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京極夏彦「歌えばいいんだとわかりました」小西遼生主演ミュージカル『魍魎の匣』15日まで

ぴあ

イッツフォーリーズ公演 ミュージカル『魍魎の匣』より、左から 中禅寺秋彦役:小西遼生、美馬坂幸四郎役:駒田一 撮影:岩田えり

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劇団イッツフォーリーズのミュージカル『魍魎の匣』が11月10日、東京・オルタナティブシアターで開幕した。これまでにも漫画化、アニメ化、映画化と様々なメディアで展開されている京極夏彦による人気小説の、初のミュージカル化。主人公の京極堂こと中禅寺秋彦役を小西遼生が務め、上演台本・作詞・演出を板垣恭一、作曲・音楽監督を小澤時史が手掛ける。

物語は昭和27年が舞台。14歳の少女、柚木加菜子が駅のホームから突き落とされ、列車に轢かれてしまう。友人の楠本頼子と、たまたま居合わせた刑事・木場修太郎は搬送先の病院で、加菜子の姉で女優・美波絹子こと柚木陽子と会う。重体の加菜子を“匣”と呼ばれる美馬坂近代医学研究所に転院させる陽子。一方、小説家の関口巽は雑誌記者・鳥口里美とともに、武蔵野の連続バラバラ事件を追っている最中、“匣”のような建物にたどり着く。同じ頃、鳥口は新興宗教「穢れ封じ御筥様」を調査していて、拝み屋・中禅寺秋彦に相談を持ちかける……。

左から 関口巽役:神澤直也、鳥口里美役:大川永

……と、いくつもの怪奇的事件が重なる複雑なストーリー。原作はその分厚さから“弁当箱本”とも呼ばれる、長大な物語だ。これを作・演出の板垣が音楽の力も借りつつ的確に整理。謎めく怪奇的要素で観る者を幻惑させ、ラスト、中禅寺秋彦の“憑物落とし”=推理で論理的に謎が明かされるカタルシスまで、一気呵成に物語を描き切る。少ない小道具で次々と場面展開していくさまは小気味よいし、檻のようにも原稿用紙のようにも見える白い格子柄のセットにポイントとなる台詞を文字として映し出すことで、京極夏彦独特の言葉遣いや、重要なキーワードを観客の脳裏に焼き付ける手法も活きている。

何より、時に時間を飛び越え、時に説明を説明臭く感じさせなくする音楽の力が大きい。時間軸を行き来し事件の謎解きをするミステリとミュージカルというジャンルの相性の良さも改めて感じた。

中禅寺秋彦役:小西遼生

古今東西、数あるミステリの探偵役の中でも人気の高い京極堂に扮する小西遼生は、センセーショナルでスピーディに展開する物語世界の中で、ひとり落ち着いた喋り口でひときわ目立つ存在感。着物姿も似合い、この人の持つ少し暗い色気と相まって、ビジュアル的にも京極堂にぴったり。もちろん数々の大作ミュージカルでメインキャストを演じてきている経験に裏打ちされたその歌声からも、京極堂のカリスマ性が伝わってくる。おそらく原作ファンも納得の“京極堂っぷり”ではなかろうか。

榎木津礼二郎役:北村諒

何でも“見えて”しまう探偵、榎木津礼二郎は北村諒。ステップも軽やかにエキセントリックな榎木津をユニークに演じる。透明感ある歌声で繊細な少女像を作った頼子役の熊谷彩春、普段の飄々とした温かみを封印し、冷たい目を持つ天才医師・美馬坂幸四郎を演じた駒田一も印象に残った。

楠本頼子役:熊谷彩春

個性豊かな彼ら客演陣に対し、イッツフォーリーズのメンバーも多彩な魅力を発揮する。木場役の吉田雄は無骨な刑事をひたむきに、また一般的な感覚を持つ“普通の人”だからこその混乱を描いて好演し、関口巽役の神澤直也の、気弱そうながらどこか頑なに見える役作りも、役柄に合っていて良い。原作では男性である雑誌記者・鳥口を演じる大川永も、フットワーク軽く明るく、野次馬的好奇心の持つキャラクターを嫌味なく爽やかに演じて魅力的だった。

左から 関口巽役:神澤直也、榎木津礼二郎役:北村諒

時間と空間を自在に飛び越えられる「歌」の力

初日直前に行われた最終舞台稽古には原作者である京極夏彦も来場。その後の取材会で「ミュージカルにすると聞いて、どうなるんだろうと耳を疑った。この作品は説明が多い。でも「歌えばいいんだ」と今日わかりました(笑)」と話し、また「小説は書き上がった時点で作者の手を離れる。どのように受け取って、どう表現されても僕はまったく構わない。むしろそこから生まれた作品が面白いかどうかが大切。今回は面白かったので、OKです」と太鼓判。

演出の板垣は「『魍魎の匣』の存在はもちろん存じ上げていましたが、あまりの分厚さにずっと逃げていた(笑)。でも知り合いにやっぱり面白いよと勧められて読んだら、あの厚さをものともしない面白さで(人気があるのは)そういうことか、と思いました。同時に「ミュージカルにできるのでは」と考えてしまった。演劇における歌というのは、時間と空間を自在に飛び越えられるという特性がある。その力を使えば、複雑な人間関係をひとつの時間軸で見せられるのではと狙ったのが、今回の企みです」と、ミュージカル化に至った理由を明かす。

左から 中禅寺秋彦役:小西遼生、久保竣公役:加藤将

主演の小西は「僕も“レンガ”と呼ばれる原作本を読みました(笑)。あの面白い原作をミュージカルにして楽しんでいただくためにはどうすればいいのか、1ヵ月以上考え続けてきました。歌で説明をする部分が多く、ラストシーンなどは45分近くある。脳が休まる隙がまったくなく、今もゲネプロを終えて意識が朦朧としています(笑)」と苦労を語りながらも、「この(ミュージカルで伝える)手法がうまく作用したら、皆さんに複雑なエンターテインメントを届けられると、僕らは稽古初日からずっとワクワクしていました。皆さんの脳を思いっきり揺さぶりたい」と意気込みを。

ミュージカル『魍魎の匣』取材会より

さらには、「ありがたいことにチケットもけっこう早い段階で売り切れて、本当に期待が大きいんだなと感じています。このご時世、満席の客席を前に演じることができるのもなかなかない」と反響の大きさを語った榎木津役の北村に、京極が驚きのエピソードを明かす一幕も。いわく「榎木津礼二郎が熱帯魚に語り掛けるシーンがあったのですが、僕、今まで榎木津が熱帯魚を飼っていると小説に書いたことはないと思うんです。でも実はこの後、榎木津は熱帯魚を飼うことになっています」とのこと。「こっち(舞台)からアイディアをもらったと思われたら悔しいので明かしますが(笑)、それくらい皆さんがキャラクターを掴んでくださっているんだなと思いました。これ、ものすごく褒めてます」と笑顔で話していた。

公演は11月15日(月)まで、同劇場にて上演される。

取材・文:平野祥恵

イッツフォーリーズ公演 ミュージカル『魍魎の匣』
2011年11月10日(水)~11月15日(月)
会場:東京・オルタナティブシアター
※11月14日(日)公演はライブ配信も予定。

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