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TBSスター育成プロジェクトの狙いとは テレビ局主導の“本気のドラマ作り”の一環に?

リアルサウンド

21/1/16(土) 8:00

 「私が女優になる日」の文字と、『凪のお暇』の黒木華、『恋はつづくよどこまでも』の上白石萌音、『この恋あたためますか』の森七菜、『私の家政夫ナギサさん』の多部未華子、『逃げるは恥だが役に立つ』の新垣結衣が次々に映し出されるCMを見て、「そう来たか!」と膝を打つ思いをした人も少なくないのでは。

 これは、『半沢直樹』や野木亜紀子ドラマ、女性の支持が高い火曜ドラマ枠など、ドラマ作りに定評があるTBSが、田辺エージェンシー、秋元康と共に手掛ける女優発掘・育成プロジェクトだ。言ってみれば、人気料理人が、素材となる美味しい野菜を求めて自ら食べ歩き、生産農家を探す、あるいは料理人自らが家庭菜園で野菜を育ててしまうようなものだろう。

 コロナ禍の中、改めてドラマ作りの巧さが際立っていたTBSが、局をあげて新人発掘・育成をしようという発想に行き着いたのは、自然な流れのようにも見える。とはいえ、前例のない大掛かりなオーディションでもある。なぜなら、かつては「新人女優の登竜門」と言われたNHK連続テレビ小説(通称、朝ドラ)でも、近年はキャスティングが主流となっているし、「オーディションで選ばれた」ヒロインですら、『カムカムエヴリバディ』の上白石萌音、川栄李奈のようにすでに実績ある有名女優ばかりになっているのが実情だ。

朝ドラで新人がヒロインを務めるケースは稀に

 視聴者側からすれば、例えば『あまちゃん』の能年玲奈(現・のん)のように、全く手垢のついていないピカピカの新人を見たいという思いは、いつだってある。しかし、それがままならない理由は実にシンプルで、全くの素人を育てるのは、非常に手間がかかるから。

 NHKは特に女性記者の過労死もあったことから、「働き方改革宣言」を早期に打ち出し、それに伴い、朝ドラも週6日から週5日放送に切り替えた。ただし、働き方改革の影響ばかりではなく、朝ドラに携わってきたプロデューサーたちに話を伺うと、そもそも昔は「電動紙芝居」と揶揄されたこともあったくらい、作品によっては伝統的なフォーマットに流し込むスタイルでサクサク作られたものもあったようで、それに比べて低迷期と言われる2000年代後半くらいからはむしろ作品の情報量・密度が高まり、非常に手間をかけて作られるのが当たり前になっている。だからこそ、手間をかけて作られる中でも限られた時間内できっちりこなせる実力ある女優が必要とされるのだ。

 そうした事情から朝ドラではオーディションで選ばれた新人がヒロインを務めるケースは稀になっていて、「フレッシュな新人を見つけたい」視聴者は本役に入る前の子役時代にその望みを託すところもあった。しかし、近年では子役もまた、実績ある有名子役が演じることが中心になっている。安定感抜群である一方、やはり寂しさは否めない。

新人が選ばれる伝統が残る特撮、映画の世界

 そんな中、オーディションで新人が選ばれる伝統が今も残っているものといえば、テレビ朝日の『仮面ライダー』『スーパー戦隊』シリーズだろう。記者発表の際には毎回、どんな人がヒーローに選ばれたかと、ヒーローのモチーフ(動植物系、爬虫類系、昆虫類系、恐竜、幻獣、魔法、科学など)を常にチェックするようにしている人は多数いることと思う。とはいえ、今は特撮系出身者が朝ドラに出演し、そこでブレイクする流れもできていて、特別感は少々薄らいでいるかもしれない。

