海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
パトリック・ウィルソン
連載
第38回
── 今回はパトリック・ウィルソンです。名前は知らなくても、顔は見たことがあるという人、多いんじゃないですか? ローランド・エメリッヒの『ミッドウェイ』に出演しています。
渡辺 主役を張るほどではないけど、その次に重要な役を演じている印象ですよね。『ミッドウェイ』では、実在した暗号解読のプロフェッショナル役。彼の仕事が日本軍の暗号を解き、アメリカを勝利に導くんです。この映画、米国の諜報戦も描かれていて、今までにはない切り口だと思いました。脇に至るまで実在した人間らしく、その辺のリサーチにも力を入れている。
日本軍も同時に描かれますが、いい部分を取り上げている。豊川悦司や浅野忠信も軍人らしくキリっとしていて華がありました。監督はローランド・エメリッヒ。同盟国だったドイツ人だからだったりして(笑)。
── ということはウィルソン、本作ではとても重要な役なんですね。
渡辺 そうです。準主役って感じでしょうか。眼鏡をかけて髪の毛も増えているような気がする。知的でかっこいい方のウィルソンですね。
実は私、彼はかなり好きなんですよ(笑)。実際の彼に会うと、本当にいい人オーラが出ている。インタビュールームに入ってくるだけでほっとするような、そんな感じ。
今はほら、なぜかジェームズ・ワンのミューズ的存在じゃないですか? 『インシディアス』(10)を皮切りにワンは自作にほぼ彼を出演させている。もうひとつの『死霊館』シリーズ(13~)でも主人公のひとりですからね。この前は『アクアマン』(18)にも準主役級のオーシャンマスター役で出演させている。私がインタビューしたのはこのときです。
ワンはウィルソンのことを「演技が上手く、性格も穏やかでとっても頼りにしている、自分にとってはとても重要な存在」と言っていましたが、なんとなくそれも分かるんですよ。過酷なハリウッドで生き抜くための心のよりどころなんだろーなーって。
── いい関係なんですね。
渡辺 ウィルソンにワンとどういうところが合うのか聞いたら「情熱やチャレンジ精神など、仕事に対する姿勢が似ているし、同じようなテイストの映画が好き」と言ってました。その映画は「最近、ふたりの話題になったのは『プラトーン』(86)。もう1本は『影なき男』(88)。この作品のトム・べレンジャーは最高という話で盛り上がった」って。
それにウィルソンは「ジェームズ(・ワン)は、なにかいいアイデアが浮かんだりすると、それをすぐにテキストメッセージしてくれるんだ。で、そのメッセージが後日、ちゃんと映画に反映されているから驚くばかりでさ」と言ってましたね。
そもそも『アクアマン』のキャスティングも「あるときジェームズが“今度『アクアマン』をやるんだ。君はオーシャンマスターにぴったりだと思うんだけど、どう? やってくれる?”とメールしてきて、“やるやる、そのキャラクター、最高だよ”とまず返事をして、それからググったんだけどね」と笑ってました。
── かわいいですね。
渡辺 先日、行われたワーナーのネットイベント、DCファンドームの『アクアマン2』のコーナーにワンと一緒に現れて、ラブラブなところを見せつけましたからね(笑)。『アクアマン』のファンにとってはなぜジェイソン・モモアじゃないんだってなるだろうけど、ワンのファンからすると当然、ウィルソンなわけですよ。ワンはきっと、彼と一緒にいると落ち着くんだと思いますよ。
ほら、『死霊館』シリーズのときって、霊感の強すぎる奥さんのフォローをしまくる、優しくて頼りがいのある夫役じゃないですか。実際の彼もあんな感じなんじゃないかなーって思うんですよね。
そうそう、それでワンは当初、『アクアマン』のニコール・キッドマンが演じたアトランナ役を『死霊館』のヴェラ・ファーミガにしようと思っていたんですって。でも、アトランナってオーシャンマスターのママなわけですよ。『死霊館』では夫婦を演じ、今度は母子って、どう見てもヘンだろうと思い、ニコールにしたと言ってました。ウィルソンを代える気はまったくないんです(笑)。
── なるほど。
渡辺 あと、ウィルソンには『ウォッチメン』(09)のときもインタビューしていて、監督のザック・スナイダーのことを「彼ほど、役者に心地良さを与えてくれる監督を私は知らない。オーディションでさえも、まったく嫌な気分にさせないんだから!」とベタ褒めしてくれたので、ザックの大ファンでもある私は大喜びだったんです。
ちなみにザックが彼をナイトオウル役に当てたのは『リトル・チルドレン』(06)を観たからと言ってました。これもよく分かる。「アメコミのヒーロー役だからかっこいいんだろうと思っていたら大間違い。太って眼鏡をかけて、よりオヤジにならなきゃいけなかった」と言っていましたが、この映画に出たおかげで「僕はアメコミを読んでいた方だと思ったけど、とんでもなかった。あらためてその奥の深さを知ったんだ」って。
ザックも彼を気に入っているのか、『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』(16)では、合衆国大統領の声だけでカメオ出演させていた。
ウィルソンに、ザックとワンのどういうところが好きなのかも聞いたんですよ。「ふたりの共通点は子供のようなところだね。大好きなことに対して驚くほど情熱的で一生懸命。とても愛らしいんだよ」ですって!
“愛らしい”って、やっぱりお父さんみたいなんですかね。このふたりに愛されるって、すてきですよねー。
── ウィルソンが注目されたのはいつからなんですか?
渡辺 『アラモ』(04)と『オペラ座の怪人』(04)に続けざまに出ていて、そのときはハンサムな新人さんという印象だった。でも、その後に出た『ハードキャンディ』(05)のカメラマンがほんとに情けない役だったんです。女子高生に復讐されるロリコンおやじですからね。縛りつけられて「あんたのアソコ、ちょん切ってやる」と凄まれて泣き声をあげる男だし、次に観た『リトル・チルドレン』(06)もケイト・ウィンスレットの浮気相手で、確か洗濯機の上で生々しいセックスシーンを演じてた。
── でも、『アクアマン』のときは、妙にハンサムじゃなかったですか?
渡辺 そうなんですよ! ブロンドのカツラを被っているから、情けないオヤジ度が限りなくゼロに近い。映画を観たとき、どこに彼が出ているか、すぐに分からないくらいでしたからね。
本人にも「ハンサムで驚いた」と言ったら、「本作の取材で、最高の誉め言葉だよ!」と照れまくってました。オーシャンマスターに比べると素顔の彼は、普通よりちょっとルックスのいいおじさんというくらいで、どちらかというと地味な印象ですね。だからなのか「僕はちょっと内気で、実のところ、プライベートな人間なんだ。イベントやパーティ、こうやってマスコミの前に出るより、家でゆっくりしたい方なんだよ」って。これは本音だと思いましたね。
『アクアマン』のインタビューのときは「ブロードウェイのミュージカルをやろうと思っている」と言っていたんですけど、次のニュースを聞いてないからコロナ騒動で延期なのかもしれませんね。彼はトニー賞にも二度ノミネートされていますから、歌の方も上手いんですよ。
ちなみに、次の作品を調べてみたら、『ミッドウェイ』で組んだエメリッヒのSF映画でした。彼にも気に入られたんだなーって(笑)。
※次回は9/22(火)に掲載予定です。
文:渡辺麻紀
Photo:AFLO
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