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『パラサイト 半地下の家族』はいまこそリアル? 地上波初放送前にチェックしたい5つのポイント

リアルサウンド

21/1/8(金) 12:00

 『パラサイト 半地下の家族』は、この1年間で“伝説”になったといえる韓国映画だ。カンヌ国際映画祭で韓国初の最高賞を獲得し、アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の主要4部門を受賞、世界中で大ヒットを記録した、もはや韓国だけではなく、アジア映画初の偉業を成し遂げたモンスター級の作品である。そのフィーバーぶりは凄まじく、本作のモノクロバージョンが製作される事態となったほか、監督のポン・ジュノはアメリカのトークショーや雑誌の表紙を飾るなどメディアに引っ張りだこに。そして、本編にちらっと映っていたポテトチップスが売れまくり、スペインの小さな工場の生産が追いつかなくなるという珍事まで起こった。

 そんな『パラサイト 半地下の家族』が、日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」35周年記念作品として、1月8日に地上波初放送される。ここでは、2020年に大きな話題となった本作の魅力をふたたび振り返り、見どころや作品の背景を振り返っていきたい。

ポン・ジュノ監督がすごい

 韓国国立映画アカデミー出身のポン・ジュノは、とにかく才能に溢れた映画監督だ。劇場デビュー作『ほえる犬は噛まない』(2000年)をはじめとして、『殺人の追憶』(2003年)、『グエムル-漢江の怪物-』(2006年)、『母なる証明』(2009年)などなど、手がけた作品のほとんどが傑作に仕上がり、早くから世界で様々な賞を受賞している。だがそれでも、その作品群の内容の素晴らしさからすると過少評価ではないかと思えてくる。本作『パラサイト 半地下の家族』は、その意味において、カンヌ最高賞やアカデミー作品賞を獲得したことによって、やっとポン・ジュノ作品の価値が正当に評価された一作なのだ。

 しかし、なぜいままで本作のような成功を成し遂げられなかったのか。その原因はおそらく、作品の内容が“面白過ぎた”からではないだろうか。ポン・ジュノ監督作品は、芸術性と娯楽性、どちらもが圧倒的に優れているのが特徴だ。そのために作品がエンターテインメントとして受け取られ、芸術作品としての評価が遅れるることになったのかもしれない。そんな両極の魅力を放つ映画作家は、世界的にも稀有である。その才能は、黒澤明監督やスティーヴン・スピルバーグ監督などに例えられることもある。いまや、彼らと同じく誰もが認める世界的巨匠である。

 日本の漫画やアニメーション作品が大好きだという監督は、自分でも漫画を描いていた経歴がある。その技術は絵コンテにも発揮され、見事な構図を生み出し、そのユーモアが観客を楽しませる。本作でも炸裂している、ポン・ジュノの“漫画的感性”に注目してほしい。

予測不能の物語

 面白さの大きな要因になっているのが、監督の創造性やユーモアが発揮された脚本である。本作の主人公となるのは、ソウルの低所得者が住んでいることが多いという半地下部屋で生活を営んでいる、父と母、息子と娘4人の貧困家族だ。一家は、全員職にあぶれ、進学にも失敗し、ピザ屋の箱を作るという内職をするなど、極貧生活を送っていた。だが息子ギウ(チェ・ウシク)が身分を偽り、ある裕福な家庭・パク家の娘の家庭教師になったことから事態は変化し始める。

 ギウの手引きによって、娘のギジョン(パク・ソダム)が美術教師として同様に屋敷に出入りするようになると、一家はさらに策を弄してパク家の使用人たちを追い出し、父ギテク(ソン・ガンホ)が運転手に、母チュンスク(チャン・ヘジン)が家政婦になり、一家全員が身分を隠したまま同じ家から給金を受け取るという、異様な状況が完成する。まさに一家の“パラサイト(寄生虫)”生活が始まったのだ。

 これだけでも奇想天外な物語といえるが、本作はこの後、さらにすごいことが起きる。パク一家が旅行に行っている最中、「この家の人間は本当に騙しやすい」と大笑いしながら4人が豪邸でハメを外していると、夜中にもかかわらず何者かがインターホンを押す音が聞こえてくる。そこから、本作は誰にも予想できないような意外な展開に突入していくことになる。何が起こるのかは、ここでは言及しないが、そんな予測不能な物語もまた、ポン・ジュノ作品の特徴であるといえよう。

