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赤楚衛二×町田啓太『チェリまほ』はなぜ熱狂を生んだ? 3つの愛されポイントを紐解く

リアルサウンド

20/11/5(木) 8:00

 『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(通称:チェリまほ)(テレビ東京系)が今、熱狂を生みつつある。

 原作は豊田悠による同名コミック。タイトル通り30歳まで童貞だったために「ふれた人の心が読める」魔法が使えるようになった主人公・安達(赤楚衛二)と、彼に想いを寄せる同期のエリート営業マン・黒沢(町田啓太)による“好意ダダ漏れ”ラブコメディだ。

 『チェリまほ』が1週間の癒しというファンも多く、深夜帯ながらTwitterで毎回トレンド入りの大健闘。公式アカウントには海外ユーザーからもコメントがつくなど、その人気は世界に広がっている。

 なぜこれほど多くの人が安達と黒沢の恋に胸の高鳴りと安らぎを覚えるのか。その背景には、単なる甘いラブコメディだけじゃない魅力が隠されている。『チェリまほ』に込められた3つの愛されポイントを紐解いてみたい。

安達の成長を通じて描く「俺なんか」からの脱却

 1つめが、『チェリまほ』が「俺なんか」から脱却するための成長物語であること。主人公の安達は自己評価が低く、「俺なんか」が口癖。黒沢が自分に好意を寄せていると知っても「そもそもなんで俺なんかを?」と疑い、黒沢がマフラーを貸そうとしても「黒沢が風邪ひいたらみんな困るんだし。俺なんか別に」とつい自虐めいた言葉を口にしてしまう劣等感の塊のようなキャラクターだ。

 そんな安達がどう自分を受容し肯定していくかが、『チェリまほ』の大きなストーリーの柱。そのきっかけとして、黒沢がいるという構図だ。黒沢は誰よりも安達のことをよく見ている。安達の頼りなさを嘆く先輩・浦部(鈴之助)に対し、「安達はどんな仕事でも丁寧にやり遂げます」と認め、「俺なんか別に」と自分を蔑む安達に優しくマフラーを巻いてくれる。

 自分のことを見てくれている人がいる。大切にしてくれる人がいる。その事実が、擦り切れた安達の自尊心の回復薬となる。大きな前進となったのは、先週放送の第4話。完璧すぎる黒沢に引け目を感じ、「俺にできることないよな」と落ち込んでいた安達が、黒沢もまたいろんな悩みを抱えながら「何もしないよりは、できることはしたい」と勇気を振り絞っていることを知り、窮地に陥った黒沢の力になろうと「自分にできること」を求めて踏み出す姿が描かれていた。

 ほんの小さな一歩かもしれない。だけど、確かに前に進む安達の頑張りと黒沢の健気な愛が、同じように自分に自信が持てず、自虐に走ってばかりの視聴者の背中をいたわるように撫でてくれる。だから、『チェリまほ』を観ていると、なんだかうれしい気持ちになる。誰かを慈しみたい気持ちになるのだ。

心がふれ合うことで見える「ラベリング」からの脱却

 2つめが、『チェリまほ』が「ラベリング」から脱却するための相互理解の物語であること。人と向き合うことを恐れる安達は、自分自身に「モテない陰キャ」とラベリングすることで、自らを狭い枠の中に押し込めていた。同様に、黒沢に対して「モテオブモテ」とラベリングし、「同期であることと性別以外は共通点ゼロ」と勝手に自分とは違う種類の人間だと決めつけていた。

 けれど、相手のことを知っていけば知っていくほど、そんな単純なものじゃないとわかってくる。黒沢も、同じ漫画にハマッていること。好きな相手の前では、余裕を失ってしまうこと。「記号」ではなく、ひとりの人間として相手を見ることから、相互理解は始まるのだと、『チェリまほ』は提示している。

 その例のひとつが、後輩の六角(草川拓弥)だ。ノリのいい六角を安達は「ウェイ」とラベリングし、苦手としていた。けれど、六角の心にふれることで、彼が場を盛り上げるためにお調子者を演じているだけで、根は良識的な気遣い屋なのだと知り、親しみを覚えていく。

 昨今のニュースを見ていても、部分的な情報だけでその人の全部を断じてしまうことは多い。実生活でも直感的な印象だけで勝手にグルーピングをしてしまうことなんてしょっちゅうだ。分断と偏見が取り沙汰される今この時代だからこそ、外見じゃなくてちゃんと相手の内面を見つめようという『チェリまほ』のメッセージはシンプルだけど、胸に刺さる。

