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『俺の家の話』戸田恵梨香の女子力スイッチがON ついに気持ちを確かめ合った寿一とさくら

リアルサウンド

21/3/12(金) 8:00

 『俺の家の話』(TBS系)の第7話を観て、「女としては、すぐ入るからね、スイッチ!」というセリフを思い出した。同じ宮藤官九郎が書いた連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)の終盤、種市先輩(福士蒼汰)の彼女だと胸を張れないアキ(のん)に、アキの親友であり種市の元カノであるユイ(橋本愛)がそう言って脅す。ユイは全国区でも通じる美貌の持ち主。その彼女が本気を出したら、どんな男も落ちてしまいそうだと、アキが怖がる様子がおかしかった。『俺の家の話』でも戸田恵梨香演じるさくらが本格的に恋愛モードに突入。キラキラした瞳で主人公の寿一(長瀬智也)を見つめる様子がかわいすぎた。そうか、これがクドカンドラマにおける女のスイッチがONになった状態かと納得した。

 介護ヘルパーとして観山家に通い、一家の主・寿三郎(西田敏行)の世話をするさくらは、第5話でその長男である寿一に「好き」と告白。第6話で観山家の面々が家族旅行に行っている間、自分の気持ちに戸惑い、ひとり悶々としていた。そのとき「お金持ちとしかつきあったことなかったのに、力(ちから)持ちを好きになってしまうなんて」とつぶやいたさくら。寿一のことを「筋肉バカ」で「力と不動産しか持っていない」と客観的に見ようとしたが、募る気持ちを抑えきれず、旅行先まで追いかけていった。そう言うからには、本当にこれが打算抜きの初めての恋なのかもしれない。

 第7話で、さくらは寿一に告白の返事を求める。「寿一さん、私のプロポーズに応えていない」と言うさくら。「好き」とは言っていたが、あれはプロポーズだったのか! という私たち視聴者の驚きをよそに、さくらの攻勢は止まらない。寿一のプロレスの後輩・プリティ原(井之脇海)が観山家にやってきて、父の寿三郎も弟の踊介(永山絢斗)もさくらを好きだというややこしい家庭内四角関係を知らずに「(寿一とさくらは)付き合っているんですか?」と聞く。慌てる寿一に対し、さくらは「なんでなんで、なんでそう思ったの?」と目を輝かせ、寿一に恋人として紹介してもらえるのかと期待。そのキラキラオーラに寿一もタジタジで、ためらうが、結局「さくらさんは、親父の婚約者だ」と言ってしまい、さくらはがっかりしていた。

 番組公式サイトの戸田恵梨香インタビューによると、さくら役については「監督が頭に描くさくら像が結構フェミニンな感じで。宮藤さんの脚本には“地味な女”とト書きに書かれているんですが、存在が地味というか、すぐに周りに馴染んじゃう存在」と捉えているようだ(引用:インタビュー|TBSテレビ:金曜ドラマ『俺の家の話』)。たしかに、さくらはいつも介護ヘルパーのユニフォーム姿で、時折、ワンピースや着物を着ている場面もあるものの、登場シーンの8割で地味。しかし、今はだいぶフェミニンに寄っているようだ。

 また戸田は、さくらを演じるうえで「多重人格に見えないように気を付けています」とも語っている。序盤、後妻業の女ではないかと疑われていたときのさくらは、寿三郎の弟子たちの前で婚約者だと紹介され彼の膝に座ってイチャイチャするなどしていたが、そのときのわざとらしい感じと、寿一に恋してからの乙女モードはまるで別人のよう。しかし、ここに至るまでの戸田の演技で、さくらは毒親の下で育った現実主義者であり、必ずしも遺産目当てではなく、介護についてはプロフェッショナルであるところも伝わってきたので、その変化を違和感なく受け入れられたのだ。

 ただ、好意を告げられた寿一にとってはタイミングが悪かった。これまで友好的な関係だった元妻ユカ(平岩紙)と息子・秀生(羽村仁成/ジャニーズJr.)の親権をめぐって争うことになり、弁護士も交えた調停の場に臨む。そこで修羅場となり、プロレスラーだったとき2年半も海外にいて音沙汰なしだったことを蒸し返され、ユカから「私のことなんて、いっぺんも好きになってないやろ」となじられる。寿一は「ホントに夫婦だったんだけどなぁ」と落ち込み、自信を失ってしまう。

 ユカが言うことは当たっていて、寿一は心の底からは彼女を欲していなかったのかもしれない。“ブリザード寿”のファンだったユカにリング上で必殺技の“寿固め”を決めながらプロポーズはした。結婚もしたし、子供も作った。しかし、父・寿三郎とうまくいかなかったというトラウマを抱える寿一は、子供や妻と向き合えなかった。さらに「(家の中で)殺気を放っていて怖かった」と言われてしまった。寿一はさくらに「誰かを幸せにする自信がないんです」と正直に告げる。しかし、さくらは寿一が“山賊だっこ”をしてくれたから好きになったのであり、プロレスラーであることは「大前提」だという。寿一をスカイツリーに例え、「存在が大きすぎて近くにいると見えないけれど、私は登った(山賊だっこをした)から平気」と言うシーンが印象的だった。さくらなら寿一のトラウマに寄り添い、寿一が弱音を吐いても受け止めてくれる。

 第7話のラスト、リングで戦う“スーパー世阿弥マシン”こと寿一に、さくらが声をかけ、寿一は元“ブリザード寿”だとバレることを承知で寿固めを決めた。ユカにプロポーズしたときと同じ技をしながら同じ言葉「必ず幸せにしまーす」と叫んだ寿一。良くも悪くもバリエーションはない。しかし、寿一が自身のトラウマと向き合っている今、今度こそ上手くいくのではという希望も感じさせる。42歳の寿一と33歳のさくらの再出発を応援したくなった。

 戸田と脚本の宮藤の組み合わせといえば、東野圭吾原作の『流星の絆』(2008年/TBS系)。この作品で戸田は血のつながらない兄2人からお姫様のように大切にされる妹・静奈を演じた(ちなみに寿限無役の桐谷健太は静奈をいじめる上司役だった)。もともとファム・ファタール(運命の女)的なモテ役が似合う俳優なのだ。しかも、男たちから思われるだけでなく、自分からがんがんアポローチしていく役もできるし、そういった演技にリアリティがあって上手い。最近のキャリアから考えると、朝ドラ『スカーレット』(NHK)に主演した後なので、本来なら3年前、同じ金曜ドラマ枠で放送された『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)のような主演ドラマが望ましいが(朝ドラの後は主演で通す俳優も多い)、『俺の家の話』は主演でなくてもやりたいと思う座組だったのだろう。配役としては、短期間で恋愛の受け手から攻める側へ転換するさくらという役は、まさしく戸田にぴったりだった。

 寿一とさくらが気持ちを確かめ合い、秀生が能の稽古を続けられることになり、寿三郎の“物盗られ妄想”も誤解だったということになり、全てが丸く収まったように見えるが、3月12日放送の第8話では、寿三郎がまださくらに財産を譲ると言って困らせるようだ。兄の裏切りを知った踊介の逆ギレもありそうで怖い。さくらをめぐって、もうひと悶着起こるのか。女のスイッチどころか家庭内クラッシャーになってしまうのではないかと、ドキドキしながら見守りたい。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未、佐藤敦司
編成:松本友香、高市廉
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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