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いきものがかり水野良樹の うた/ことばラボ

w/塩塚モエカ(羊文学) 前篇

隔週連載

第35回

この対談が初対面というふたり。まずは、羊文学が12月9日(水)にリリースするメジャーデビューアルバム『POWERS』を聴いた感想を水野が伝えることから始めて、塩塚の歌詞を書く流儀、そしてその向こうにある彼女の人となりを探っていく。

水野 僕らのような、わかりやすいと言われることが多い音楽を作っている人間は書いてある言葉を中心に伝えようとしていることをある程度聴き手に把握してもらうということがすごく重きをなしているんですけど、羊文学の作品たち、塩塚さんの書かれているものというのは書いてあることの背景がポンと前に出てくるような気がするんです。だから、言葉で表現していることよりも、その言葉の後ろに広がっているもののほうが聴いている人にしてみると大事で想像力を委ねられる部分なのかなと思いました。

塩塚 なるほど。

水野 さらに言えば、聴いた後の余韻のほうに心が動いていくような印象の歌詞だなあと僕は感じたんですが、塩塚さんが歌詞を書くのに、どういうことがとっかかりになるんですか。

塩塚 歌詞を書くぞ! という感じじゃなくて、自分のなかに音と言葉で映し出したい、なんとなくの景色があって、それをつかんでいくような感じなんです。歌詞というよりは、ギターを弾きながら歌うなかで形にしていく言葉、というか。歌ってて気持ちいい、ということも加味されているのかもしれないですけど。

水野 もうひとつ感想として、いい意味で論理的じゃないな、と思ったんですよね(笑)。

塩塚 (笑)。

水野 文章にして、意味が通っていることで価値が生まれる作品ではない、というか。何かふわあっと伝わってくる感じで、それが僕にはおそらく書けない作品なので、すごいなあと思って……。

塩塚 私は逆に、小論文みたいなものはわりと論理的に書けるんですけど、それが歌詞となるとたちまちできなくなるんです。“考える”という行為として歌詞を書くことは、あまりやってない気がするんですよね。それよりも“感じる”ということ、“歌ってるときのノドの震えが気持ちいいか?“とか“浮かんだ景色をどう感じるか?”とか、そういうフィーリングで書いているような気がします。

水野 “考える”より“感じる”という話は…、なんかブルース・リーみたいですけど(笑)、僕はすごく腑に落ちました。やっぱりそうなんだって。僕らが作ってるときには、言葉があって、それに対応する意味があって、それだけで歌詞を書いていくということが多いですけど、塩塚さんは対応している意味じゃなくて、全然別のところに塩塚さんが感じているものの湖みたいなところがあって、その出口がたまたまある言葉だった、みたいな(笑)。

塩塚 うんうん、わかります。

水野 で、言葉だけですべてを表現することはもちろん難しいと思うんですけど、言葉で表現しきれていないものがサウンドにも滲み出ていたり、あるいは言葉とメロディーが掛け合わされると塩塚さんの“湖”により近いものになっていくっていう。その構図がすごいなと思うんですよ。ちなみに、塩塚さんが作ったものをバンドのメンバーと合わせていきますよね。つまり、自分が作るものに他者が入ってくるとなったときに、何か違和感が生じたり、イメージを修正したりすることはあるんですか。

塩塚 それがあまりなくて、他のメンバーもイメージ系の人だなと思います。歌詞も、先に送らなかったりすることもあるくらいで、レコーディングするまで何を歌ってるのか知らないかもしれないですね。それでも、弾き語りのデモを聴いて、そのリフの感じで感じ取ったり、スタジオでいっしょにバンと鳴らしたときのギターにリバーブがかかってるかどうかみたいなことから読み取ってくれて、結果としてはなぜかちゃんと合ってたりします。

水野 メンバーも含め、理詰めというよりは、本当に感覚で楽曲と向き合ってるんですね。

塩塚 そうですね。

水野 バンドとしては、すごく理想的な形じゃないですか。

塩塚 それでも、論理への憧れはやっぱりすごくあるんですよ(笑)。ただ、知識をつけると逆に感覚が効かなくなるんじゃないかという葛藤もあって、論理と感覚ということについては年中悩まされています。私はソロでもやっているので、勉強したことはそちらで生かしていけばいいのかなとか。羊文学の音楽に関しては感覚でやっていくのがいいのかなというところには行き着いたんですけど。

