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忌野清志郎の言葉はどこを抜き出してもカッコいいーー時代を越える名言に触れる『使ってはいけない言葉』

リアルサウンド

20/7/6(月) 10:00

 書籍『使ってはいけない言葉』(百万年書房)は、忌野清志郎(2009年、58才で死去)のデビュー50周年プロジェクトの一環として出版された名言集。「キヨシローの残した古びないメッセージを、著作、出演雑誌、出演番組、ファンクラブ会報、ライブMCなどから網羅的に収集し、未来の読者のために残すプロジェクト」(帯に記載された文面)というのが、この本の趣旨だ。

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■どのページを開いてもカッコいい言葉がそこにある

 構成は、RCサクセションの“バンド本”『愛しあってるかい』(1981年)の企画・編集を手がけた山崎浩一。発行元の百万年書房の代表・北尾修一も雑誌編集者時代、清志郎と交流がある。つまり、清志郎に実際に接し、深い愛情を持っている人たちが作った本なので、「名言集なんてやめてくれ。清志郎はそんな本、望まないだろ」と反射的に思ってしまう面倒くさいオールド・ファンの私もしっかり楽しむことができた。

“結局、信じられるのは自分の耳だけ。結果的に、それは正解だったと思う。”
“俺はそういうのは大っ嫌いなんだよね。昔無かったんだもん、コンセプトなんて言葉自体が。”

 適当にバッとページを開けば、必ず「おお! カッコいい!」という言葉が飛び込んでくる。というか、この本に限らず、清志郎の著作やインタビューはすべてそうなのだ。試しに手元にある『十年ゴム消し』(清志郎が青年期に綴った詩、日記、イラストなどをまとめた著作)をめくってみると

“愛想笑いなんて ほんとに嫌なもんだと 確信していたけれど おれたちがニヤニヤするのは ねえ ちょっといいものじゃないかしら。”

 という一篇に出会える。彼が遺した歌もそうだが、どこを切り取っても、絶対にカッコよくて素敵なのである。『使ってはいけない言葉』の巻末には、すべての言葉の出典が載っているので、できれば原文や原曲にあたって、その背景を含めて味わってほしいと思う。

 “どこを抜き出してもカッコいい”清志郎の言葉の素晴らしさ、カッコ良さの根底にあるのは、生涯を通じて彼が示してきた圧倒的な確信だろう。ロックやソウルミュージックに日本語を乗せること、“僕の好きな先生”、“市営グランドの駐車場”、“原発”、“北朝鮮”について歌うこと、君が代をカバーすること、テレビの歌番組に出てカメラにチューイングガムをくっつけたり、いきなり“エムエム東京 腐ったラジオ”と歌うこと、そして、売れてない頃は複数の“便利女”に支えてもらっていたこともすべて、清志郎にとっては当たり前で普通のことだった(たぶん)。

 その発言や記した文字についても、清志郎は常に“自分はこう思う”ということだけを誰にも遠慮することなく放っていただけ。それがたまたま慣習や常識から外れていると、“衝撃を与えた”、“事故が起きた”と言われるわけだが、ファン(私です)にとってはどれも大した事件ではなく、「清志郎なら、そうするだろうな」と思うだけだったし、そのすべてが最高だった。もちろん、その姿勢そのもの、つまり、“誰にも遠慮することなく、好きなことを言って、好きなことをやればいい”ということ自体が最大のメッセージだったことは言うまでもない。本作『使ってはいけない言葉』を読んでーーこの本に載っている言葉の大半は知っていたがーー改めてそのことを実感した。

 もう一つ感じたのは、清志郎がこの世から去った現在において、彼が遺した言葉、そこに込められたメッセージを生かすも殺すも我々次第ということだ。東日本大震災のときの原発事故のとき、そして、現在の政治の状況に対して、「清志郎が生きていたら、どんな歌を歌ってくれただろう」などという言葉が飛び交うが、そんなことを言っても意味がないし、何も起こらない。当たり前だ、清志郎はもう死んでるんだから。そうではなくて、もし彼の言葉に何かを感じ、影響を受けたのだとしたら、自分で行動を起こすしかないと、激しい自戒の念を込めて思う。

 『使ってはいけない言葉』には、こんな言葉も掲載されている。

“みんな40代(編者註=1996年当時)のやつらは全部さ/「俺はビートルズとリアルタイムだ」とか言ってるけどさ、ふざけんなだよ、ほんとに。/ぶっとばしてやろうかと思うよ、俺(笑)。/ほんとにそうだったらああいうふうになってないって、今の40代は。/こういうふうになってませんよ/今の世の中は。”

 この文章は、“ビートルズ”を“忌野清志郎”に替えても完全に成り立つ。清志郎の音楽や言葉に影響されたすべての人が、そのときの気持ちを抱えたまま大人になっていれば、今の世の中は、こんなふうになっていない。『使ってはいけない言葉』というタイトルはもちろん皮肉だろう。この本を手にして、感じることがあった読者は、清志郎の言葉を実際に使っていくべきなのだから。清志郎はこんなふうに歌っている。「おとなだろ 勇気を出せよ」(『空がまた暗くなる』)と。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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