング・モーツァルト役として舞台の芯に立つ(山崎育三郎とのWキャスト)。劇団四季や宝塚歌劇団などの大手劇団や音楽大学の出身者ではない俳優がこれを成すのは異例と言っていい。

 これまで主演作を含む出演舞台の取材で何度か古川雄大にインタビューしたが、その際の一貫した印象は「生活感をまったく感じさせない人」。もともと大型ミュージカルはわたしたちの日常とは違う世界観を描くことが多いとはいえ、舞台上や稽古場以外の姿がまるで想像できない俳優は珍しい。

 そんな古川だが、ある取材時に「今、ハマっているものは?」という問いに対して「塩むすび」と答えてくれたのが興味深かった。理由は「味がしないから」。雑味のない真っ白なおにぎりを華麗に食す彼の姿が目に浮かび、その場の空気が柔らかくなったのをよく覚えている。

 また、事務所移籍後は映像の世界にも積極的に進出。2018年の『下町ロケット』(TBS系)では、「米なんて食えればいいんだよっ!」と殿村(立川談春)を見下しあざ笑う吉井浩役を、2020年1月期の『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』(日本テレビ系)では、医師たちが集うバーのイケメンオーナー、来島達也を演じている。

 こう並べてみると、舞台では華麗、繊細、プリンスという表現がぴったりハマる古川が、映像では逆に作品に強い色味を与えるクセが強めなキャラクターを演じていることに気づく。舞台、特にミュージカルで注目され映像に出演するようになる俳優で、こういうタイプはとても少ない。

 『エール』で古川が演じる御手洗はドイツ帰りの音楽家。さらにトランスジェンダーという難しい役どころだ。朝ドラでは珍しく、第4週までヒロイン枠である音の同性の友人が出てこない中、御手洗がその役割も担っているということだろう。裕一から留学の話を聞いた音に「あなたも行っちゃえばいいじゃないっ!」と背中を押し、「わたしもドイツに帰っちゃおうかしら」と海の向こうに思いをはせる。今後、“ミュージックティーチャー”の過去がどう明らかになるのかも楽しみだ。そして、これから日本が戦争に向かう中、御手洗のような音楽を愛するトランスジェンダーがその渦の中でどう生きていくのかも非常に気になる。

 『エール』は音楽をテーマにした朝ドラということもあり、今回ピックアップした古川雄大に加え、多くのミュージカル俳優の出演が決まっている。今後も舞台のみならず映像でも輝く彼らの活躍に注目したい。(上村由紀子)

※記事初出時、一部に記述の誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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