羊文学(左から塩塚、フクダヒロア、河西ゆりか)

水野 ソロの活動と羊文学、それに他の人に書くことは、自分のなかでしっかり棲み分けはしてるんですか。

塩塚 してます。人に曲を書くときは職人となってというか(笑)、自分の表現というよりはその人の作品がよく映えるように、ということを考えたりしますし。ものすごくポップなこととか、羊文学ではやれないような極端に実験的なことをやるのはソロかな、と思ったりしています。

水野 ソロのほうが、ポップなことができるんですか。

塩塚 自分のなかのポップが世の中にとってどれくらいポップなのかはわからないですけど(笑)、ちゃんとAメロ、Bメロ、サビがあって、それを2回繰り返して、みたいな曲もやりたいと思いますし、曲を書く友達にお願いして作ってもらったり、いろいろやってます。

水野 今言われたAメロ→Bメロ→サビみたいな、ポップスの構成美というのがあるじゃないですか。その中に自分の感覚を押し込めていくと、苦しい感じもあるかもしれないけど、今までとは違うものができるかもしれないですね。

塩塚 そう思います。どんなものができるか、ちょっと見てみたいんですよね。

── 水野さんは以前、「僕はA→B→サビというJ-POPの定番になってる形式にこだわりがあるんです」と言われましたが、そこにこだわるのはどういう心持ちなんですか。

水野 それは、すごく下品な覚悟というか……(笑)。僕らがデビューしたころは、J-POPというのはかっこ悪いものとされてたし、「自分は個性があって、他の人とは違うんだ」ということをみんなが言ってて、そこはみんな同じじゃないかと僕は思ってたんですよね。そういう状況のなかで、みんなが敬遠してたり、「そんなの、誰でも書けるよ」と言ってることのど真ん中を自分たちはいこうと20歳くらいのときに思っていて……。

塩塚 すごい!

水野 いやいや(笑)。僕らは、J-POPのAメロ→Bメロ→サビという構成がすごく完成された時代に思春期を過ごしたから、そのパターンでとにかく突き通すということを自分たちのカラーにしようという意識は、すごく強くあったと思います。ただ、そこからだいぶ意識の変遷はあるんですけど。

塩塚 型があると楽な部分もあるけど、そこに当てはめていくストイックさみたいなものも必要じゃないですか。私は、いろんな人から「ゆるい人間だね」と言われるんですけど(笑)、型に当てはめていくストイックさが自分にないからこそ、そういう表現にすごく憧れるし、単にAメロ→Bメロ→サビという形式があったからというのではなくて、そこに確かな信念を持ってやられているというのはカッコいいと思います。

水野 恐縮です。褒められた(笑)。

取材・文=兼田達矢

次回は11月23日公開予定です。

プロフィール

水野良樹(いきものがかり、HIROBA)

1982年生まれ。神奈川県出身。
1999年に吉岡聖恵、山下穂尊といきものがかりを結成。
2006年に「SAKURA」でメジャーデビュー。
作詞作曲を担当した代表曲に「ありがとう」「YELL」「じょいふる」「風が吹いている」など。
グループの活動に並行して、ソングライターとして国内外を問わず様々なアーティストに楽曲提供。
またテレビ、ラジオの出演だけでなく、雑誌、新聞、webなどでも連載多数。
2019年に実験的プロジェクト「HIROBA」を立ち上げ。

羊文学

塩塚モエカ(Vo&G)、河西ゆりか(B)、フクダヒロア(Dr)からなる、繊細ながらも力強いサウンドが特徴のオルナティブロックバンド。
2017年に現在の編成となり、EP4枚、フルアルバム1枚をリリース、限定生産シングル「1999 / 人間だった」が全国的ヒットを記録。EP「ざわめき」のリリースワンマンツアーは全公演ソールドアウト。
2020年8月19日に「砂漠のきみへ / Girls」を配信リリースし、メジャーデビュー。12月9日にニューアルバム『POWERS』リリース。しなやかに旋風を巻き起こし躍進中。詞曲を手がける塩塚は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「触れたい 確かめたい feat.塩塚モエカ」に参加するなど、ソロでも活躍が期待される。

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