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大森靖子が考える、“カウンターカルチャー”のあるべき姿 「人間が進化するために、常に疑問を投げかける人が必要」

リアルサウンド

20/8/27(木) 18:00

 冬にリリースされる大森靖子のニューアルバム『Kintsugi』からの配信第2弾は、その名も「counter culture」。自身がカウンターカルチャーとみなされることの多い大森靖子ならではの楽曲……と思いきや、本人は「勝手に立ち位置がカウンターみたいになっちゃってる」と語る。文化人を自称したほうが楽だと考えながらもそれを拒み、偶像崇拝よりも実像崇拝を求める大森靖子は、リスナーに何を伝えようとしているのか。「商業カウンター」ではなく、常に疑問を投げかけてしまう「ナチュラルカウンター」だという大森靖子に話を聞いた。(宗像明将)

常に自分の中で、カウンターと破壊と再生をやっているだけ 

ーー『Kintsugi』からの配信は、「シンガーソングライター」の次が「counter culture」です。タイトルのテーマが大きい楽曲が続いて、自分の活動スタンスを表明しているみたいですね。

大森靖子(以下、大森):いい加減、自分のことを歌おうというアルバムなんで。でも、自分のことってみんな興味はないだろうなとも思っていて(笑)。よく「音楽に人生をかけてる人はそんなにいないのに、なんでみんなこの曲を聴くんだろう?」ってすごく思っていたんです。楽曲提供やアイドルもやってるから、自分のプロジェクトは自分自身に振れる環境だなと思っていて、難易度も上がっちゃうかもしれないけど、ちょっとまっとうに自分の奥に行けるような表現をアルバムでやろうとしているから、今の自分の仕事となると「シンガーソングライター」とか「counter culture」のような楽曲になっちゃう感じ。

ーーそういう自分の奥に行こうとしている歌詞を、Uta-Netで先行公開しましたが、反響はもう目にしていますか?

大森:「俺、わかってるぜ」的な感想は見ました(笑)。そこに誤解はなくて。歌詞って言葉だけじゃなくて、歌に乗せたら全然真逆の意味になったりする。まず歌詞だけを見て、曲を公開したら声を聴いて、感じ方が変わるのを楽しんでもらえてるのを見るのも楽しいです。「歌詞で深い内容を言っていると思ったら、ポップでキラキラな覚えやすいメロディで、やっぱりあまのじゃくな靖子ちゃんだな」とか。

ーー「シンガーソングライター」の歌詞は、日本語の面白い部分として反語を多用していましたが、「counter culture」はそこまで反語的な要素はないですよね。

大森:そうですね。今のアイドル業界って、カウンターをし続けるのが目的みたいになっている。そこを目的にしちゃったら終わりだなと思ってZOCもやってる。でも、カウンターをしていくことで文化の繁栄につながる。そこに自分が組みこまれているのかを考えたら、あんまり組みこまれていないというか、私が意識していない。勝手に立ち位置がカウンターみたいになっちゃってる。

ーーZOCも大森さんのソロも「カウンターじゃないの?」って意外がる人もいると思いますよ。

大森:人間が進化するために、常に疑問を投げかける人って必要で。私はそう思っちゃう人として作られた遺伝子がある。「カウンターで売れるぞ」じゃなくて、そうしないと死んじゃうみたいな。自分の中では、「商業カウンター」ではなくて「ナチュラルカウンター」。今の世の中がおかしいと思っている自分がいるだけで、世の中がおかしいというわけじゃないというか。常に自分の中で、カウンターと破壊と再生をやっているだけ。でも、なんかカルチャーになっちゃう、勝手に(笑)。もう「カルチャーです、文化人です」って言っちゃったほうがいいのはわかっているけど、そこにはなりきれない自分がいて、それを素直に曲に投影してみた。カウンターをもっとうまくやる人たちがいるんですよ。

ーー「商業カウンター」という意味だと、上の世代が若者にメッセージを歌わせて、それを聴いた若者が共感するという構図もあるじゃないですか。そういう構図って、大森さんにはどう見えていますか?

大森:その構図もZOCの発端に関わっているかもしれない。自分だったらイラついて壊してしまう気がする。偶像崇拝が嫌いで、実像を崇拝しろよと思っちゃう。人がひとりいることって、いがみあったり愛しあったりすることじゃん、って。「『ここは違う』って思ってもいいから、曲を愛せよ」って思っちゃう。「この人はこんなことを言うわけない」じゃなくて、「こんなとこもあるの? ちょっとおかしいけどやっぱり曲はいい!」のほうがいいから、「実像でありたい」というのがやっぱり強すぎるのかな。

ーーそういう大森さんのスタンスがあっての「counter culture」ですが、アレンジはすごくポップですね。アレンジャーの大久保薫さんには、どんなイメージを伝えましたか?

