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窪田正孝の主役っぷりを堪能 『初恋』で見せた“0”から“100”への起爆力

リアルサウンド

20/3/7(土) 10:00

 現代におけるバイオレンス映画界の旗振り役ともいえる三池崇史監督による“初のラブストーリー”とあって、大きな注目を集める『初恋』に主演の窪田正孝。本作は彼の新たな代表作と言えそうだ。

 本作はラブストーリーという触れ込みではあるものの、あくまで、あの三池監督作。単純に男女の恋愛模様が描かれているというわけではもちろんない。主な舞台となるのは夜の歌舞伎町で、猥雑な空気が漂うなか、裏社会で生きる者たちが入り乱れる。武闘派ヤクザに、悪徳刑事ーーそんな、言葉の響きだけでも十分に恐ろしい連中のなか窪田が演じるのは、余命宣告をされたボクサー。彼は失意のなかで、夜の裏社会に囚われの身となっている少女(小西桜子)と出会うのだ。

 “余命いくばくもない◯◯”といった存在は、映画だけでなく、小説やマンガ、ドラマに演劇と、これまでにも数多くの作品に登場してきた。思い浮かべるものは人それぞれだろう。タイムリミットが定められているからこそ、限られた“生”をどうにか謳歌しようという者や、ヤケクソになって大事を成し遂げようと奔走する者などがある。窪田の演じるボクサーのレオは、この後者に当てはまる。元来レオは孤独な存在で、素人目には生死をかけたものと思えるボクシングの試合でさえも、つねにしっとり平常心。そもそも彼には“生”といったものが希薄であるように思う。ところが、余命宣告されたことによって、この“生”の重みが変わってくるのである。

【動画】窪田正孝の拳が炸裂『初恋』予告編

 窪田本人の持つ朴訥さはこのキャラクターにマッチし、彼の体現する主人公像はニヒリズム的なものを帯びていく。そんな窪田演じるレオは人生に対して投げやりになりになっていくわけだが、定められたタイムリミットのなか同じように孤独な少女と出会うことで、淡い恋愛模様のはじまりを予感させる。だがとうぜん、一筋縄にはいかない。少女を守るためには、危険な連中を相手にするということである。

 この設定と展開は、観客のレオに対するヒロイズムとセンチメンタリズムを煽るものの、本作にはびっくり仰天な、“医者の誤診であった”という展開が待っている。まさかのだ。レオは自分がまったくの健康体であることを知り、途端に“死”が怖くなる。つまり、“死”とは、“目の前のヤバい連中”のことだ。しかしここからが、俳優・窪田正孝の本領発揮である。感情の爆発する瞬間を演じさせて、彼の右に出るものはそういないだろう。

 演じる役が多岐にわたる窪田だが、これまでにも多くの作品で、感情の爆発する瞬間を見せてきた。『僕たちがやりました』(2017/フジテレビ系・関西テレビ)のトビオ役、『犬猿』(2018)の金山和成、そして『東京喰種トーキョーグール 【S】』(2019)のカネキなどは、それが近年もっとも顕著であったように思う。そして、今作『初恋』のレオとも重なる。いずれもどちらかといえば目立たない人物ながら、極限状態にまで追い込まれたときに、ある種の“チカラ”を発揮するのだ。それは作劇上のことでもあるが、“0”から“100”へとテンションを振り切れさせる窪田の演技にこそ、俳優としての力を感じる。

 そして『初恋』での窪田の俳優としての力の大きさを感じられる点として、やはり彼は主役の器を持った人なのだ、ということを述べておきたい。本作は、一人の孤独なボクサーの物語としてはじまりながらも、他のアクの強いキャラクターたちの乱入、いくつものストーリーラインの交錯により、彼の存在は薄れていくように感じる。キャラ設定上、彼がもっとも平凡な存在だからだ。ところが、先述した“医者の誤診”を知ったことで、死ぬのが怖くなり、たちまち“小物キャラ”に変化。この時点でかえって存在感は増してくるのだが、さらに、無感情だったはずがそれを起爆させることによって、また一気に主人公の座に躍り出る。これらはすべてプロット上で決まっていることではあるはずだが、一度主人公の座を手放し、また手にする様は、多くの人々が入り乱れる群像劇である本作において、主役を張ることができる俳優として「さすが」の一言だ。俄然、来季の朝ドラ『エール』(NHK総合)への期待も高まる。

 三池映画“初”のラブストーリーにして、並み居る俳優陣を主演として率いた本作は、冒頭で述べたように窪田正孝の新たな代表作と言えるだろう。ちなみに、公開中の『ファンシー』でも窪田は小西桜子と共演しているので、彼女に対する彼の演技アプローチの違いをあわせて楽しむのもありだろう。

(折田侑駿)

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