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橋本絵莉子から羊文学 塩塚モエカまで……ASIAN KUNG-FU GENERATIONが女性ボーカリストとの共演で見せる新側面

リアルサウンド

20/10/9(金) 12:00

 ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)が10月7日に27thシングル『ダイアローグ / 触れたい 確かめたい』をリリースした。昨年ロンドンでレコーディングされた2曲を収録したこの作品。「ダイアローグ」がミドルテンポで転がるどっしりとしたロックナンバーであるのに対し、「触れたい 確かめたい」はシンセベースを導入した新鮮なサウンドが特徴だ。またゲストボーカルとして羊文学・塩塚モエカが大々的に参加し、従来と一線を画す楽曲に仕上がっている。今回のようなアジカンと女性ボーカリストの共演曲は意外なようでいてこれまでも幾つかあり、バンドの新たな側面を提示してはその度に驚きをもたらしてきた。

 遡ると2011年の「All right part2」が最初のゲストボーカル参加曲である。当時チャットモンチーのボーカルであった橋本絵莉子がコーラスとして参加しており、溌剌とした歌声を響かせている。豪快で太いロックサウンド、言葉遊びを中心とした歌詞が「All right=大丈夫だ」というタフなメッセージに帰結していくこの曲。華やかで開放的なムードもありつつ、切実さと凛々しさを兼ね備えた橋本の歌声は楽曲の強度を高めるのに一役買っている。

「All right part2」

 コーラスへの興味は2013年の後藤正文(Vo/Gt)の日記で時系列に沿って示されている。2010年の6thアルバム『マジックディスク』は後藤の歌声を重ねる形で豊かなコーラスワークを表現しており、彼のデモを軸にして作られたアルバムの内容にもよく馴染んでいた。そこからバンドセッションを中心に制作された2012年の7thアルバム『ランドマーク』に向かうにつれ、“多人数感”のあるコーラスを持つ楽曲が際立っていく。『ランドマーク』のツアーではコーラスとしてシンガーソングライターの岩崎愛を起用し、“人の歌声”が引き出す音楽のスケール感を追求していた時期だ。

「Wonder Future / ワンダーフューチャー」

 岩崎愛は2015年の8thアルバム『Wonder Future』のタイトル曲「Wonder Future / ワンダーフューチャー」にも参加。不確かな未来にざわめく心を映し出すメロディアスな1曲で、アルバムの中でも屈指の不穏さを持つ。しかし曲が終盤に向かうにつれ、様々な人物の心模様が混ざり合うように歌声が増えていく。不安を打ち消し、美しさを立ち上げるようなコーラスワークは楽曲のドラマ性を引き立てる。そしてこの曲のように群像を歌声によって描く手法はこの後さらに進化を遂げていく。

 2018年の9thアルバム『ホームタウン』収録の「UCLA」では、Homecomingsから畳野彩加(Vo/Gt)をゲストボーカルとしてキャスティング。からっとしたロックナンバーが多いアルバムの中で異彩を放つ、緩急の激しい「UCLA」はハイハットのサンプリングやトラップに接近した後藤の歌唱など語るべき点は多い。特に、メンバーではない畳野が単独で歌う箇所が用意されているのはアジカン史上初めてのこと。後藤はブログで楽曲に広がりを持たせるため誰かに歌ってもらったほうがいいと思った、と記している。すれ違う男女の心象と、不安定な日々に降り注ぐ祈り。次々と場面を転換し続けるこの曲において、畳野は歌詞中の〈わたし〉を担い、その情景を浮かび上がらせる。それはHomecomingsがこれまで歌い連ねてきた日常の風景ともリンクし、楽曲を大きく広げていく。後藤の力強い歌声と畳野のたおやかな歌声の交差が眩しい、ブリッジから最後のサビへと突き抜ける構成。女性ボーカルという違った色味を加えることによって獲得できた劇的な展開である。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 『UCLA』Music Video【コエ オーディション作品】

 そして最新シングル曲「触れたい 確かめたい」ではさらにツインボーカルの表現を拡張した。跳ねたリズムと感傷を誘うギターフレーズの中、塩塚は歌詞のおよそ半分を歌唱する。もうここにはいない大切な人に向けた、寄る辺のない想いが心を埋め尽くしていくーーまるで映画のワンシーンのような詞世界だ。塩塚はその言葉たちを台詞のように噛み締めながら発し、旋律の上に運ぶ。儚くも涼やかな歌唱は楽曲のセンチメンタルをじっくりと演出し、サビでエモーショナルに歌い上げる後藤にぴったりと寄り添う流麗なハーモニーには思わず息を飲んでしまうはず。

「触れたい 確かめたい」

 曲中、塩塚が〈僕〉という一人称で歌っているのも印象的だ。生きる日々の道中で遭遇する別れと後悔。その悲しみには性差などなく人間という生き物にとって根源的だ、ということを表現しているのではないだろうか。単に男女の気持ちを歌い分けるだけに留まらない革新的な混声の使い方である。キーや声色の異なる歌声が掛け合わさって呼び起こされる未知なるイメージ、メロディと言葉の親和性というのが確かにあり、アジカンは楽曲に導かれては表現を追求していく。その柔軟さは誰もが真似できるものではなく、記名性の強い後藤の歌唱や確固たるバンドサウンドの賜物だろう。来年結成25周年にして今なおトライアルを止めないアジカンの姿勢はさらにこれから特別なものになるはずだ。

■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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