令和の今こそ挑む「安易なネタ化」からの脱却

 そして3つめは、「安易なネタ化」から脱却するための挑戦の物語であること。『チェリまほ』では、ある一貫した理念のもとでつくられている。それは、安直な笑いのために他者を傷つけないことだ。

 男性同士の恋愛モノは、ともするとネタ化されやすい。ひと昔前は男性が男性を好きになることは笑いのフックとして利用されていた。けれど、時代の変化と共に価値観もどんどんアップデートされている。その空気感をつくり手たちが繊細にキャッチしながらドラマをつくっていることが感じられるから、視聴者も安心して楽しめる。

 最も顕著なのは、黒沢の描き方だ。原作の黒沢は、すました顔をしながら中身はむっつりスケベで、ハンター気質が強い。その脳内妄想が面白さではあるのだけど、漫画では笑えても、生身の人間が演じるとなると生々しさが前に出てしまい、笑えなくなってしまうこともある。そのジャッジをつくり手は厳密に行っているようで、ドラマで登場する黒沢の妄想はかなり精査されている。

 安達への好意がダダ漏れである面白さはコメディとして活用する。けれども、安達に迫ろうとする部分については「安達の寝顔まじ天使だったなあ。写真撮っておけば良かった」と後悔しつつ、「さすがにそれはアウトか」とセルフガードを入れるなど、しっかりとした理性とモラルで守られているため、視聴者に不快感を与えない。

 安達に関しても、男から好かれることに困惑しているのではなく、人から好かれること自体に慣れていない安達が思ってもみなかった相手から好意を寄せられたためキャパオーバーを起こしているという表現に徹している。男が男を好きになることを笑いにしていると受け取られそうな部分は取り除き、あくまで人が人を好きになることで起きる興奮やジタバタをポップに描くのが、『チェリまほ』の世界だ。

 その傾向がはっきり見えたのが、藤崎(佐藤玲)のキャラクター改変だ。藤崎は原作では腐女子であり、安達と黒沢の恋愛を脳内で妄想し楽しむ描写が散見される。が、ドラマでは腐女子という設定をカットし、恋愛に興味を持てない女性として描かれていた。

 腐女子もまた周囲から誤解を受けたり茶化されることの多い存在だ。漫画なら腐女子の文脈を理解した上で読む読者が多いため笑いとして受け入れられる表現でも、視聴者層が広いドラマで同じことができるかといえばそうとは限らない。そんなデリケートさをないものとし、典型としての腐女子を登場させることで、腐女子のネタ化に加担することをつくり手は選ばなかった。

 その代わりに藤崎を恋愛がなくても毎日が楽しい女性と設定することで、誰を好きになってもいいしならなくてもいい、もっと自分たちは自由でいいんだというメッセージをより鮮明に打ち出した。そして、いつも明るく振る舞っていた藤崎が、他者からわかってもらえないことにゆるやかに絶望しながらも、普通に擬態するために笑顔を浮かべていたことが明らかになるくだりは、同じように周囲と同調するために自分を隠して生きているたくさんの現代人の琴線にふれるものがあった。

 『チェリまほ』は、多様な視聴者層に向けて配慮をしながら、観る人がドキドキできるもの、キュッと胸がせつなくなるもの、笑って泣いて楽しめるものをつくろうと挑戦している。

 この3つのポイントが、『チェリまほ』が愛される秘密だ。はたして安達と黒沢の恋がどんな結末を迎えるのか。クリスマスまで木曜の深夜は『チェリまほ』にときめきと癒しをもらう日々が続きそうだ。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
木ドラ25『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』
テレビ東京ほかにて、毎週木曜深夜1:00〜1:30放送
BSテレ東/BSテレ東4Kにて、毎週火曜深夜0:00〜0:30放送
※放送日時は変更になる可能性あり
出演:赤楚衛二、浅⾹航⼤、ゆうたろう、草川拓弥(超特急)、佐藤玲、鈴之助、町田啓太
原作:豊田悠(掲載『ガンガンpixiv』スクウェア・エニックス刊)
オープニングテーマ:Omoinotake「産声」(NEON RECORDS)
エンディングテーマ:DEEP SQUAD「Good Love Your Love」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
監督:風間太樹、湯浅弘章、林雅貴
脚本:吉田恵里香、おかざきさとこ
プロデューサー:本間かなみ(テレビ東京)、井原梓(テレビ東京)、熊谷理恵(大映テレビ)
制作:テレビ東京 大映テレビ
製作著作:「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会
(c)豊田悠/SQUARE ENIX・「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/cherimaho/
公式Twitter:https://twitter.com/tx_cherimaho

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