 また、オーディションで新人が抜擢されるケースが今も健在なのは、映画の世界だろう。窪田正孝主演の『初恋』で約3000人の中から抜擢された小西桜子は、芝居を始めて3カ月で三池崇史監督に見出された新人女優。ドラマ『猫』(テレビ東京系)での好演も記憶に新しい。また、『ソワレ』の芋生悠、『MOTHER マザー』の奥平大兼、『ミッドナイトスワン』の服部樹咲、『蜂蜜と遠雷』の鈴鹿央士、『町田くんの世界』の細田佳央太、関水渚など、オーディションでの大抜擢で注目され、順調にキャリアを積んでいる者もいる。

 では、映画では今も多数あるオーディションでの抜擢が、なぜドラマでは特撮系を除いて稀有になっているのか。

 それは、作り手と演じ手の力関係によるところがおそらく大きい。映画の場合、当然ながら監督が主導権を握り、脚本ありきで役柄に合う役者を選ぶところからスタートする。それに対し、テレビドラマの場合は、かつてはテレビ局のプロデューサーの力が大きかったものの、次第にテレビ局より大手芸能プロダクションの力が強くなってしまったことで、「まず芸能プロダクションありきのキャスティング」から始まることが多い。そして、それが「テレビドラマがつまらなくなった」といわれる理由だと指摘する声も多いのだ。

「演じ手」の発掘・育成は“ドラマのTBS”としての戦略

 だが、ここ数年、さらにコロナ禍で様々な問題が加速するように、人気女優・人気アイドルなどをはじめとした芸能人たちの事務所退社(退所)および独立が相次ぎ、芸能プロダクションのパワーダウンが表面化してきている。

 その一方で、TBSは女性をターゲットとして恋愛モノを軸にすえた「火曜ドラマ」や、ドラマ好きが注目する実力派脚本家が手掛けることの多い「金曜ドラマ」、男性視聴者も多く取り込む「日曜劇場」と、それぞれの枠の特色・ターゲットを明確に打ち出しながら、“ドラマのTBS”を再び強く印象付けてきた。

 プロダクションが主導権を握るキャスティングありきのドラマから、“脚本で見せる”“演出で見せる”ドラマの見方・土壌を地道に計画的に戦略的に開墾してきたのがTBSだという印象がある。その戦略が実に上手くハマっていたように見えたのが、金曜枠で『MIU404』が、日曜枠で『半沢直樹』が確実に得点してくれる安心感に支えられつつ、火曜枠で20代プロデューサー・松本友香氏が企画立ち上げから関わった『私の家政夫ナギサさん』が高評価を得たこと。若手プロデューサーがのびのびと思い切ってチャレンジできる土壌がTBSにはできてきているのだろう。

 そうした流れで、次にTBSが手掛けるのは、プロデューサーという若き作り手ではなく、「演じ手」の発掘・育成となるわけだ。

 思えばTBSは、有村架純主演の『中学聖日記』で、相手役の二番手として、新人の岡田健史という「原石」を発掘し、磨いた実績もある。そもそも彼が芸能界入りしたのは、初めてスカウトされてから5年越しで口説かれ続けた末のことだったが、この作品の中では、塚原あゆ子監督がまったくの素人だった彼に、マンツーマンで熱心に指導したのだという。

 そんな彼を抜擢したことについて、今回の女優発掘・育成プロジェクトの審査員の一人でもあるプロデューサー・新井順子氏は公式サイトでこう語っている。

「私は『中学聖日記』で、有村架純さんの相手役をまだデビューしていない子の中から1年かけて探しました。芸能界に入っていないからこそ持ち合わせている魅力、未知数な可能性にとてもワクワクしました」

 この企画の審査員に秋元康が名を連ねていることから、『Nizi Project』 のようなことを女優版でTBSがやりたいのかな、と最初は思った。しかし、改めてここまでの流れを振り返ってみると、芸能プロダクション主導のあり方から改めてテレビ局が主導権を握り返し、「脚本・演出」に主眼を置いた本気のドラマ作りの一環として「新しいスターの育成」が企てられているように思えるのだ。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■プロジェクト情報
TBSスター育成プロジェクト『私が女優になる日』
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/watajo_tbs/

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