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いきものがかり水野良樹の うた/ことばラボ

w/秦基博 後篇

隔週連載

第40回

いくつもの名曲を生み出してきたふたりが最後に語り合うのは、曲タイトルが果たす役割について。曲タイトルが歌詞の世界に及ぼす作用もふたりは熟知しているから、いろいろ工夫を凝らすのだろうが、さてそれぞれの流儀は?

秦 もちろん曲ごとに異なりますが、それでもタイトルを一番最後につけることが多くて、それで苦労することが多いです(笑)。

水野 (笑)、僕も同じです。

秦 タイトルは、最後のニュアンス付けにすごく影響するので。「この曲はこういう思いで作ってますよ」「この曲では、こういう言葉をわざと入れますよ」みたいなニュアンスが、タイトルで伝わるんですよね。だから、ただ歌詞のなかにある言葉をつければいい、というわけでもなくて。その曲の顔になってしまうので……。

水野 僕も、いつも悩んでますけど、サビあたまの言葉とかにして逃げることが多いです(笑)。

秦 (笑)。

水野 でも、まさに秦さんが言われたように、タイトルはニュアンス付けに影響するんですよ。その曲の世界観の、バックのカラーを決めてしまうようなところがあって。僕らの曲で言うと、「じょいふる」というタイトルをひらがな表記にするか、英語にするか、カタカナにするかによって全然イメージが違うなと思って、レコーディングの現場ですごく考えたんですよ。“じょいふる”というタイトルにすることは決めてたんですけど、どの表記にするか全部書いてみて、たまたま隣にいた山下(穂尊)とふたりで見て、ふたり同時に「やっぱ、ひらがなだな」みたいな(笑)。あの曲のファニーな感じのバランスはここだなということだったんだと思うんですけど、逆に言えばどの表記にするかだけでずいぶん変わるわけだから、言葉のチョイスによってすごく変わってしまうし、歌詞のなかの言葉を選ぶにしても、どの言葉をピックアップするかによってその曲の重心が変わってくるから、曲全体の印象も違うものになっていきますよね。

秦 タイトルになりそうな言葉が、ひと言めになっちゃったりすると、“これ、ちょっと早すぎるな”とか、思うよね(笑)。

水野 (笑)。あります! ちょうどいいところにきてほしいんですよね。

秦 そうそう。真ん中あたりとかね。まあ、曲によるんですけど。

水野 歌詞も曲も出来上がったんだけど、なんとなく気持ちの中には空欄が残っていて、それをタイトルで埋める、みたいなこともありますよね。「これが答えです」みたいな。でも、それがなかなかできないんですけど。

秦 歌詞にない言葉をタイトルにするという場合もありますよね。その言葉によって歌詞の意味が変わってきて、味わい深くなるという瞬間があるので。曲を書いてる途中にタイトルが浮かんだりしたら、それはもうラッキーですよね。

水野 途中で浮かぶこと、ありますよね。それはもう、すごく楽(笑)。

── どういうところが楽になるんですか。

水野 タイトルというのは、コピーみたいなところもちょっとあるから、その言葉でベクトルが決まる感じなんですよ。そのコピーによって、終着点がわかるというか。そうすると、それに向けてどうすればいいかというふうに考えられるというのは、いろんなことがすごく楽になるんです。逆にタイトルが見えていないときというのは、なんとなく、“西へ行くのかな?”くらいの感じで進んでるようなものなんですよ。それが、大阪に行くんだってわかってると全然違うじゃないですか(笑)。同じに西に行くのでも、博多じゃなくて大阪に行くんだったら、こういう言葉遣いだなとか、こういう世界観だなとか、いろんなアイデアが数珠つなぎに出てくるから。だから、タイトルが早く浮かんだほうが、曲は早く作れると思いますね。

── 最後に、これからの展望みたいなお話も聞きたいんですが。

水野 僕ら同期だから、デビュー15年ですよね。

秦 そうですね。

水野 秦さんは、これからキャリアを重ねていくなかで、自分がどういうふうになっていくようなイメージなんですか。

秦 今はちょうど過渡期なのかなあという気がしてて。デビューして15年とか、年齢も40になったりとか。音楽とか歌詞とかに対してどういう距離感で臨めばいいのかとか、ポップスであることとか、どれも難しい問題だなという感じがしていて。ここからさらに5年、10年とやっていくために自分にはどういうものが必要なんだろう? ということは考えますよね。ただやっていれば続く、という感じはないかな。10年目からの5年間は、そこまで感じなかったんだけど、15年目を迎えて、ここから25年目までいくって、なんか簡単じゃないなという匂いがしはじめてるんですよ(笑)。

水野 (笑)。すごくよくわかります。

秦 “より一層、がんばんなきゃ”みたいな。まあ、いつもがんばってないわけじゃないんですけど。

── では、25年目に向けて、目の前の2021年にはどんな活動を、またどんな曲を作るのか、その意欲を聞かせてください。

秦 15周年という節目の年なので、まずパッと思いつくのはツアーやライブをやりたいということなんですが、それはもちろん状況を見ながらということになりますよね。で、どういう曲を作りたいかと考えると、やっぱりシンプルな話になってしまうんですが、やりたいことをやるしかないと思っていて、それがどんなふうに受け止められるかは本当に聴き手の方次第ということになるんですけど……。だからこそ、自分が“この音楽いいな”とか“この音楽は楽しく聴ける、楽しく歌える”ということを基準に音楽を作っていきたいなと思っていますね。

