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土岐隼一が切り拓く、声優の新たな表現スタイルとは? 独自の音楽的ルーツを落とし込んだ新作『True Gazer』から紐解く

リアルサウンド

20/9/25(金) 6:00

 『アイドルマスター SideM』の都築圭、『A3!』の瑠璃川幸、『モンスター娘のお医者さん』のグレン・リトバイトなどを務める声優・土岐隼一。子供の頃から実家の時計屋を手伝っていたそうで、その声音は上品で耳心地のよい落ち着きがある。2019年にアーティストデビューも果たしており、今年9月16日には1stミニアルバム『True Gazer』をリリースしたばかり。その音楽的なルーツを紐解くと、土岐の少し珍しい部分が見えてくる。

 土岐にはもともと家庭的に音楽の素養がある。両親とも音楽の道を目指しており、小学生の頃には、父親が弾くギターに合わせて姉や母と歌ったりする時間があったのだという(参照)。その時には、歌はあくまで好きなものの一つだったが、そんな経験も歌唱力の成長に一役買っていたのだろう。声優になってから、カラオケでなにげなく歌った『デジモンアドベンチャー』の「brave heart」を聴いたマネージャーからすぐに歌の音源を用意するように言われ、そのサンプルをきっかけに『ツキノ芸能プロダクション -ツキノプロ-』シリーズの衛藤昂輝役を射止めることとなる。

『ALIVE』Side:G  Growth「ラダ・キアナ」

 アーティストデビューとなった2019年5月リリースのシングル表題曲「約束のOverture」は、自身も出演したTVアニメ『真夜中のオカルト公務員』(TOKYO MXほか)のエンディングテーマに。土岐が演じた琥珀は、ウェウェコヨトルというアステカ神話の音楽・歌・ダンスの神で、奔放なキャラクター。そこからイメージを膨らませ、フォルクローレという南米の民族音楽風の楽曲が出来上がった。

【土岐 隼一】5月15日(水)発売デビューシングル「約束のOverture」【コメントつき】

 続く11月にリリースしたシングルのタイトル曲「Party Jacker」は、クリスマスをコンセプトとした楽曲だが、ぱっと想像されるようないわゆる定番の“クリスマスソング”とは違い、ビッグバンドが好きという土岐の好みを取り入れたスウィング感のあるパーティーチューンとなっている。

【土岐隼一】11月6日(水)発売クリスマスコンセプトシングル「Party Jacker」【試聴・コメント動画・特典ダイジェスト】

 父親の影響で60〜70年代の洋楽が好きだという土岐(参照)。これまでの楽曲も日本のポップスとは違ったルーツが感じられ、そのエッセンスは今回リリースされた『True Gazer』にも詰まっている。

 例えば、全編英詞で歌い上げる「Mr.Innocence」は、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」がコンセプトであり、強い哀愁が漂う。バラードの「明日の在処」はレッド・ツェッペリンの「天国への階段」にインスパイアされている。また、アルバム全体を通してみると、明るくワクワクするような雰囲気でまとまめられているのがわかる。制作時期がコロナ禍における外出自粛期間と重なり、だからこそ底抜けに楽しい雰囲気を、との思いが込められたアルバムだ。〈衝動のまま〉という威勢のいい歌い出しから始まる「True Gazer」からスタート。〈不穏なムード蹴散らして〉というフレーズからは、今の世の中へ向けたメッセージが読み取れる。ホーンセクションが効いた「KEY」はアルバムの終わりにもう一度ブチあげてくれるような曲だ。〈演(や)れるだけ演り切ったら 成るように 成るだけさ〉と、「やる」に「演」の漢字があてられていたり、土岐の役者としての生き方に重ね合わせて聴いても面白いだろう。

【土岐隼一】「True Gazer」Music Video【2020年9月16日(水)発売1stミニアルバム表題曲1コーラス】

 声優発のアーティストの強みとして、声が聴きやすく、よく通ることが挙げられると思うが、土岐の歌は特にその声優然とした“発声のよさ”が活かされているのを感じる。アーティストデビューで初めて“自分の曲”を歌うことが決まり、“自分らしさ”をどう出すか迷った時、声優として演じたキャラクターでの表現やキャラクターソングでの経験を当てはめることで、活き活き歌うことができたという。

 声優がアーティスト活動をすることはもう珍しくはない。次に求められるのは、その中でどうやって個性を出すかということになってくるだろう。声優としての経験、独自の音楽的ルーツを着実に作品に落とし込む土岐の音楽は、きっと他にない道を切り拓いていくはずだ。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。
Twitter(@erio0129

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