Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

和田彩花の「アートに夢中!」

画家が見たこども展 ゴッホ、ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン

毎月連載

第36回

現在、三菱一号館美術館(東京・丸の内)で開催中の『画家が見たこども展 ゴッホ、ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン』(6月7日(日)まで。※3月31日(火)まで臨時休館)。開館10年を迎える同館は、丸の内に位置する美術館として、都市と芸術のかかわりにスポットをあてた企画や、建物の特性を活かした親密なテーマによる展覧会を数多く開催してきた。今回は、19世紀末パリの前衛芸術家グループ「ナビ派」の画家たちが追求した親密なテーマの中から「子ども」に焦点をあて、都市生活や近代芸術と「子ども」との関係を検証する展覧会。フランス、ル・カネにあるボナール美術館の全面協力のもと、国内外の美術館および当館の所蔵品から、ボナール、ヴァロットン、ドニ、ヴュイヤールらナビ派を中心とした油彩・版画・素描・挿絵本・写真等約100点により展覧する。三菱一号館美術館でマネと出会い、美術に開眼した和田さん。思い出の美術館での展覧会について何を語るのか。

ナビ派が描く「子ども」

最近耳にすることが多くなった「ナビ派」。ナビ派とは、19世紀末のパリで活躍した前衛芸術家グループのこと。伝統に反発し、ゴーギャンやゴッホ、それに日本美術の影響を受けながら、新たな美の創造を目指した彼らは、19世紀と20世紀の美術をつなぐ存在として、近年、評価が高まってきています。

三菱一号館美術館でも2017年に『オルセーのナビ派』という展覧会が開催されましたし、ナビ派の一員であるボナールやヴァロットンなどの個展も開催されているので、ご存知の方も多いでしょう。

そんなナビ派が描いたテーマの中でも、「子ども」に焦点を当てたのが今回の展覧会。彼らの目を通して描かれた子どもたちは、公園や街中の姿、母親や家族といる姿などさまざまです。

いろんな子どもたちが描かれた作品が展示されていますが、私が展覧会を通して感じたのは、「子ども」に対する目線が、今も昔も変わらないということ。誰が見ても可愛かったり、無邪気に見えたり、愛おしく思えたり、そういう感覚は変わらないんですよね。特別な違いを感じないからこそ、19世紀末の感覚を共有できる。また、同じテーマで作品を展示しているからこそ、画家ひとりひとりの個性やその違いがより明確に出て、それを比べながら見ていくのも楽しかったですね。

いまと変わらぬ親子の愛

ピエール・ボナール 《家族の情景》 1893年 リトグラフ・紙 31.3×17.8cm 東京・三菱一号館美術館

例えば、ボナールの《家族の情景》に描かれた愛しい我が子を見守る父親と母親の姿は、いまの家族のあり方と一緒ですよね。ボナールは、妹のアンドレの子どもたちを題材に、家族とともに過ごす愛情に満ち、幸せにあふれた時間を作品の中に描いたそうです。

あとこの作品で面白いなと思ったのが、構図がとてもデザイン的なこと。特に母親の格子柄の服や、平面的な画面の構成が印象的でした。

似てるけど似てない

フィンセント・ファン・ゴッホ 《マルセル・ルーランの肖像》 1888年 油彩・カンヴァス 35.2×24.6cmアムステルダム・ファン・ゴッホ美術館
アリスティード・マイヨール 《リュシアンの肖像》 1896年 油彩・板 32.5×30cm パリ・マイヨール美術館

次に画家の個性というか、違いが明確に出ているなと思ったのが、ゴッホとマイヨールのこの2つの作品です。赤ちゃんを正面から描いた、同じような構図、同じような絵ですが、まず、ゴッホの子どもは生命力がめちゃくちゃ強そうです(笑)。赤ちゃんのはずなのに、すでに強い意志を持っているかのような貫禄を持っています。絵自体も、色も輪郭線もしっかりはっきりと描かれ、それらがさらに子どもの力というものを表現しているかのようです。

反対にマイヨールは、子どもの力というよりも、無垢なところや、可愛さをとらえようとしているように思います。それに絵自体もぼんやりとしていて、はっきりとはしていないし、色味もどちらかという地味で鮮やかさはありません。それにどこか儚さも感じてしまいます。

同じように赤ちゃんを描いても、これほどまでに、画家によって描き方が違うんです。モチーフの捉え方の幅広さも感じられますよね。

ただ、描き方という意味では共通点もあるんです。例えば絵具の厚塗り感であったり、筆致を残しているところなんかは一緒ですよね。そういう違いと共通点と、いろんなことを見比べながら見るのも面白いかもしれません。

ちなみにゴッホの作品は冒頭に、マイヨールの作品は後半にあるので、ぜひゴッホの作品を目に焼き付けてから、マイヨールに行ってください。あと、ゴッホの赤ちゃんは、目の青色がとっても綺麗なので、それも見てほしいです。

色の面白さ

エドゥアール・ヴュイヤール 《青いベッドにいる祖母と子ども》 1899年 油彩・厚紙 46.5×53cmヴィンタートゥール美術館

そして“色つながり”で面白かったのが、ヴュイヤールのこの作品です。一見地味で暗く、なんだかごちゃごちゃと混じり合ったような色合いですよね。それに描かれた子どもとおばあさんは何をしているのか、よくわかりません。