登場人物が面白い

 登場するキャラクター、一人ひとりの個性が圧倒的に際立っているのも、大きな魅力だ。ギテク、チュンスク、ギウ、ギジョンの個性はもちろん、なにかと会話のなかに英語を紛れ込ませてくるパク家の奥さまや、重度の“桃アレルギー”で物真似が得意な家政婦など、とにかく出てくる人物全てに強烈な個性が付与されている。ポン・ジュノ作品は、大きな役から小さな役に至るまで、魅力が溢れている。

 それは、単に面白いというだけではない。過去作『母なる証明』でも顕著だったように、ポン・ジュノ監督が描く人間には、表と裏の顔がある場合が多い。優しそうな人物がじつは狡猾だったり、あどけなく清純に見える人物に蠱惑的な一面があったりもする。そんな多面的なキャラクターたちの存在が、作品をも複雑で容易ならざるものにしているのだ。

 人間とは、なんと面白く、そしておそろしい存在なのか。この多面性は、本作の展開を大きく左右することになっていく。

“半地下”と豪邸

 そんな本作が描いているのが、現代の過酷な社会問題である。ポン・ジュノ作品は、いつでも内容に社会の歪みを反映させているのだ。

 本作で社会問題の象徴となっているのが、ギテクたち一家が住んでいる“半地下住宅”である。韓国では朝鮮戦争を経て、70年代に入ってから爆撃の対策として地下室と半地下部屋の建築が義務づけられることになったという。その後、ソウルの経済が成長することで人口が増え、半地下部屋は安く貸し出されることが多くなった。現在では法律が変わって半地下部屋が造られる機会は減ったが、古い建物に残る賃貸住居は、いまだに低所得層の生活の場となっている。

 異様なのは、部屋の高い位置にトイレが置かれている光景である。これは、下水管の位置が高いために、トイレを床に設置できないという理由があるようだ。そんな不便で薄暗く、じめじめした環境に、一家は身を寄せ合って生きているのだ。劇中では、大雨が降ったことで半地下に大量の汚水が流れ込み、大騒動が起きる。一方で、高台にあるパク家の豪邸はそんな天候でも何一つ不自由なく優雅に暮らせる状態にあることが、対比として示される。

 だが、果たして半地下に住む者と高台に住む者に、それほどの違いがあるのだろうか。本作で描かれるように、半地下の家族たちは裕福なパク家を手玉に取ることができるくらいに優秀だ。仮に彼らが装っている身分そのままの職に就いていたとしても、成功できる力はあるように見える。しかし、半地下に住む者たちはなかなかその境遇から抜け出せないのが原因だ。

 一家はパク家のように、恵まれた環境から余裕を持って事業を始められる余裕は存在せず、家庭教師を雇うこともできない。結果として、貧乏な人々は貧乏なままとなってしまう。社会のなかで経済格差が固定化してしまうのだ。一家が半地下から抜け出せず、匂いが染み付いている描写というのは、そのような逆転不可能な社会の現状を間接的に映し出しているといえよう。匂いにまつわる場面でギテクが怒りを示すのは、そんな社会のシステムそのものに対してなのかもしれない。

いまこそリアルに感じられるテーマ

 ここで描かれていることは、“半地下”という分かりやすい象徴が存在しない日本にも当てはまるはずだ。資本主義経済や、政治と企業の癒着によって、経済格差が顕著になり、貧乏人はますます貧乏になっていく。生存を脅かされる人々は、日本社会に増え続けている。

 とくに現在、新型コロナウイルスが蔓延している状況では、経済状況や生活の余裕などによって、治療や検査などへのアクセスや、ウイルス対策などに違いが出てくるような状況下で、本当に命の選別が行われる可能性も出てきているのではないか。また、政府の支援や経済対策にも偏りがあり、コロナ禍の直撃を受けている一部の業種では、経済的に破綻を迎えている人たちも多い。そんなとき、本作『パラサイト 半地下の家族』は、ただの映画ではなく、現実の状況を映し出した過酷な作品だったことを、われわれは実感するはずである。

 本作はたしかに面白い。しかし、このような現実とつながる部分があるからこそ、その娯楽性や優れた演出が、自分のことのように感じることができる。だからこそ本作は、同じ問題を抱える海外の様々な国で大きな評価を得たといえるだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■放送情報
『パラサイト 半地下の家族』
日本テレビ系にて、1月8日(金)21:00~23:34放送 ※放送枠40分拡大
監督・脚本:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、チャン・ヘジン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ソンギュン
チョ・ヨジョン
声の出演:山路和弘、神木隆之介、津田真澄、近藤唯、恒松あゆみ、東地宏樹、早見沙織、小林由美子
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