Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ぴあ

いま、最高の一本に出会える

米津玄師が「Lemon」に込めた想いとは? ドラマ『アンナチュラル』と特別ネット番組から紐解く

リアルサウンド

18/3/17(土) 10:00

 「傷ついた人たちを優しく包み込むような曲」。これは、ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)の主題歌「Lemon」を作るにあたって、米津玄師がドラマの制作サイドからオーダーされたことだという。

(関連:米津玄師、ドラマ『アンナチュラル』主題歌「Lemon」なぜ大反響?  配信4週連続1位&MV最速1000万回再生の理由を読む

 現在、YouTubeにて公開されている特別ネット番組『米津玄師 ████████と、Lemon。』。同番組は、米津玄師と「Lemon」を“究明”するという内容で、ラジオ番組形式の米津へのインタビューが収められている。冒頭の言葉は、同番組内で米津が明かしていた「Lemon」制作秘話。「傷ついた人たちを優しく包み込むような曲」を意識して手がけたものの、出来上がった楽曲は「あなたが死んで悲しいです。という自分の気持ちをただひたすら吐露するだけの4分間になってしまった」ため、最初は「本当に正しかったのだろうか。ドラマの曲として成立するのだろうか。ものすごく自分勝手な曲を作ってしまった」という不安があったと語っている。

 だが、自身が歌う「Lemon」が組み込まれた『アンナチュラル』を観るたびに、「本当にこの曲しかないんじゃないかな」と思うようになったのだとか。『アンナチュラル』の主題歌は「Lemon」しかない。米津自身がこれほどまでに自信が持てるようになったのは、ドラマ内で「ドンピシャのタイミングで流してくれる」からだとも明かしている。

 3月4日に放送されたラジオ特番『米津玄師×野木亜紀子アンナチュラル対談』(TBSラジオ)では、『アンナチュラル』で演出を務める塚原あゆ子にアンケートを取っていた。そのアンケートで塚原は、「主題歌をどこで流すかというのを、本当に綿密に考えながら編集している」とコメント。この言葉から、「Lemon」はただの主題歌ではなく、セリフのように『アンナチュラル』の一部となっていることがうかがえる。「Lemon」はまるでスパイスだ。物語の中に溶け込んで、絶妙に混ざり合う。そして最終的な味を整え、物語をより濃く彩る。だからこそ、ドラマ内で<夢ならばどれほどよかったでしょう>という米津の声が流れてきた瞬間に、これまで内側に留めていた私たち視聴者の感情は刺激され、外へと溢れ出していくのだ。

 また、米津は「Lemon」のMV内で“ハイヒールを履いている理由”についても説明しており、“二人にしかわからない何か”を表現したかったと話している。「誰にもわからないようなものを、周りの目など気にせずに、100パーセント愛してやるっていう。それがものすごく美しいことだと思った」。だから、MV内で登場する米津は、“目には見えなくなってしまった女性”と同じハイヒールを履いているのだろう。現代の日本では、ハイヒールは女性が履くものという考え方が一般的である。そんな中で、男がハイヒールを履けば、奇異の目で見られることも少なくない。だからこそ、“ハイヒール”はわたしとあなた以外にはわからない特別なもの。ハイヒールというアイテムひとつで、”あなたはもういなくなってしまったけれど、わたしはあなたとの共通する思い出を今でも大切にしています。あなたと共に歩んでいきます。と伝えているのだろう。そう、あなたは今でもわたしの道しるべ。<今でもあなたはわたしの光>なのだ。

 この“二人にしかわからない何か”は、中堂(井浦新)の殺された恋人・夕希子(橋本真実)が最期に所持していた絵本“ピンクのカバ”を彷彿とさせる。中堂は、“ピンクのカバ”とともに夕希子を100パーセント愛している。そして、彼女が<胸に残り離れない>。中堂は8年もの間、目に見えなくなってしまった彼女に対して“誠実な愛”を貫き通している。“誠実な愛”は、レモンの花言葉の一つ。またレモンは、アメリカやイギリスでは“欠陥品”という意味もある。夕希子がいなくなってしまったこの世界は中堂にとって“欠陥品”であり、そしてまた夕希子を亡くしたことで、中堂自身にも傷がつき、欠損してしまった。

 だが、『アンナチュラル』は決して暗くて重いだけの物語ではない。コミカルさや小ネタを合間に挟んでくるからこそ、テンポがよく面白い。そして「Lemon」を作る上で米津もまた、「曲調に関しては、そもそもバラードを作ろう」と始めたが、「ただ平坦なリズムになってしまうのは、このドラマには果たしてあっているのか」と疑問に思ったという。そんな時に「踊るように、人の死を想う。ステップを踏むように、人の死を想う」というイメージが米津の中に生まれたのだとか。ヒップホップとバラード。対極にあるその二つの要素が、米津の手によって、ナチュラルに混ぜ合わせられたことで生まれたレクイエム「Lemon」。「美しいものになる確信があった」と米津自身も口にしているように、悲しくて優しいこの楽曲は、あまりに美しすぎる。

 米津が「Lemon」に込めた「生きてる者の視点で、目に見えなくなってしまったものに対して、祈りを捧げる」という想いは、ミコト(石原さとみ)らUDIラボが胸に抱いている想いそのものだろう。つまり「Lemon」は、『アンナチュラル』という“死”と“未来”をテーマにした物語を、丸ごとそのまま表現している。そして、『アンナチュラル』のように、始まりの光を私たちに見せてくれるのだ。(文=戸塚安友奈)

アプリで読む