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立川直樹のエンタテインメント探偵

中国で魅了された久石譲の音楽の力、ヤン・リーピンによる超弩級エンタテインメント

隔週水曜

第8回

18/10/3(水)

久石譲『JOE HISAISHI CONCERT 2018 IN CHINA』(永乐演艺サイトより)

 9月9日から17日まで中国に行っていた。久石譲が上海交響楽団を指揮し、ピアノを弾くコンサート『JOE HISAISHI CONCERT 2018 IN CHINA』の仕事でだったが、中国内陸部に位置し、人口は3500万人と、中国最大の都市を久石譲は音楽の力で征服してしまった。

 1954年に建てられ、重要文化財になっていて見学だけの観光客もたくさん訪れる重慶人民大礼堂を埋めつくした2800人の超満員の観客が久石譲がステージに登場した時にあげた大歓声の強力さ。それはもうロック・スター並みのもので、僕は何だか知らないところで凄いことが起きているなと思ったが、一昔前だったら新聞などのメディアを通じて伝えられた情報というものは今やネットなどの発達によって表には現われることない、潜った形でひろがっていくのである。

 そして、その内容のレベルの高さ。ジブリの一連の映画や北野映画などを通して広がっていき、今はその名前だけで十分に大規模な興行が成立するところまでいっている久石譲は87人編成の大オーケストラを自由自在に操り、観客を酔わせていたが、先月発売された最新アルバム『交響組曲「天空の城ラピュタ」』のタイトル曲と『ASIAN SYMPHONY』の見事さは、息をのむほどのものだった。

 メロディがわかりやすく、親しみやすいものでありながら精緻を極めた編曲によって壮大なシンフォニーに生まれ変わり、奥が深く、音楽の美しい森に迷い込んだような気にさせられる久石譲の音楽。終演後、楽屋を訪れた日本総領事は「内陸でこれだけ日本文化を愛している人がいるとは驚きです」という言葉を残し、帰っていったが、もうひとつの公演地、成都では8000人の観衆を総立ちにさせた久石譲は、いい音楽は国境も年令も超えて伝わっていくものだということを理屈抜きで証明してみせたのである。まだアンコールの仕方もわからない観客を相手にしてだから、もう驚きというしかない。成都アリーナに並んでいた公安に加えてセキュリティの数が660人というのも驚きだった。

『JOE HISAISHI CONCERT 2018 IN CHINA』(永乐演艺サイトより)

 あとはもうひとつ成都で超弩級のエンタテインメントにKOされた。来年2月に“Bunkamura30周年記念”公演として『覇王別姫 ~十面埋伏~』をひっさげて久々に来日するヤン・リーピン・カンパニーの『平潭映像』。中国では知らぬ人がいないと言われる国宝級ダンサーはもう身体が悪くなり、ステージに立つことはできないが、振付・演出に徹し、中国と台湾の間に位置し、千年以上の歴史を持つ島に伝わる伝奇物語をベースに波の映像をうまく使い、モダンなサウンドと古典的な楽器をうまく組み合わせた音楽をバックに繰り広げられるパフォーマンスは完全に言葉で形容できるレベルを超えていて、衣装は動くアート作品といってもいいものだし、ヤン・リーピンが新たな地平に立っていることを示していた。

 現在、中国では他に同系統の作品『云南映像』『黄山映像』もツアーで回っているそうだが、中国のエンタテインメント市場は恐ろしい勢いで成長していることを今回は思いっきり感じさせられた。

ヤン・リーピン

 だからなおのこと、客席で回りのことなどおかまいなしにスマホで舞台を撮り続けている観客に腹が立つやら呆れるやら。久石譲のコンサートでも同様で、注意してもモグラ叩き状態になってしまうのだからどうしようもない。

 もっとも日本でもここ数年の傾向として、SNSで拡散させてPRになるからということで、展覧会の会場で撮影コーナーを設けなければならなくなっている始末。余り文句ばかり言っても仕方がないが、成都からの帰りの飛行機の中で、ソニー・ロリンズの『アルフィー』やオーティス・レディングの『ドック・オブ・ザ・ベイ・セッションズ』のような名盤を聴いて(スカイ・チャンネルで、かなりの量のアルバムを聴けるのは最高だ)テクノロジーの進歩とは何なのだろうということを考えてしまった。中国旅行で読み終えた『二〇世紀日本レコード産業史』もいろいろなことを考えさせられる力作だった。

作品紹介

『JOE HISAISHI CONCERT 2018 IN CHINA』

日程:2018年9月13日
会場:重慶人民大礼堂
管弦楽:上海交響楽団

『ヤン・リーピンの覇王別姫 ~十面埋伏~』

日程:2019年2月21日~24日
会場:Bunkamuraオーチャードホール
芸術監督・演出・振付:ヤン・リーピン
出演:ヤン・リーピンカンパニー

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)。

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