Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

イケメン枠とお笑い枠とマスコット枠? 『スカーレット』林遣都の汎用性の高さ

リアルサウンド

19/12/4(水) 6:00

 新シリーズ『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)では舞台を「空」に変え、キャストも一新。牧凌太が出演しないことから、多くの“OL民”を落胆させた林遣都。そんな彼が現在、新たな魅力を見せているのが、朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)だ。

 彼が演じているのは、ヒロイン・川原喜美子(戸田恵梨香)の幼馴染・大野信作役。子役時代は本作が俳優デビューの中村謙心が、器量良しでお坊ちゃんで、気弱で繊細ながらも、実は好奇心が強そうでお調子者のところがありそうな少年を魅力的に演じていた。林遣都はその面影を引き継ぎつつ、さらなる変化を要求されるポジションにある。

【写真】学生服姿の林遣都

 大人になることでまず注目されるのは、ヒロインにとってどういった関係性の幼馴染かということ。朝ドラには異性の幼馴染が数多く登場しているが、『花子とアン』の窪田正孝、『おひさま』の柄本時生のように、ヒロインに思いを寄せながら見守り続けるパターンか、『ごちそうさん』の和田正人のように、ケンカもしながら、困ったときには助けてくれる「親友以上恋人未満」のパターンが多い。

 本作の信作の場合、まず前者ではない。後者については、終盤でヒロインにプロポーズした『ごちそうさん』パターンもないわけではないが、できれば恋愛関係に発展してほしくないというのが、多くの視聴者の願いではないだろうか。

 なぜなら、喜美子と、幼馴染のワガママ可愛いお嬢様・熊谷照子(大島優子)と3人1セットの関係性が構築されているため。これは、『ひよっこ』の有村架純、泉澤祐希、佐久間由衣の関係性にも近いが、『ひよっこ』トリオの場合、ヒロイン置いてけぼりで、二人の間に片思い→失恋があった。『スカーレット』では照子はあっさり結婚しているし、信作は「早く結婚する」と言い続けているわりに今も独身だ。その3人の中にはどこにも恋愛感情がなく、性の匂いのない平和な世界が広がっている。

 そして、この異性の幼馴染3人組の絶妙な距離感を握るのが、林遣都演じる信作だ。特におばあちゃんが亡くなった後には、見事な「キャラ変」ぶりを見せる。スーツ姿で二人の前に現れ、「ついにお前らも『信様、信様』言う日が来たぞ。きゃ~~!」とおどけてみせる。見た目はすっかり男っぽくなっているとはいえ、育ちの良さそうなお坊ちゃん的雰囲気は、少年時代のまま。少年時代に上目遣いで話す内気な雰囲気の奥底からじんわりと滲んでいた「お調子者」感が、ここにきて一気に噴出したようなハジケぶりで、そのキャラ変の「ありえそう」具合は、説得力たっぷりで実に巧い。

 頑張ってキャラ変したというよりも、内に秘めていたものが表面化しただけに見える。しかも、彼の「お調子者」ぶりが存分に発揮されるのは、おそらく彼にとっての「ホーム」=3人組のときだけだろう。肝がすわった低音ボイスで包容力たっぷりの働き者・喜美子を真ん中にはさんで、照子と一緒にはしゃいだり、おどけてみせたりする様は、子ども時代と見事に同じ。異性の幼馴染が大人になってからもここまで同じ距離感でい続けるのは、本来難しさもあるが、林遣都のナチュラルな佇まいは、そこに違和感を生じさせない。

 女性には案外モテそうだが、それはたまたま優しくイケメンなお坊ちゃんであるため。職場である役所の上司や男性の同僚と一緒にいるときよりも、むしろ女性とのコミュニケーションのほうがスムーズなんじゃないかと思える空気が、信作にはある。そして、根っこの部分の内気さや内弁慶であること、優しさ、友達が少ない「コミュ障(コミュニケーション下手)」具合は、相変わらず健在に見える。少年時代から成長にともなって変化した部分と、変わらない根っこの部分とが一人の人物の中に違和感なく見えるのは、脚本の巧さに加え、やはり林遣都の演技力あってのものだろう。

 ちなみに、『スカーレット』での信作は、いわゆる朝ドラの異性の幼馴染ポジションだけでなく、もう一つ重要な役割を担っている。それは、信楽での「お笑い」パートだ。大阪編では、水野美紀、三林京子、溝端淳平、羽野晶紀、木本武宏など、「荒木荘」の人々が楽しくイキイキとしていて実に魅力的だった。それだけに、信楽に戻り、寂しさや空虚感を覚えた視聴者は多かったろう。その穴を埋めるのは、川原家ではなく、信作を中心とした大野家である。

 『まんぷく』では、シリアスとコミカルのバランスが実に秀逸で、展開がシリアスになると「缶詰の野呂さん」や「白馬の歯医者さん」、「武士の娘」が活躍したりと、笑いを提供してくれた。『スカーレット』の信楽部分ではその役割が信作で、彼が登場するだけで笑いが起きたり、画面が華やかになったりする。

 「イケメン」枠と「お笑い」枠と「マスコット」枠も担っていそうな林遣都。その汎用性の高さは注目に値するものだ。

(田幸和歌子)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む