水野 秦さんも言われましたけど、ここからの10年はチョーつらいなとすごく思っていて、それは長くやってきたということもあるし、自分たちよりも音楽的な教養が深い若い作り手がどんどん出てきているなかで、僕らがこのままだと、自分たちが自分たちのことをおもしろいと思えないだろうなという感覚がすごくあるんです。だから、僕ももうすぐ40代に入るんですけど、ここらあたりで一旦変わっておかないと40代もこれまでと同じように過ごしてしまう気がするんですよ。だから、2021年は変革の1年にしたいというか……。それは具体的にはどういうこと?と聞かれると、なかなか説明しづらいんですけど、自分にどんどん刺激を与えていかないといけないなということをすごく強く思ってますね。今まで通りのいきものがかりでいいと思ってると、きっとダメになっちゃうので、ちゃんと自分を変えていきたいなと思っているところであります。

取材・文=兼田達矢

秦基博さんとの対話は今回で終了です。次回をお楽しみに。

プロフィール

水野良樹(いきものがかり、HIROBA)

1982年生まれ。神奈川県出身。
1999年に吉岡聖恵、山下穂尊といきものがかりを結成。
2006年に「SAKURA」でメジャーデビュー。
作詞作曲を担当した代表曲に「ありがとう」「YELL」「じょいふる」「風が吹いている」など。
グループの活動に並行して、ソングライターとして国内外を問わず様々なアーティストに楽曲提供。
またテレビ、ラジオの出演だけでなく、雑誌、新聞、webなどでも連載多数。
2019年に実験的プロジェクト「HIROBA」を立ち上げ。
2/24、33枚⽬のシングル「BAKU」リリース(1/18よりダウンロード・ストリーミング配信開始)。テレビ東京系『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』1⽉クールオープニングテーマとしてオンエア中。

秦基博

宮崎県生まれ、横浜育ち。2006年11月シングル「シンクロ」でデビュー。“鋼と硝子で出来た声” と称される歌声と叙情性豊かなソングライティングで注目を集める一方、多彩なライブ活動を展開。
2014年、 映画『STAND BY ME ドラえもん』主題歌「ひまわりの約束」が大ヒット、その後も数々の映画、CM、TV 番組のテーマ曲を担当。
デビュー10周年には横浜スタジアムでワンマンライブを開催。
初のオールタイムベストアルバム『All Time Best ハタモトヒロ』は自身初のアルバムウィークリーチャート1位を獲得、以降もロングセールス中。
映画『ステップ』主題歌「在る」を収録したアルバム『コペルニクス』を2019年12月にリリース。
2020年3月から同作を引っ提げて4年ぶりの全国リリースツアーを予定していたものの、全公演中⽌に。NHK連続テレビ⼩説『おちょやん』の主題歌に新曲「泣き笑いのエピソード」が決定。24枚目となるシングルとして2021年1月27日にCDリリース予定。

「泣き笑いのエピソード」

水野良樹の対談を終えて
秦さんというのは、初めてのシングルを聴いたとき、僕がやりたいことをやってる人という感じがしたんです(笑)。僕は、作って自分で歌うということができないから。だから、ずっと憧れが強くあると思います。で、同期で、それぞれのタイミングでその活動を横目で見てきて、刺激を受け合う仲なので、同志みたいなイメージもありますね。

秦さんが今考えていることには、僕が考えていることと重なっているところも多かったんですよ。例えば、コロナが起こって、そこにすべてが引きつけられてしまうのもどうかなと思っている、と。だから、新しいものを作るのはどうなんだろう?と、踏み止まって考えているとおっしゃった場面で、“やっぱり、この人の軸は変わってないんだな”と思いました。デビューしてからの15年間にもいろんなことがあったと思うんですけど、いろんな経験をしているからこそ簡単には揺るがない信念みたいなものが彼のなかにはあって、それがカッコいいなと思うし、そういう彼に共感できる自分でいられていることを良かったなと思いました。

しかも、15年やってきて、ここからの10年はそんな簡単にいかないよなと思ってるとおっしゃってましたよね。さらに成長していかなきゃいけない、変わっていかなきゃいけないという危機意識みたいなものを同じように持っているのは、一緒に歩んできたからこそ共感し合えるものがあるのかなと思います。

いきものがかりは、3月31日にアルバムが出て、それより前、3月の半ばくらいにライブがやれたらいいなということで現在準備中です。

新作は、僕たちがいろいろ悩んだこと、考えたことが表現されているアルバムになると思います。揺らぐ世情のなかで踏み止まろうとしていることが出ているものにはなってるんじゃないかなあ。それに、自分の考えみたいなものがストレートに出るようになってきてしまっているので、それがどう受け取られるのかなとも思いますが、まずはぜひ楽しみにしていてください。

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