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LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

いい意味で期待を裏切り、とてつもない感動を味わえる『ステージ・マザー』

月2回連載

第63回

血のつながりだけが“マザー”ではないし、“家族”でもない

今回はこれから公開になる作品を2本紹介します。まずは2月26日から公開される『ステージ・マザー』。アメリカ最大のゲイタウンとして知られる、サンフランシスコのカストロ・ストリートを舞台にしたハートフルな人間ドラマです。

映画『ミルク』の舞台にもなった、LGBTQ+コミュニティの拠点、カストロ・ストリートで、毎晩ドラァグクイーンのショーを披露するバー、パンドラ・ボックス。パートナーのネイサンと共にそこを営みながら、ドラァグクイーンとして舞台に立つリッキーは、ある夜、薬物の過剰摂取で倒れ、そのまま息を引き取ります。

テキサスで暮らす彼の母メイベリンは、彼の葬式が行われるサンフランシスコへ。教会で行われていた葬儀はミュージカルのように華やかで、保守的な考えを持つメイベリンには耐えられず、彼女は中座してしまいます。

『ステージ・マザー』

後日、ネイサンから聞かされた衝撃の事実が。なんと、メイベリンがパンドラ・ボックスの経営権を相続する、ということ。リッキーが遺言を遺していなかったため、メイベリンが相続放棄をしない限り、パンドラ・ボックスはメイベリンのものになってしまうのです。勘当同然で出ていった息子の遺したバーですが、ここでメイベリンの心は大きく揺れ、まずはバーの経営状態を見ることに……。

『ステージ・マザー』

『世界でひとつのプレイブック』でオスカー候補になったジャッキー・ウィーバーがメイベリンを熱演しています。ドラァグクイーンのバーが舞台だけに、派手なショーがたくさん出てくるかと思いきや、たくさんは出てきません。私は“何もないところからはいあがって、スターになる”というテーマの作品がすごく好きで、この作品もそのタイプかな、と思っていたんですが、全く違う。でも、いい意味で大きく期待を裏切り、とてつもない感動を味わえる作品でした。

『ステージ・マザー』

この作品の主人公はドラァグクイーンではなく、母=メイベリン。息子のセクシュアリティを認められなかったばかりに、和解することなく死別してしまった彼女の悲しみと後悔。それを、彼が遺したバーを立て直すことで、ちょっとでも彼の気持ちに近づこうとする気持ち。どれも寛容さに欠けていたがばかりに起きてしまったことです。

『ステージ・マザー』

しかも、パンドラ・ボックスに務めるゲイやトランスジェンダーの人々は、みな親との縁を切らざるをえない状況。メイベリンには、リッキーにはできなかった母としての愛情を注ぎ込む相手ができたということになるんです。そして彼女がみんなのマザーになっていくお話。

血のつながりだけが“マザー”ではないし、“家族”でもないんですよ。メイベリンが求める赦しを、みんなのマザーになることで叶えるだけではなく、家族のあり方までを見事に表現することができている作品だと思います。

あ、もちろん私が大好物のド派手なステージショーもあって、ラストを飾るシーンでは、クイーンたちの真っ白な衣装にある映像を映し出す演出がお気に入り。これ、私もいつか真似しようかな、と思っています(笑)。

『ステージ・マザー』

後悔をしないよう毎日を送るためにはどうすればいいかを考えさせられる

さて、もう1作品は、3月12日から公開される『ワン・モア・ライフ!』。イタリアのコメディタッチな感動作です。

イタリア・シチリア島の港で技師として働くパオロは、家族を顧みずに自分勝手な毎日を送っていました。ところが、彼は交通事故であっけなく死亡。すると、彼は天国の入口という役所の窓口のような場所に。そこには亡くなった人たちが、天国に行く手続き待ちで大勢集まっています。

『ワン・モア・ライフ!』

自分の寿命の短さに納得いかないパオロは、そこの役人に「スムージーにいくらかけたと思ってるんだ!」と、自分がいかに健康な生活を送っていて、死とは無縁だと文句をつけます。すると、なんと彼の寿命の計算が間違っていたことが判明。担当する役人とともに、92分間だけ現世に戻り、寿命を全うしていいということに……。

『ワン・モア・ライフ!』

アダム・サンドラーの『もしも昨日が選べたら』を彷彿とさせる、人生やり直し物語です。最初こそ痛快コメディのような展開ですが、パオロがタイムリミットつきの寿命を抱えて現世に戻ってからは、感動の人間ドラマ。人間誰しも、死を前にしたら現世に対する後悔を抱くものなんだろうと思いますが、死は突然やってくるもの。誰も予想できませんよね。

しかもパオロは妻子ある身なのに、恋人がいたり、勝手な人生を歩んできた人。だからこそ、いざ死に直面したときに、自分の人生にとって大事なことがなんだったのか、ということを考えさせられるんです。

『ワン・モア・ライフ!』

観た人にとっては、時間を無駄に使わず後悔をしないよう、また大切に毎日を送るためにはどうすればいいか、と考えるチャンスを与えてくれる作品だと思います。

イタリア映画らしくユーモアたっぷりですし、シチリアの風景やレストランやパオロの家のキッチンインテリアのおしゃれさも素敵。自由に旅ができない今だからこそ、目を楽しませてくれる要素もたっぷり詰め込まれていますよ。

『ワン・モア・ライフ!』

※次回は3月12日(金)に更新予定です!

取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己
(C)2019 Stage Mother, LLC All Rights Reserved.
(C)Copyright 2019 I.B.C. Movie

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が、2019年9月に講談社より発売された。

『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』

講談社 1400円(税別)
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