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立川直樹のエンタテインメント探偵

日本の夏を満喫できた“江戸ワンダーランド”。主人公と若き日のデヴィッド・ボウイが重なったクライム青春ムービー『永遠に僕のもの』

毎月連載

第31回

『タイムトラベルアドベンチャー2019「江戸の水涼遊び」「江戸料理の夏」』花魁道中

それにしてもよくここまで移動して、しかも色目の濃いばかりを目にし、耳にした10日間だったなと日記とメモを見返すと半ばあきれ気味に思う。

口あけは日光江戸ワンダーランドの“夏の宴”で楽しんだ江戸のエンタテインメント。“水先案内”でも紹介したが、山本ゆきのとこうの紫の2人の三味線の演奏と唄に江戸村芸者の踊りが絡む演し物から、水芸、花魁道中はその場所で観てこそのものだったし、きっちりと文献をチェックして再現された江戸料理(柳川穴子膳が絶品)とともに日本の夏が満喫できた。

『タイムトラベルアドベンチャー2019「江戸の水涼遊び」「江戸料理の夏」』水芸座

そしてそこにつながったのが8月2日にセルリアンタワー東急ホテルの中にある“金田中 草”で催された『An evening of GEISHA』のVOL.2。大人の遊ぶ場所をきちんと作ろうという思いで、3月に1回目のトライアルをした後、いよいよ月1回の公演をスタートできることになったのだが、“七夕の宵”(「古くからの祭事は旧暦で考える方がしっくりきます。本来の七夕はひと月遅れのこの頃。今回のテーマは星に決まります――」金田中主人、岡副真吾の案内文より)というお題のもとに赤坂芸者衆のきっちりした芸とデヴィッド・ボウイの『スペイス・オディティ』や『スターマン』などが違和感なく溶け合う空間は気持よい酔いをもたらしてくれた。

昼間に試写室で観たペドロ・アルモドヴァル制作の、昨年アルゼンチンでNo.1ヒットを記録したクライム青春ムービー『永遠に僕のもの』の主人公である、まるでダンスを踊るように殺人をはじめとする犯罪を繰り返していく天使のように美しい17歳の少年カルリートスが若き日のデヴィッド・ボウイと重なり合ったのも偶然以上の何かかも知れない。

『永遠に僕のもの』(C)2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO

青森で訪ねた棟方志功記念館と寺山修司記念館

その不思議な酔いがまだ少し残る中で翌朝には青森に移動。夜のねぶた祭りはハネトの格好もして十分に楽しめたが、ねぶたの始まる前に行った棟方志功記念館の充実した展示は想像をはるかに超えていた。

「身体ごと板画にならなければ、本当の板画が生まれてこない。わたくしを化物にされて欲しいという心持で板画生まして行くのです」と凄い言葉を口にしている棟方は青森が生んだ世界に誇る板画家だが、板画のみならず倭画、油絵など幅広い棟方作品がほぼ網羅され、板木や道具も観ることができる。また、ねぶた好きの棟方がハネトの格好で跳ねる写真などもあり、「ねぶたが目の前に迫る時は、ベートーベンの第九番だ。去っていく姿は何とも淋しい」というキャプションの言葉はねぶたを見る前の前菜としては最高だった。もうひとつ加えておくと、『棟方志功の世界』というドキュメンタリー映画も観ることができるが、その中で何と棟方はベートーベンを口ずさみながら板を彫っていた。完全にロックのノリで、年間4回展示替えがあるというから再訪は決まりだ。

棟方志功記念館 《青森ねぶた図》 1960年 倭画

そして翌日は青い森鉄道の2両編成のローカルトレインで三沢に向かう。寺山修司記念館開館22周年を記念して開催される夏のフェスティバルの中の企画である『音楽とともに振り返る寺山修司と1969年』と題されたトークショーに出演するためだったが、『寺山修司の1969~アジテーションの時代~』という企画展は寺山が脚本を書いた日本版『ヘアー』が何枚オクラ入りになってしまったのかがわかる資料や貴重なポスターや本などで構成されたもので、この手の記念館では間違いなく日本で5本の指に入ると太鼓判を押せる常設展も何年ぶりかでゆっくり観て、すっかり寺山ワールドにはまってしまった。一緒にトークをしたJ・A・シーザーのスペシャルライヴも闇が似合うシーザーの音楽を陽光の下で聴くと不思議なトリップ感があって、得難い体験ができた。

特別企画展2019 vol.1『寺山修司の1969 〜アジテーションの時代〜』展示風景

終了後は三沢の夜の街を散策。米軍キャンプがあるので、コッポラの『ワン・フロム・ザ・ハート』のような世界が広がっていて、“Carbs”というバーでは『ウッドストック』の映像が流れていた。

何だか全部がつながっているなと思いながら東京に戻り2時からは赤坂ACTシアターで劇団☆新感線の“いのうえ歌舞伎”『けむりの軍団』と夜は蜷川実花の最新監督作『人間失格 太宰治と3人の女たち』。古田新太が江戸村を歩いている姿が頭をよぎり、夏景色の間を走って行った青い森鉄道の車窓に太宰治の顔が映る映像が浮かび上がってきた。

作品紹介

『タイムトラベルアドベンチャー2019「江戸の水涼遊び」「江戸料理の夏」』

日程:2019年7月20日~8月31日
会場:江戸ワンダーランド日光江戸村 内

『An evening of GEISHA』

日程:2019年8月2日
会場:セルリアンタワー東急ホテル 金田中 草(2F)

『永遠に僕のもの』(2018年・アルゼンチン=スペイン)

2019年8月16日公開
配給:ギャガ
監督:ルイス・オルテガ
出演:ロレンソ・フェロ/チノ・ダリン/ダニエル・ファネゴ/セシリア・ロス

棟方志功記念館『【夏の展示】御鷹々々―息づく生命』

会期:2019年6月18日~9月23日
会場:棟方志功記念館(青森県)
※『【秋の展示】志功とチヤ』は2019年9月25日~12月8日、『【冬の展示】超性の者達々』は2019年12月10日~2020年3月8日に開催。

『【夏の展示】御鷹々々―息づく生命』チラシ

特別企画展2019 vol.1『寺山修司の1969 〜アジテーションの時代〜』

会期:2019年4月13日~10月14日 ※月曜休館(祝日の場合は翌日)
会場:寺山修司記念館エキジビットホール

特別企画展2019 vol.1『寺山修司の1969 〜アジテーションの時代〜』イメージビジュアル

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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