でも実物を見てみると、このベッドの掛け布団の水色がきれいなんです。

平面的な色彩の分割もなく、混色も実際にはなくて、色がひとつひとつ際立っています。色の魅力を堪能できる作品です。

奇妙で異質な面白さ
フェリックス・ヴァロットン

私はナビ派を装飾的だと思っているのですが、そんなナビ派の中でも、ひときわ異質な存在がフェリックス・ヴァロットン。

三菱一号館美術館では、2014年に『ヴァロットン展―冷たい炎の画家』という大規模回顧展を開催していて、私も拝見しましたが、その時は油絵よりも、版画が面白い! と思ったんです。でも今回は、実は油絵も面白い! って思って、自分の見る視線や、興味の持ち方がこの6年で変わったなと改めて思いました。

まずは大好きな版画。ヴァロットンはフランス生まれのナビ派が中心の中で、スイス生まれのため「外国人のナビ」とあだ名がついていたそうです。だからボナールやヴュイヤールとはまた違った斜め目線、ドライな目線というのでしょうか、彼らとは異なる視点からパリの様相を描き、そこに子どもたちを登場させています。でも登場する場面は、ほかの画家たちと違い、どこかシニカルで、少し不気味でもあります。

フェリックス・ヴァロットン 《可愛い天使たち》 1894年 木版・紙 14.8×24.5cm 東京・三菱一号館美術館

例えばこの《可愛い天使たち》。タイトルだけ見ると、どれだけ無邪気で可愛い子どもたちが描かれているのかと思いますが、実際に描かれているのは、警官と連行される男性、そしてその周りを無邪気に取り囲む子どもたち。ここで子どもの無邪気ゆえの残酷さをヴァロットンは描き出しているわけです。子どものそういうところを見出せるヴァロットンも面白いなって思いますね。

あと、版画に登場する子どもたちに共通点があるので、それは会場で見ながら確認してほしいのですが、表情が抜け落ちたような子どもが描かれていること。もしくは、一人だけこちらを向く、白目や点の目の子どもや、異様な笑いを浮かべている子どもがいること。これはヴァロットンの版画の象徴的なモチーフのひとつだと思います。それに何かを暗示するような存在にも感じられます。

ヴァロットンは、単純にデザインもいいんです。おしゃれでセンス抜群。描かれている人々の服装もいい。だからそういったデザインだけを見るだけも面白い。そこも注目して見てほしいですね。

フェリックス・ヴァロットン 《エトルタの四人の海水浴客》 1899年 油彩・厚紙 27×34cm ギャルリー・バイイ

そして油絵になると、また違った魅力が! ヴァロットンはモノクロもいいけど、カラーもいいってよくわかったのがこの作品です。まず海の艶やかさというか、テカテカさ加減が面白い。もう海というより、スライムとかゼリーのようです(笑)。絵具の密度の高さを感じますね。

でも版画と共通するなと思うのが、描かれた人の表情のなさ。赤ら顔のお父さんは目が虚ろだけど、見る側に強烈なインパクトを与えます。謎な手の動き。子どもに泳ぎ方を教えているんでしょうか。でも表情はないし、母親と子どもはほとんど顔が描かれていません。

この展覧会を通して改めて感じたのは、ナビ派は色彩とデザインに大きな特徴があるということ。特に色からは温かみを感じることが多いのですが、今回は「子ども」というテーマが加わり、より温かさを感じる気がしました。それに画家それぞれの子どもに対する目線、造形と子どもが合わさることによって、さらに幸せ度が増すというか。

でもこのヴァロットンの油絵に出会い、ヴァロットンの異質さが際立ちました(笑)。

本来はブルジョワの避暑地での娯楽風景を描いたもののはずなのに、あまり楽しそうじゃないのも、ヴァロットンらしいのかなと。ここで画家の強烈な個性というものを見せられた気がしました。

このように、画家と描く対象との距離感はさまざまだと思いますが、それぞれがモチーフとしての「子ども」とどう向き合ったのか。

ぜひ皆さんもご自身の「子ども」への目線と重ね合わせながら、作品と向き合って見てほしいなと思います。

限定配信!「あやちょと巡る。画家が見た子ども展」

そして私にとって、とても思い出深い三菱一号館美術館。開館10年を迎えるにあたり、今回私は、スペシャル音声コンテンツに参加させてもらいました。

これは、私が案内役となって、展覧会を巡っている皆さんに話しかけるように、絵の中で注目するポイントや面白い点などについてお話するというスタイルの音声コンテンツです。私が感じる、三菱一号館美術館の建物の魅力などもお話ししていますので、ぜひたくさんの方に聞いていただきたいです(※詳細はhttps://mimt.jp/kodomo/へ)。

※新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、『画家が見た子ども展 ゴッホ、ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン』は3月31日(火)まで臨時休館中。4月1日(水)以降の予定については公式HPにて確認を。


構成・文:糸瀬ふみ 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。一方で、現在大学院で美術を学ぶなどアートへの関心が高く、自身がパーソナリティを勤める「和田彩花のビジュルム」(東海ラジオ)などでアートに関する情報を発信している。

アプリで読む