Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『Re:ゼロ』はなぜヒット作になり得たのか? 異世界ものとしての特異性を紐解く

リアルサウンド

20/6/18(木) 8:00

 命を落とすたびに時間を巻き戻してよみがえる、“死に戻り“という特殊能力を持つ少年ナツキ・スバル(以下、スバル)。彼が大切な人を死の運命から守るために、何度も死に戻りを繰り返しては、死のループの中でさまざまな人物や事件と関わりあう異世界ファンタジーが、長月達平によるライトノベル『Re:ゼロから始める異世界生活』(以下、『Re:ゼロ』)だ。このライトノベルを原作としたテレビアニメが2016年4月から9月にかけて放送され、2020年7月よりアニメ第2期がスタートする。

参考:“悪役令嬢もの”はアニメでも一大ジャンルへと成長するか? 『はめふら』に見るTVアニメの変化

 異世界を舞台にしたライトノベルといっても作劇は様々なパターンがあり、異世界に召喚された主人公のまわりに美女が次々と集まってきては惚れられるハーレムもの、主人公が持つ現代のガジェット(スマートフォン、携帯電話など)と近代文化の知識をもって活躍するチートもの、事故死した主人公が実年齢より若い姿で生まれ変わる異世界転生ものなど、これら複数の要素を組み合わせて作られるので、バリエーションには事欠かず、発行タイトル数も膨大だ。そのため異世界ラノベのアニメ化作品も数多くあるのだが、中でも『Re:ゼロ』が持つポテンシャルの高さは、他の異世界ものと比べても抜きんでている。なぜこれほどのヒット作になったのか?

 『Re:ゼロ』のユニークなところは、多くの異世界ラノベの鉄板要素を押さえながらも、それを凡庸な使い方に終わらせず、ひねりを加えている点といえるだろう。例えばスバルの周囲には、銀髪のハーフエルフの少女エミリア、双子のメイド姉妹ラムとレム、男装の麗人クルシュを始め、美女と美少女が多く登場するが、その誰もがスバルにすぐベタベタ惚れるというわけではない。むしろルートによっては、激しく憎まれたり拒絶されたりする。スバルは何度かの死に戻りを経て、レムからは好意を寄せられ、クルシュの信頼を勝ち取るが、そこに至る道のりは、肉体的にも精神的にも激しい痛みを伴った孤軍奮闘の結果に過ぎないのだ。よかれと思って起こした行動に結果が伴わず、殺されたり自ら死を選ばざるを得なくなるスバルの姿を見届けてきた視聴者(または読者)が、ようやくスバルが救われるルートを見たときの安堵感。これが本作のカタルシスと感動の一片になっている。

 また、スバルが持つ携帯電話も、物語をスムーズに進めるための万能兵器として多用されるわけではなく、スバルが相手との交渉時にカメラ機能や着メロなどをハッタリの道具に使う、ここぞという場面だけでしか登場しない。作中の舞台となる異世界には携帯電話もスマホも存在しないので、この世界の住人には見たこともない珍しい道具だが、スバルは取引時の交渉アイテムとしてしか使わないところも興味深い。

 もうひとつ、本作の特異な点として、魔女の存在する世界という設定がある。テレビアニメ1期で触れられた、エミリアに似た容姿という嫉妬の魔女サテラを含め、原作では複数の魔女の存在が明かされている。そして魔女を崇拝する狂信者集団の魔女教と、そこに存在する大罪司教たち。これらは『Re:ゼロ』のシリアスなドラマの牽引役として大きな部分を占めており、本作がダークファンタジーでもあることを示している。なによりも、死ぬと時間を巻き戻してセーブポイントで目が覚めるという、ゲーム世代の若者にヒットする基本設定は、他の異世界ものにない本作独特のアイデアだ。こういったさまざまな基本設定がうまく機能して、『Re:ゼロ』をヒット作に押し上げたのは確かだろう。

 『Re:ゼロ』は死に戻りというタイムリープ設定や、魔女教徒、コメディにもシリアスにも振れる魅力的な登場人物など、ファンを惹きつける原作由来の要素が多くあるが、声と動きが付くアニメになったことにより、原作を知らなかった多くの人に作品が波及したのも見過ごせない。特に水瀬いのりが声を演じるレムのひたむきな純粋さは、アニメファンの注目の的となり人気を博した。スバルが度重なる失敗と自己嫌悪の念から、レムを連れて現状から逃げ出そうと考える第18話「ゼロから」の放送前には、アニメ公式側が都内主要都市の駅に大型広告を掲示して、これも話題となった。「最低で、最高で、絶望で、希望で、そして……心灼く25分45秒」というコピーが書かれた広告には、本作に賭けるアニメ制作スタッフの意気込みが確かに現れていた。そのスタッフの布陣は1期そのままに、待望の2期が7月8日から放送開始となる。

 強欲の魔女エキドナをはじめ、ガーフィール、リューズといった新キャラクターと、1期にちらりとだけ出ていたメイドのフレデリカ、そして1期終盤で男を見せた行商人のオットーなどを交えて、『Re:ゼロ』はどんな新展開を見せてくれるのだろうか。今から放送が待ち遠しい。

■のざわよしのり
ライター/映像パッケージの解説書(ブックレット)執筆やインタビュー記事、洋画ソフトの日本語吹替復刻などに協力。映画全般とアニメを守備範囲に細く低く活動中。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む