峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら
怪談ライブで感じた「言葉で表せないこと」「空気」のすごさ
毎週連載
第144回
先週、「怪談とかオカルトが今キテる」って話をしたけど、今週もその続きです。
改めて話すとさ、人々が「わかりやすいもの」ばかりを求め、あるいはスマホやネットで「わからないことはない」と思っている時代じゃん、今って。そういう時代は特に、神秘とかオカルトとかの「わかりにくいもの」は濃さを増すし、そういう「わかりにくいもの」を人は潜在的に求めるようになるってこと。どうしてそんなことが言えるかって言うとさ、僕自身がそうだから。昔からオカルトとか心霊とかの話は好きだったけど、今ほどではなかったから。でも、今はこういう「言葉にできないこと」「科学で証明できないこと」しか興味がないし、気持ちが持っていかれているんですよ。
というわけで、特に今年に入ってからハマっているのが怪談ライブなんだけどさ。「怪談師」と言えばまず稲川淳二さんが有名でしょう。もともと怪談はあったけど、稲川さんの活動によって広く親しまれるようになった世界なんだ。現代に稲川さんが切り開いたものと言っても誰も否定しないと思う。
そういう、「稲川さんの怪談」に影響を受けた若い世代が大人になってさ、「俺もやる!」と自分たちも始めているのが今で、まさに音楽で言うところのポストロックのような状態。実はかなり盛り上がっているんですよ、怪談の世界は。怪談師を名乗る人が全国にいて、それぞれYouTubeで配信したり、ライブをやったりして、様々な怪談が展開されてるんだよね。
また、お笑いの世界みたいに日本一の怪談師を決めるトーナメントもあって、これが凄くて。内容を明かすのもイヤだし、僕自身本当にハマってるものだから、こうやって話をするのもちょっと気が引けるけど、あえて言うと、マジですごいよ。怪談師によっては、その語りだけでなくて空気まで変えちゃう人もいるんだから。
日本一の怪談師を決めるトーナメントのライブに行ったんだけど、ある怪談師で凄い人がいて。ステージに出てきてマイクの前に座った瞬間、場の空気を変えちゃったの。まだ何も話をし始めているわけじゃないのに、明らかに空気で観ている人たちを持っていっちゃうんだ。そのステージを生で観てた僕はさ「マジで!? ヤベェ!」と思ったけど、この後の怪談自体も超怖くて素晴らしかった。
このライブはトーナメント方式でさ、ライブを観に来てる人たちが、出場した様々な怪談師に対し「一番怖い」っていう人に投票できるものだったんだけど、僕は迷わずその空気を変えてしまうほどの怪談師に一票を入れた。審査員たちもこの人に入れた方が多かったらしい。
一方、このライブはネットで同時配信もされててさ、ネットで観てる人も投票できるシステムだったんだけど、ネットユーザーにはこの「空気」が伝わらなかったみたいで大多数のネット票によって別の人が優勝することになっちゃった。
確かにさ、その場の「空気」って、言葉では表現できないことだし、画面を通してでは伝わらないものだと思う。でもさ、そういう「生」のこと、「うまく言葉にできないこと」、「よくわからないこと」ってこれからの時代、かなり重要で実はみんな潜在的に求めているんじゃないかと思う。
それこそ最初に話した神秘とかオカルトとかの「わかりにくいもの」の濃さが増すって話にも繋がると思うけど、だからこそ、こういった「よくわからないこと」に新しい時代を作り上げるヒントがあるようにも思う。言葉ではうまく言えないけどね。でも、これだけスマホだのネットだのが浸透した今は特に「人々が面白く感じられること、興味を持てることって言えば、それしかない」とも思ってる。
少なくともさ、うちの芦沢(マネージャー)みたいに四六時中スマホをいじってさ、そこにある答えが全て正しいと思ったら大間違いなんですよ。というわけで僕はこれからも「科学では証明できないようなこと」「神秘的なこと」「よくわからないこと」を追求していきたいと思っています。
構成・文:松田義人(deco)
プロフィール
峯田 和伸
1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。