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“道三ロス”もたらす本木雅弘や“ベビーフェイスの策士”川口春奈 『麒麟がくる』脇役のインパクト

リアルサウンド

20/5/17(日) 6:00

 いよいよ「長良川の戦い」が描かれるなど、前半戦の佳境に突入した大河ドラマ『麒麟がくる』。劇中の緊張感が高まるにつれ、視聴率も上昇してきた。

 本作に登場するのは、主人公の明智十兵衛光秀(長谷川博己)をはじめ、織田信長(染谷将太)、斎藤道三(本木雅弘)、斎藤高政(伊藤英明)、帰蝶(川口春奈)、今川義元(片岡愛之助)、松永久秀(吉田鋼太郎)など、歴史好き、大河ドラマ好きなら誰しも知っている人物が多いが、それぞれのキャラクターを際立たせるための様々な工夫がなされている。

【写真】ベビーフェイスの策士・川口春奈

 十兵衛こと明智光秀の前半生は謎に包まれており、歴史の表舞台に立つこともないため、周囲の人物が前に出ることになる。そのためか、『麒麟がくる』の登場人物たちは「脇役」と言えないほどそれぞれのインパクトが強い。独特のキャスティングも含め、歴史上の人物たちのこれまでのイメージと比較して楽しんでいるファンも多いようだ。

■「道三ロス」をもたらすMVP、本木雅弘

 最初に強いインパクトを残したのは、本木が演じた斎藤利政(道三)だ。序盤の「MVP」として道三を挙げる視聴者の声も多い。

 道三といえば、名もない油売りから一国一城の主にまで成り上がり、「美濃の蝮(まむし)」として恐れられた男。スキンヘッドにヒゲがトレードマークで、これまではいかにも猛者といった俳優たちが演じてきた。これまでに平幹二朗(NHK大河ドラマ『国盗り物語』)、西田敏行(フジテレビ系『信長協奏曲』)、芦田伸介(NHK大河ドラマ『信長 KING OF ZIPANGU』)、里見浩太朗(テレビ朝日系『濃姫』)らが道三を演じている。ベテランが多いのは、若き信長の才覚を見抜いて支援した後見人というイメージも強いからだろう。

 本木が道三を演じると聞いて、「これまでの道三と比べるとややスマートでは?」と思った人もいたかもしれないが、フタを開けてみたら見事な怪演ぶりを披露。とにかく圧がすごい。低音もすごい。ケチという面が強調されている部分がユニークだったが、なんといっても圧倒的だったのが、第2話で娘婿の土岐頼純(矢野聖人)にお茶を飲ませて毒殺する場面。その非道さと冷徹ぶりが視聴者に衝撃を与え、ネットは「悪モックン最高」「あのお茶は伊右衛門か」などと騒然。制作統括の落合将プロデューサーはこのシーンがクランクイン初日に撮影されたことを明かし、「恐るべし本木雅弘」と最敬礼してみせた(スポニチアネックス、2020年1月26日)。

 その後、織田信秀(高橋克典)と和議を結んだり、信長と会見して支援を約束したりするなど、いいところも見せた道三だが、15話で可愛がっていた息子の孫四郎(長谷川純)と喜平次(犬飼直樹)を高政に謀殺されると憤激し、顔面に血を塗りたくって咆哮してみせた。第16話で、昇る朝日を浴びながら十兵衛に「大きな国をつくるのじゃ」とメッセージを与える場面は、神々しささえ感じさせる名場面だった。すでに巷では「道三ロス」が囁かれている。

■誰も見たことのない信長・染谷将太

 もう一人、視聴者にインパクトを与えたのが織田信長を演じる染谷将太だろう。これまで「第六天魔王」を名乗る戦国時代のカリスマ・信長を演じてきたのは、渡哲也(NHK大河ドラマ『秀吉』)、舘ひろし(NHK大河ドラマ『功名が辻』)、小栗旬(フジテレビ系『信長協奏曲』)、木村拓哉(TBS系『織田信長 天下を取ったバカ』)、反町隆史(NHK大河ドラマ『利家とまつ~加賀百万石物語~』)、市川海老蔵(NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』)など、いずれも男臭く、本人もカリスマ性をまとった俳優ばかり。変わったところでは天海祐希(フジテレビ系『女信長』)、GACKT(MBS/BS-TBS『戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-』)も信長を演じている。

 染谷が演じる信長は、見た目からして丸顔で童顔。第9話では帰蝶との祝言を「池の水ぜんぶ抜く大作戦」ですっぽかして怒られたりしていたが、母と妻もいる前で父・信秀に松平広忠(浅利陽介)の首を差し出すなど恐ろしさも垣間見せていた(そしてやっぱり怒られた)。弟ばかりを溺愛する母・土田御前(檀れい)の愛に飢え、父からも認められていないと感じていた信長は「褒められたい男」であり、それがかなわないと妻である帰蝶の前でもおいおい泣いてしまう。落合チーフプロデューサーは「誰も見たことのない信長」「強さと弱さをあわせもった信長」と表現している。

 童顔で少年のような信長に当初は違和感を覚えていた視聴者も少なくなかったようだが、染谷の若さを爆発させる演技力に惹かれていった様子。第14話での聖徳寺の会見では百戦錬磨の道三を向こうに回して堂々と振る舞い、村木砦の戦いでは鬼神のような表情を見せた。染谷が演じてきた今の信長は、道三が言うように「したたかで無垢で、底知れぬ野心が見える」。この先どんな「魔王」に化けていくのかが楽しみでならない。

■ベビーフェイスの策士・川口春奈

 『麒麟がくる』がスタートしたとき、もっとも注目を集めていたのが帰蝶の存在だったかもしれない。当初キャスティングされていた沢尻エリカがトラブルによって降板することになり、急遽起用されたのが川口春奈だった。

 当初は駒(門脇麦)との微笑ましいやりとりが多かった帰蝶だが、何気に幼なじみの十兵衛には当たりが強く、あどけない顔でしれっと尾張へ信長の顔を見にいけだの何だのとハードなミッションを課していた。第11話では織田と今川の和議のため、足利義輝(向井理)のところまで向かわせるのだから尋常じゃない。なお、子どもの頃は兄に泣かされた翌日、十兵衛が城にやってくるのが遅かっただけで叱りつけたこともあったとか。

 帰蝶の「策士ぶり」がクローズアップされたのが第13話。道三との面会を渋る信長を後押しし、さらに伊呂波太夫(尾野真千子)にかけあって鉄砲三百丁の援軍まで与えたのだ。完全無比な「帰蝶プロデュース」ぶりに「さすがマムシの娘」「敏腕ぶりに震える」と視聴者は湧いた。第15話に至っては義父の弟・織田信光(木下ほうか)を焚き付けて、夫の敵・織田彦五郎(梅垣義明)を暗殺させるという悪女ぶりが爆発。蜜まみれの団子をぱくりとくわえる仕草が意味深だった。なお、ふたりが食べていた名古屋風のみたらし団子(関東風と違って団子が5つある)の蜜は甘くない。

 これも川口春奈のピュアな顔立ちで大胆な策を講じる意外性と、大河ドラマのヒロイン役に緊急リリーフするという日本シリーズの完全試合の途中から登板した岩瀬仁紀並みの裂帛の気迫による演技が生んだ現象だろうと思う。

 しかし、このような個性派揃いの登場人物をしっかり支えているのが、主人公・明智十兵衛光秀役の長谷川博己の演技力であることを忘れてはいけない。今はひたすら「受け」に回っている彼が、「攻め」に転じたときにドラマがどうなっていくのか、楽しみに待ちたいと思う。

(大山くまお)

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