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『ひぐらしのなく頃に 業』はリメイクにも見えた“完全新作” プロデューサーが語る制作背景

リアルサウンド

21/2/11(木) 8:00

 アニメ『ひぐらしのなく頃に 業』(TOKYO MXなど)が現在、第18話まで放送され、順調に、いや、想像以上に絶望的な展開となっている。まさかここまでグロく、衝撃的な内容になるとは、誰が予想しただろうか。

 アニメファンを中心に、絶大な人気を誇る『ひぐらしのなく頃に』シリーズ。作品を観たことはなくとも、その名を聞いたことはあるという人は大多数だと思う。

 それにしても、新型コロナウイルス感染症の影響で延期となっていた『ひぐらしのなく頃に』新シリーズが、10月に放送開始されることが発表されると、ファンの間では「一応ハッピーエンドになったはずなのに?」「なぜ今?」などという声が続出していた。しかも、本作は「仲間と絆」などのメッセージ性が非常に強いと言われる作品でもある。

 本作のプロデュースを手掛ける株式会社印フィット代表・永谷敬之氏は、新作の狙いなどについて、改めて次のように語る。

「『ひぐらしのなく頃に』は、内包したメッセージ性の強さもさることながら、ミステリー作品ならではの考察から生まれる没入感も魅力の一つだと思います。普遍的な魅力はこれまでの作品の歴史の中から生まれてきていて、既存のユーザーだけでなく、今の令和という時代に、ここから生まれる新しいユーザーも十分取り込めると考えました」

 ここで少々この作品の説明をしておきたい。『ひぐらしのなく頃に』は、人口2000人に満たない錆びれた村落・雛見沢村を舞台に、村に伝わる古い因習「綿流し」を軸として起こる連続怪死・失踪事件を扱った連作式のミステリーだ。

 もともと竜騎士07による、同人サークル「07th Expanshion」によるサウンドノベルゲームを原作として、2006年にアニメ版第一弾が放送されると、漫画や小説、実写映画、パチンコなどに至るまで、様々なメディアミックス展開を繰り広げてきた。

 その一方で、アニメについては実は「途中で挫折した」という人も、そこそこいる。その理由はおそらく大きく分けて3種あり、1つは第1期の冒頭の絵が少々古臭く、キャラも強烈で、萌え系アニメだと思ってしまった……というパターン。2つ目は、トラウマ的な恐怖展開・恐怖シーンが数々あることで、「怖すぎて脱落した」パターン。3つ目は、「カオスすぎて全然わからなくて、途中でやめた」パターン。

 というのも、第1期の「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」「暇潰し編」まで観ても、謎は深まるばかりなのだが、実はこれは「出題編」。第2期の「解答編」まで観ることによって、初めて分かる構成になっているからだ。物語の中では、ある少女の因縁により、昭和58年の6月が延々と繰り返されている。それ自体、わからないカオスぶりをグッとこらえて、途中でようやく見えてくることなのだ。

 正直、誰にでも入りやすく、わかりやすい物語ではない。だからこそ、絵柄への抵抗感や、怖すぎること、意味がわからなすぎることなど、様々な挫折ポイントを乗り越えて、話がつながったときの高揚感や驚き、感動はすさまじく大きい物語となっている。

真タイトル『業』、「完全新作」発表の仕掛け

 しかし、一応ハッピーエンドになったはずの『ひぐらし』の新シリーズが放送されることになるとは。実は予告段階では「単に絵が綺麗になっただけ」「絵が綺麗になって、あの独特の怖さが薄まるのでは」「今の時代に、あのグロ展開は無理なのか」などともファンの間で不安視されていた。しかし、実際に放送が開始されてみると、絵は確かに綺麗になっているが、細部がちょっとずつ異なっている。しかも、薄まるかもしれないと思ったグロ系シーンは、あろうことか旧作よりもパワーアップしていた(これが現在の地上波アニメで成立しているのは、奇跡のようだ)。

