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『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』はScreenXと相性抜群! ワイドな視界が生む効果

リアルサウンド

19/7/18(木) 15:00

 映画館の鑑賞形態の多様化は映画に何をもたらすのか。多くの映画がこの実験に参加して様々な試みを行っている。

参考:【ネタバレあり】『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』がヒーロー映画最先端となった理由

 マーベル映画最新作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』もその多彩な試みに参加。今作は、前方だけでなく両側面のスクリーンにも映像が投影される「ScreenX」版を用意している。『アベンジャーズ/エンドゲーム』の興奮が冷めやらぬ中、早くも『エンドゲーム』後の世界を語る作品として、ファンの注目度も高い本作だが、両壁面にも映像が映し出されることでどんな効果を得たのだろうか。

 ScreenXとは、前方の通常スクリーンに加えて、左右の壁面にも映像が投影され、3面のスクリーンを合わせて270度という広い視界を確保する、次世代型映画上映システムだ。2012年に開発され、現在では世界19カ国に合計229スクリーンあるそうだ。日本では、ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場(東京都)、ユナイテッド・シネマ 福岡ももち(福岡県)、ユナイテッド・シネマ PARCO CITY 浦添(沖縄県)、シネマサンシャインかほく(石川県)、シネマサンシャイン下関(山口県)の5箇所に加え、7月19日から池袋にオープンする「グランドシネマサンシャイン」には、4DXと融合した体感型シアター「4DX with ScreenX」も開設される。

 3Dは奥行き、4DXは座席の仕掛けで臨場感を高めるというやり方に対して、ScreenXは、映画本来の持ち味である、視覚へ訴える効果を最大限に活かすべく、極限まで左右の視界を広げることで、映画の世界への没入感を高めている。映画は、スタンダードサイズからヴィスタサイズ、そしてシネマスコープと視野角を広げることで表現の幅も拡げてきたが、そんなスクリーンの発展の歴史に沿った正当な進化と言える。

 そんな最新のスクリーンは、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』という作品にどんな効果をもたらしたのかを体験してきたのでここでお伝えしたい。今回は、ScreenXシアターの座席の一部に『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』特製カバーシートが設置されている、東京都にあるユナイテッド・シネマ アクアシティお台場で鑑賞した。

■270度の視界でヨーロッパの名スポットが堪能できる

 『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』で描かれるのは、『エンドゲーム』後の世界だ。サノスを倒し、消えた世界の半分の人々を取り戻したが、代わりにヒーローたちを喪失した世界。取り戻した日常の中で、スパイダーマンことピーター・パーカー少年がその喪失と向き合い、ヒーローを継承する責任に直面し、葛藤する姿を描いている。等身大の高校生であるピーターの青春映画としても秀逸で、『スパイダーマン』シリーズらしいコミカルなシーンも豊富、ヒーローたちが取り戻してくれた日常が、かけがえのないものであることを実感させてくれる。

 今回の主な舞台は、お馴染みのニューヨークではなく、ヨーロッパの都市だ。高層ビルがひしめく摩天楼の空中をさっそうと飛び回る代わりに、ヴェネチアやプラハ、ベルリンにロンドンなどヨーロッパの都市をスパイダーマンが駆け巡る。

 ヨーロッパの都市が舞台である、というのは実は『スパイダーマン』シリーズにとって大きなハンデだ。上下左右、縦横無尽に飛び回るスパイダーマンのアクションは、高低差の激しい高層ビル群でこそ最も映えるからだ。今回の舞台となった都市は、ニューヨークほど高い建物が多くない。しかし、そんなハンデをScreenXが補ってくれた。

 具体的には、高い建物が少なく上下の動きがやりづらい分、両サイドのスクリーンを使って、左右への開放感を高めることでアクションの迫力を補うことを可能にしていた。スパイダーウェブを使って飛び上がった時も、空を広く映せるという大きな利点があり、観ていて本当に空に飛び上がったような飛翔感を感じた。

 また、ヴェネチアやロンドンの有名スポットを270度の視界全体で堪能できるのも良い。今作の物語は、ピーターたちが夏休みを利用してヨーロッパ旅行に出かけるという筋書きのため、観光映画の側面もあるのだが、各都市の観光スポットを視界全体で楽しめる分、旅行気分も高まる。例えば、ゴンドラに乗ってヴェネチアの運河を進むシーンでは、船に乗った人の目線にカメラが据えられ、本当にヴェネチアの運河にいるような気分になれてしまう。ScreenXで製作される作品はハリウッドの大作が多いが、都市や世界遺産、それから美術館のドキュメンタリー作品などにも向いているかもしれない。

■ScreenXはさながらフライトシミュレーション

 ScreenXは、全てのシーンで両壁のスクリーンを使用するわけではない。「ここぞ」という見せ場の時に両サイドのスクリーンを開放し、通常のシーンでは前方のスクリーンのみ展開する。これが案外、作品にメリハリを与える効果になっている。迫力満点のアクションシーンでは、両サイドのスクリーンを展開して没入感を高め、人物の感情にフォーカスしてほしいシーンでは前方のスクリーンだけ展開する。両サイドのスクリーンがスウッと消えると、前方への集中力が高まるので「ここは、人物の芝居を観て感情にフォーカスすればいいのだな」とわかる。

 また、ScreenXの広い視界が、観客に与える最も大きな変化は空間の知覚だ。両サイドのスクリーンを展開した状態で、カメラがゆっくりと上昇していくカットなどは、本当に劇場全体が浮き上がっていくような感覚が得られる。例えるなら、飛行機のフライトシミュレーションのような感覚だ。本当に空間全体で移動しているような気分になる。

 本作では、この感覚が存分に活かされた。『スパイダーマン』は空中戦が多い作品なので、空間全体が浮遊している感覚は、ピーターとともに空に舞い上がる感覚をより強化してくれる。

 とりわけ、ScreenXはドローンによる空中撮影と相性が良いと感じた。スムーズな動きで上下左右に動くドローンによるカメラワークは、270度の視界を経て、観客はちょっとしたヘリの遊覧飛行気分を与えてくれる。

 総じて、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』はScreenXと非常に相性の良い作品だった。本シリーズはまだまだ続くようなので、今後のシリーズでも、このワイドな視界を用いた、驚くような映像を作り続けてほしい。本作を通常のスクリーンで鑑賞した方も、もう一度ScreenXで鑑賞してほしい。1度目の鑑賞時よりも、さらに深く作品世界に入り込めるはずだ。(杉本穂高)

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