大森:自分が歌って気持ちいい曲が好みだし、やっぱり90年代のJ-POPを聴いて育っちゃったからっていうだけだと思う。アレンジャーのディレクションの相談は全部ピエール中野がやっているんです。私はイメージを言ったり、音を聴いてみて、その曲に合っていそうだと思ったらOKを言う感じ。

ーー〈あたしはちょっとおかしい/あたまがちょうどおかしい〉という歌詞に、「自分は他の普通の人間とは違う」といった強い自意識を重ねる人もいると思うんですが、ここはどういう意味でしょうか?

大森:たぶん私がおかしいんですよね。私はおかしくないつもりで生きているけど、それをおかしいって言われるから「おかしいんだ?」みたいな。自分の性質とか、アーティストとしてやるべきことを極めれば極めるほど、社会的にはおかしい人に見えてくる。良いものを作れる人のゾーンと、社会に出る人のゾーンって、ルールも言語も違う。私の中ではまったくおかしくないのに、そういうものを作ると、その言葉を「社会」のほうにスクショを貼られて「この人、やっぱりおかしくないですか?」って。親にも悪意なく「なんでこんな子に育っちゃったの?」みたいなことをずっと言われ続けていたし、学校でもそうだったから、「おかしいんだ?」みたいな。

ーーお母さんは、最近大森さんの活動を何て言ってます?

大森:「『歌うまくなってたよ』っていとこが言ってたよ」って言われました。

ーーそんな伝聞なんですか(笑)。

大森:あはは、「あんた、歌うまくなったらしいじゃん」みたいな(笑)。ライブも中野サンプラザに来てくれたことはあるけど、「昔、泣いて部屋で暴れとったのとステージでやっていること、変わらんがね」とか「ちゃんと音楽としてやっていけてる人と思えない。周りのバンドの人とかの支えのおかげでステージに立てていて音楽っぽく成り立っているんだから、人に感謝しなさい」と言われて。それはそうなんだけど、「そうかな?」みたいな。

ーー娘のことをまったく肯定しない(笑)。

大森:あはは、結婚の挨拶のときも「娘をよろしくお願いします」じゃなくて「どこがいいんですか?」って言ってました。

ーーお母さん、押しが強いんだろうなという感じはしますよね。

大森:似てる。私と一緒じゃんと思う(笑)。

今、カルチャーをやっているだけで「カウンター」って言えるすごい状況

ーー〈否定された分を肯定できたら世界は変わる〉という歌詞も、今の大森さんの活動スタンスであると思うんです。先日の「復活!大森靖子ミッドナイト清純異性交遊ラジオ」でも肯定についての質問が来ていましたが、最近「自己肯定感」という言葉が若者からとても出てくるようになった気がします。大森さんは「自己肯定感」という言葉をどう捉えていますか?

大森:自己を肯定する気がさらさらなくて、他人に承認してほしいから「自己肯定感」と言うんじゃないですか? 自分で自分を肯定しないと、他人がいくら肯定したところで無意味。たぶんそれに気づいているけど、自分を認めたくないし、他人に肯定されたい。

ーー大森さんは自分を肯定できていますか?

大森:私は自分のことを天才だと思っているけど、恋愛とかにおいては自分のランクをすごく低く見積もっていて。そういう経験があるから、みんなが言っていることはわかるけど、それは本当に損しかしない。自己肯定感というか、自分のランクを低く見積もると単純に損するじゃないですか。自分の言い値で買われるから、嘘でもいいから虚勢は張ったほうがいい。

ーー他人に肯定を求めて、自分で自分を肯定できない。そこには構造的な理由があるんですかね?

大森:私、愛媛県にいた頃にブスって言われたこと、一回もないんですよ。好きなようにおしゃれして、でも普通に彼氏はいたし、少なかったかもしれないけど友達もいたし。いじめられても、いじめてもいない。東京に来て音楽活動を始めてからめっちゃ言われて、「そうなんだ、知らなかった」みたいな。そういう評価基準に揉まれる環境が近くにあるということですかね? 「スクールカースト」みたいな、自分のランクを決めるような環境は存在していたけど、言葉は当時まだなかった。はっきり言葉にされるようになった今、よりひどい状況に追いつめられるだけだよね。

ーーそういう状況で、「私が自分を肯定するにはどうしたらいいの?」っていうファンの声があったらどう答えます?