 さらに、視聴者が「あれ? これ、もしかしてリメイクじゃないのか?」とうすうす感じ始めていたところ、第2話になって、真タイトル『業』が初めて明かされるという驚きの仕掛けが待っていた。そこには大きな狙いがあったようだ。

「作品の継続性を考えた時に、今回の『ひぐらし』がどの位置にあるのかも含めて謎として始められないかと考えました。絵柄も今回変わることでリメイクとも取れるけど、ひょっとしたら何かに気づくかもという仕掛けです。2話で出したのは新作であることを効果的に演出しようとした結果です」

 また、これまでのシリーズでは、昭和58年6月前後の雛見沢の世界が何度も繰り返されるという展開の要因の一つ、“羽入”(正体は、村で崇拝されている“オヤシロさま”で、梨花の相談役として100年間、惨劇を止めるために共に挑戦を繰り返してきた)というキャラは、後半にならないと明かされなかった。しかし、新作では第2話からいきなり登場したことに、衝撃を受けた視聴者も多かったが。

「羽入の登場のタイミングに関しては色んな考えが出ました。とはいえ、意見が割れたのではなく、“どこで出すのが効果的か”という観点で考えました。その上で、過去作品との差別化も含めて、第2話で出すことは、私は新鮮な衝撃になると思いましたね。竜騎士さんの構成に感謝です」

 さらに、2話で真タイトル『業』が明かされた段階でも、やはり「これってリメイク? 新作?」とわからなかった視聴者は少なくなかったが、そこに明言されたのが、第4話での「完全新作」という言葉。スッキリ感、ワクワク感とともに、恐怖が膨れ上がる仕掛けだったが、このサプライズの狙いとは? また、反響はどうだったのだろうか。

「2話で『業』と出した段階で確証として新作と捉えた方も、その段階では疑心暗鬼だった方も、いずれも喜びをもって受け取ってくれたと思いました。今、なぜ新作なのかという疑問よりも、今の時代に新作が見られるという純粋な喜びの声を多数いただいた事を嬉しく思いますし、リメイクっぽくアプローチしようと言い出した身としては、してやったりという気持ちもございます(笑)」

新作を手掛けるにあたって意識した「親切設計」にしないこと

 また、「新作」を手掛けるにあたり、キャラクターデザインで心掛けたことは多かったという。

「新作を作る上でビジュアル面もどのようにアプローチするかは、クリエイティブの序盤では重要な問題でした。そんな時に渡辺明夫さんの名前が挙がり、ご本人ももともと作品のファンであったということを伺ったため、全てお任せしたいと思い、お願いしました。これまでのシリーズとは印象が違うかもしれませんが、それぞれに魅力があって自分たちも自信を持って送り出せるキャラになったと思います」

 渡辺明夫氏は、『神のみぞ知るセカイ』『偽物語』『終物語』『傷物語』『暦物語』『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』などのキャラクターデザインを手掛けているアニメーター・イラストレーター・キャラクターデザイナー・作画&アニメ監督。当初は綺麗な絵で恐怖が薄まるのではないかと思ったが、「綺麗な絵だからこそ怖い」世界観を見事に見せてくれている。

 ところで、これまでの世界観を理解している従来のファンですら、意外な展開に驚かされっぱなしだが、新作から初めて観る視聴者に向けて意識したこととは?

