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時代の寵児となった菅田将暉 煌めきを放った映画で振り返る“表現のベース”

リアルサウンド

20/5/6(水) 8:00

 日本全国、みんなで家にいた稀有なゴールデンウィーク。配信での映画作品鑑賞はもちろんのこと、テレビでは過去の人気ドラマ作品も多く再放送されている。そしてこの先もまだ映画館に足を運べない日はしばらく続いてしまいそうな気配でありなにぶんそちらも心配だが、皆さんはこの期間に、何かこれまでのお気に入りの作品に再会しただろうか。昨年はテレビドラマにCMに音楽活動にとメディアでその姿を観ない日はなく、完全に時代の寵児となった菅田将暉について、今日はあらためて振り返ってみたい。最近も菅田のブレイクのきっかけのひとつである2017年の主演作『帝一の國』がテレビで放送され話題となっていたが、今回はそこに至るまでの、単独主演作ではないが確かな煌めきを放っていた菅田将暉が登場する過去作品を3選、振り返ってみたい。

【写真】学ラン姿の菅田将暉

■『セトウツミ』(2016年)

 2016年公開の池松壮亮と菅田将暉による会話劇。放課後、川辺の遊歩道で暇つぶしに喋っている関西の男子高校生ふたりをひたすら観る、という1時間ちょっと。『別冊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載されていた此元和津也による人気の原作漫画をもとにしたショートストーリー群だが、とにかくふたりの会話が面白い。大した意味はないかと思いきや突然真理を突くような展開も出てきたりしつつ、日常のなんてことない風景を定点観測することの尊さを感じずにはいられない。また、池松壮亮と菅田将暉、という今や日本映画界において貴重なタッグをこのオフビート感溢れる作品で起用しているのも大森立嗣監督ならではの妙味といえるだろう。

 できることなら自分も瀬戸(菅田将暉)と内海(池松壮亮)の“フシがある選手権”に参加して一緒に遊びたい。「ああ、こんな無為に過ごしてしまっている。自分も何かしなきゃいけないんじゃないか……!!」と焦りそうになった時にはすかさずこの映画をかけ、一旦、気持ちを落ち着けよう。菅田将暉と大森監督とのタッグは2019年の作品『タロウのバカ』でも実現している。こちらは『セトウツミ』とは180度異なる緊張感だが、こちらも必見の作品。精神的に多少の余裕がある際に、是非。

■『そこのみにて光輝く』(2014年)

 綾野剛、池脇千鶴の共演で実現した、佐藤泰志原作の作品。いずれも映画化されている『海炭市叙景』と『オーバー・フェンス』、そしてこの『そこのみにて光輝く』の3作品は彼の“函館三部作”とされており、2018年には『きみの鳥はうたえる』も映画化されたことで知られる北海道・函館を代表する作家だ。池脇千鶴が演じる過酷な現実のなかで生きる女性の弟役・拓児として菅田が登場するが、彼は本当にこういう役がはまるのだよなと、何度観ても唸る。拓児はかつて刑務所に入っていたことがあるが、閉塞感に満ち溢れているこの作品世界の中で、どこか無垢な、誰かが守って導いてやらねばならないと観ているこちらに思わせるような弟の存在感を存分に演じきっている。ファッション雑誌などでも“スーパーかっこいい”菅田将暉を数多見るようになった今だからこそ、再びこの作品に立ち返ってみてはいかがだろうか。

■『ピンクとグレー』(2015年)

 思い返してみると、今これを書いている筆者が初めてきちんと“菅田将暉”という役者の名前を読めるようになり、かつ、強烈な印象を植え付けられたのは、この『ピンクとグレー』だった。NEWS・加藤シゲアキの小説デビュー作として話題になった原作に、行定勲監督がかなりアレンジを加えたミステリー作品だが、この非常に特徴的な作品の構造に見事に即した菅田将暉の大胆な豹変っぷりに、一体何が現実なのか、観ているこちらも恐ろしいまでに惑わされること間違い無しである。ちなみに、加藤シゲアキのその後の小説も読むことで、彼自身が作品内で読者に向けて手のひらをひっくり返すようなミステリアスな表現を好んでいることがよくわかるのだが、今思えばこの映画化における菅田将暉は、そういった加藤作品の特徴を出演者のなかでもとりわけ楽しんで演技をしていたのではないか、ということに気づかされる。菅田将暉が持つ多様な魅力の振れ幅の原点ともいえる作品だ。

 2020年からこの先も、中島みゆきの「糸」の世界を映画化した瀬々敬久監督による『糸』や、坂元裕二脚本による『花束みたいな恋をした』、そして、松竹映画100周年を記念した山田洋次監督、原田マハ原作による『キネマの神様』など公開作が多数待ち受ける菅田将暉。今やその一挙手一投足がすべてニュース化されるほどの人気者だが、着実に積み上げてきた映画での表現のベースを、ぜひ観る側も、折に触れて振り返っておく価値のある唯一無二の演技者だ。

(鈴木絵美里)

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