大森:私は曲を作る仕事の人だから、「この曲かっこいい、作っている私、かわいいに決まっている」みたいな肯定ができる。そして「道重(さゆみ)さんのことが好きだから、道重さんのことを好きになれる感性がある私、どう考えても最高」ともなれる。自分というディテールをもっと分解したら? そのディテールすら否定しているから、外見や内面、持っているお金とか、わかりやすいものに引っぱられやすい。「この日はこの服を着るのが私だから」とかなんでもいい。自分で分解して「ここって自分の面白いところかもしれない」という可能性を見つける。そういう自己プレゼンする能力が圧倒的に足りていない感じがする。あと、自己プレゼンを流行に任せすぎ。はやりの言葉やフィルターを使うとか。でも、私の世代でも、たとえばファッションだったら「CanCam着てる系の人」「ギャル系の人」とかで人柄が決まったりして、わかりやすいけど暴力的でもあった。そこからどんどん細分化して、面白いファッションや原宿も渋谷もぐちゃぐちゃみたいになっていったはずなのに、言葉という点ではどんどん減っている。「陰キャ」「陽キャ」の2個しかないみたいな。そういう言葉が生まれることによって枠組みたいなものが破綻化されちゃう。人ってベン図だと思っているし、「この人とここは重なるよね」みたいなタイミングがあるのが人と人だと思っているけど、マス目のイメージみたいな言葉が多い。

ーー物事はいろんな重なりあいのはずなのに、点でしか評価されていない、みたいな?

大森:基本、解像度が低い。「電波が悪いな、Wi-Fiを強くしよう、家にNURO光を入れたほうがいい」みたいな(笑)。

ーー歌詞には〈誰にもみつからない孤独/そこにしか夢はない〉というフレーズもありますが、今はSNSやLINEもあって、良くも悪くも孤独になりきれない側面もあると思うんです。かと言って、大森さんは「孤立」は避けさせたいと思うんです。誰もが正しく「孤独」に向きあうにはどうしたらいいと思いますか?

大森:自分と似ているものや、自分の美意識的にOKなものをだけを承認していて、他人と違うということを認めるまでいっていない。簡単に言うと「喧嘩するから面白いよね」みたいな。「孤独」も、他人と承認しあわないから、良さもうまく伝わらないというか。自分に似ている人って楽だから近くに置きたいけど、それって結局その人に寄せちゃって、違う部分を削っちゃうから、自分がなくなっていくんですよ。だから自分と違う人、でも会話はできる人を近くに置いたほうが絶対に良くて。自分とは違うけどコミュニケーションは取れて、お互いの違いを理解しあえる関係性がいいよね。会社だって違う人がいたほうが絶対にいいし。ブロックするのは別にいいことだと思うけど、そうじゃない人間関係もあったらおもしろいよね、とは思う。

ーー歌詞の終盤に出てくる〈カウンターカルチャーやっぱり/あたしカルチャーじゃない〉の真意はどういうものでしょうか? 前回のインタビューからしても、大森さんの志向するものは「エンタメ」ではなく「カルチャー」ですよね。

大森:何か言われたら全部「違う」って言いたくなっちゃう(笑)。「エンタメかカルチャーか」って言われたらカルチャーだけど、でも「カルチャーか人間か」って言われたら人間だしな、みたいな。でも、カルチャーって人間が作るものだから(笑)。

ーーしかも、今回のMVを自分で作ろうとしたきっかけは何だったんですか?

大森:毎日弾き語りを撮って動画編集をしていたから、「ミュージックビデオ」じゃなくて「プロモーションビデオ」ぐらいのノリだったら作れるかもしれないな、って。できれば、配信する全曲のMVを作りたい。YouTubeに上がっていない曲って、世の中にない曲として扱われるから。

ーーMVには、歌詞にない「リスペクト」「盗作」「パクリ」「パロディ」とかの文字も出てくるじゃないですか。「counter culture」の中にあれだけ言葉を入れても、映像になると大森さんの中に足りない言葉がこんなにあるのかと思いました。

大森:足りないというか、すでにカウンターをしたくなっている。前の「ミッドナイト清純異性交遊ラジオ」でも、言ってることと全然違うことを、画面に文章で書いていて、自分でも怖いと思っちゃって(笑)。それを動画でもやっちゃってる。

ーー「counter culture」は、「シンガーソングライター」よりさらに共感を呼びそうだと思いました。聴き手にとって、映し鏡になりやすいというか。

大森:「シンガーソングライター」って、「マジックミラー」を引きあいに出していて。「『マジックミラー』では〈あたしの有名は君の孤独のためにだけに光るよ〉って言っていたのに、『シンガーソングライター』では〈おまえのことは歌ってない〉って言う。何でこうなっちゃったんだ?」って感想を見たけど、完全に「シンガーソングライター」がマジックミラーの機能だから、自分の思っていることが映されるだけ。「私のことを歌ってくれていなかったんですか? 裏切られました」と思ったら、そう聴こえるし。曲は自分と向きあうミラーのような装置だから、私はいなくていいと思っていて、昔から。私の言っていることをそのまま「そう思いました」って言ったら、それはその人のニュアンスで受けとっていて、それはもう私じゃない。私の言いたいことは一貫しているんだけど、言い方がいっぱい変わったりとかする。

ーー売れるって、多大な誤解が生みだされることでもあるわけじゃないですか。ガンガン誤解を生み出したいというところもあったりします?