「新しく観てくれる方にも親切にと思いながらも、これまでの歴史を踏まえての作品なので、そもそも今作だけで全てを理解することは難しいとは思っております。ただ、今思えば『なるほど』と皆様が思ってくれていると思いますが、ここで新作がくるからこそ、この数カ月で旧作を見られるチャンスを増やしていただきました。また、それがネット配信でもあることから、今『面白い!』と思ってくれれば過去作品にさかのぼることも難しくないことだと考え、存分に手加減なしに『ひぐらし』っぽさを押し出して行っているつもりです」

 確かに、従来のファンについても、この作品に強烈に惹かれた理由の一つに「すぐには理解できないカオスぶりが、見続けることで徐々につながって、わかってくる快感」があったはず。それを思うと、最初から誰でもわかる・入り込める「親切設計」にしないことこそが『ひぐらし』の真の「親切さ」なのかもしれない。

メディアミックスによって生まれる効果

 また、この作品の大きな魅力に、誰もが一度は真似してみたことのある「お持ち帰り~~」「かあいいよ~~」「~かな?かな?」「嘘ダッッッ!!」(レナ)、「おじさん(一人称)」「くっくっくっくっ」(魅音)、「僕」「~なのです」「にぱー」(梨花)、「~ですわよ」(沙都子)、「はろろ~ん」(詩音)、「あぅあぅ」(羽生)などの強烈な語尾・口癖を持つ独特な喋り方がある(蝉の泣き声が元ネタという説も)。

「ひぐらしの歴史の中で、キャストの皆さんが担ってきた部分は非常に大きいと思います。今回の新作でも、キャストの皆さんには、私たちからこうして欲しいと要望を出すより、これまでのひぐらしを踏まえて各キャストに存分に演技してもらいました。そうすることで、新たなひぐらしもまた、ひぐらしである証明をしてくれていると思います」

 また、様々なメディアミックスによって生まれる効果については、次のように語ってくれた。

「『ひぐらし』は、様々な考察による作品への没入感の強さを持ち、また、時代によっての様々なとらえ方、色んな意味での注目度の高さ、消えて行かない地力の強さを持っていると思います。だから、いつの時代にも新しいひぐらしが生まれるだけの土壌が存在すると思うのです。今回のメディアミックスでは既存のユーザーはもちろん、新規ユーザーが過去作も含めてまとめて視聴するチャンスがすでにあることから、これまでの15年を埋める濃ゆいファンが生まれることを願います」

 最後に、改めて、新作の真タイトル「業」に込められた意味を伺った。

「これは最後まで見てもらい、それぞれが何を感じたかをこちらが皆さんに伺いたいと思っているところなんです。是非最後まで見て、公式ツイッターなどへのご意見をお願いします(笑)」

 「あと5回がんばろう」と決めた梨花の覚悟や願い虚しく、村長や、大石、過去にヒーロー的存在だった赤坂までも発狂するなど、悪魔そのものの絶望感が続く。さらには梨花、沙都子も何者かにマインドコントロールされている説も出たが、18話からは新章「郷壊し編」に突入。梨花も沙都子も中学生になり、いよいよ解答のフェーズに入った模様だ。ここまで積み上げられた数々の謎の真相が、ついに明かされるか!?

■放送情報
『ひぐらしのなく頃に 業』
TOKYO MX、BS11にて、毎週木曜23:30〜放送
サンテレビにて、毎週木曜24:30~放送
AT-Xにて、毎週金曜24:00~放送
声の出演:保志総一朗、中原麻衣、ゆきのさつき、かないみか、田村ゆかり、茶風林、大川透、伊藤美紀、関俊彦
原作:竜騎士07/07th Expansion
監督:川口敬一郎
シリーズ構成:ハヤシナオキ
キャラクターデザイン:渡辺明夫
助監督:池端隆史
美術監督:井上一宏(草薙)
美術統括:山根左帆(草薙)
色彩設計:小松亜理沙
撮影監督:戸澤雄一朗(グラフィニカ)
編集:丹彩子(グラフィニカ)
音響監督:森下広人
音響効果:八十正太(スワラプロ)
音楽:川井憲次
音楽制作:フロンティアワークス
プロデュース:インフィニット
アニメーション制作:パッショーネ
製作:ひぐらしのなく頃に製作委員会
(c)2020竜騎士07/ひぐらしのなく頃に製作委員会

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