大森:いや、説明したくなっちゃいます。でも、説明するのも諦めたから、「対外的な自分」と「アーティストとしての自分」を使いわけて、あざといところをやろうとしていたんですよ。一応Twitterでちゃんとした人格っぽいことをやろうとして、自分の創造の源流みたいなことはブログで、みたいにわけて。そしたら源流に触れていない人に「こんなやつだったんだ」ってびっくりされたから、初めから晒していくスタンスに最近変えました。「こういう人間ですから」って最初から言っておけば、裏切られたなんて言われないし。

ーー8月12日から突然ツイートが多くなってきたのはそういう心境の変化があったからですか?

大森:そう。もう開き直りました。

ーーツイートで「諦めさせる、消させる、見えないものはないと同じことになる、が通常営業ならあまのじゃくなので逆にやりたくなっただけです」と書いていましたね。

大森:ちょっとポジティブすぎる本を見て、病んじゃって。「こうできない自分」に私が病んじゃって。私は「死ね」って言われたら「死にたい」って思って傷つく人間だけど、別に自分ではネガティブなわけではないって思っていて。でも、たぶん他人からはネガティブって思われているんだろうな。そんな風に暴力的に二極化されるんだったら、詳細を全部描いてみせて、「はいっ!」って見せればいいかな、って思っちゃった。

ーーツイートで、大森さんの楽曲がTikTokで簡単に広がっていくことへの複雑な心境も表明していましたね。

大森:TikTok、初期のあたりから私の曲がめちゃくちゃバズってて。タイトルも変えて登録されてて、「IDOL SONG」が「キラキラアイドル」みたいな。で、TikTokから流れてきて増えたファンなんかまじでひとりもいない(笑)。バズるのは別に嬉しいけど、「かわいい」の質感の差みたいなものがある。一番醜いものをかわいく表現しているからかわいくなっているのが、私の曲の「かわいい」じゃないですか。その一番表層の部分だけをすくわれたら、曲を大事にしているファンが傷ついちゃう。ふだん大森靖子やZOCを聴いていない人たちがキラキラしたものを上げてて、「盗られた」みたいな感覚になっちゃうというのはよく聞いていて。「『傷つく』って言っていいよ」っていう環境を与えたかった。私が「嫌」って言ったら「嫌って思ってる自分、ダメじゃないんだ」って思ってくれるから。「この『かわいい』を特別にしている私、間違っていないんだ」って思ってくれるのは、すごく自分にとっても嬉しいこと。

ーー大森さんから見て、今カウンターカルチャーと呼べるものは、ご自身以外だと何でしょうか?

大森:今、カルチャーをやっているだけで「カウンター」って言えるすごい状況。コロナの影響もあって、音楽をやっているだけでカウンターになる(笑)。強い気持ちで音楽をやっていないと立てないから。どうやって生きるか模索して、何かを発明することって絶対的にカウンターじゃないですか。

ーー大森さんは音楽を辞める気はさらさらないし、それが一番のカウンターですよね。

大森:さらさらない(笑)。今できることはそれしかないですから。音楽を作り続ける環境を整えることですね。

大森靖子『counter culture』Music Video

合わせて読みたい 

・「シンガーソングライター」インタビュー
大森靖子が語る、“考える”ことの重要性 新曲「シンガーソングライター」に込められた真意

■リリース情報
「counter culture」
8月26日(水)配信リリース
配信はこちら

■ライブ情報
『大森靖子生誕祭 2020』
開催日時:2020年9月18日(金)恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 19:00/START 20:00
出演:大森靖子シンガイアズ/ジョニー大蔵大臣(水中、それは苦しい)/ぱいぱいでか美

<チケット情報>
FC限定チケット:全席指定 ¥7,777(ドリンク代別)※抽選受付終了
FCチケット販売期間:8/21(金)12:00~8/25(火)23:59
チケットぴあ
Pコード:0570-02-9999
※ファンクラブ会員限定
※3歳以下保護者膝上観覧無料。4歳以上および3歳以下でもお席が必要な場合はチケット必要。

オンライン視聴券(配信チケット):¥2,500(税込)
購入はこちら
※9月1日(火)18:00~販売開始予定
※アーカイブ期間:9月21日(月)23:00まで

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