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トムクル骨折、ニコケイブチギレ、ソン・ガンホ巻き込まれ……2018年“おじさん映画”を振り返る

リアルサウンド

18/12/31(月) 12:00

 50・80、喜んで。そんなわけで、近年のアクション映画シーンでは「おじさん映画」が盛り上がっている。なお、ここで言う「おじさん」は役者の実年齢的な意味であるが、劇中で主人公が「おじさん」扱いされていることも指す。自分の家族や職場の若手にロートル扱いされたり、おじさんというだけで周囲に軽んじられたり。人生が消化試合に入り、周囲から疎まれ、軽んじられる。そんな人物が主人公になること。これこそが普通の「映画」を「おじさん映画」にするキーポイントだ。こうした中年男性の悲哀、あるいは醜態をそのまま描く映画も良い。しかし、おじさんを見くびってはいけない方向の映画にも抗いがたい魅力がある。単なるおじさんかと思いきや、それなりの人生経験があったり、実は熱い男気を秘めていたり、殺人術を習得していたり……今回はそうした方向の「おじさん映画」の2018年を振り返っていきたい。

参考:『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』は、まごうことなき“おじさん映画”の傑作だ!

 まずは映画の都ハリウッド、アメリカ映画だ。今年もアカデミー賞常連組の中年俳優たちが、こぞってアクション映画で暴れ回った。その中でも最初にご紹介したいのが、シンドラーから事実上のスティーヴン・セガールになった男、リーアム・ニーソン主演の『トレイン・ミッション』。冒頭から会社をクビになり、人生設計がパーに。「家族にどうやって説明しよう?」トボトボと電車に乗り込む姿は、おじさんの悲哀に満ちている。そんなニーソンが巨大な陰謀に巻き込まれてしまうわけだが、ところがどっこい、彼には元警官という強いキャリアがあった。会社をクビになったばかりのおじさんが、頭脳と腕っぷしを駆使して陰謀を暴いていく姿は非常に痛快。まさに快作と呼ぶにふさわしい作品だ。

 次は今年のおじさん映画の最注目作品、デンゼル・ワシントン主演『イコライザー2』。前作のラストで仕事人として本格的に活動を始めたので、てっきり続編は『シティハンター』的な、むっつりイコさんのアクション重視の作品になるかと思いきや、意表をついての人間ドラマ重視、若者との熱い触れ合いムービーになっている。デンゼルは絵の才能を持つ若者と出会うが、彼がギャングに落ちかけていることを知ると大激怒。銃を突き付けながらのマジ説教をかます。状況も言ってることも無茶苦茶だが、デンゼルの迫真の説教に首を垂れるのみ。課外授業ようこそイコライザーといった感じだが、俺も真面目に生きます!と叫びたくなること必至だ。

 一方で、おじさん映画の歴史に残る狂った作品も誕生した。ニコラス・ケイジ主演『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』である。ペラッペラな教義を持つカルト団体に妻を殺された男の復讐モノなのだが……。とにかく尋常じゃないビジュアルの持ち主たちが次々と登場する。怪人大博覧会の様相を呈しているが、我らがニコラス・ケイジは、それを全て食ってしまう熱演を見せた。最高のスマイルで映画を終わらせるのは、まさに“ハリウッドの野生”(ニコケイの自伝のタイトル)。ブチギレ具合では今年最高のおじさんだっただろう。

 しかし、こうした幾多の名作おじさん映画を抑え、圧倒的な貫禄を見せつけたのがトム・クルーズ主演『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』。シリーズを追うごとにアクション色とトムクルさんの体張ってます感が増してきたシリーズだが、今回は完全に限界を突破。トムクルさんは56歳にして、とにかく走る、跳ぶ、戦う。最後のヘリコプター・チェイスでは本当に操縦をしており、テンパり具合は演技なのかマジなのか不明である。恐ろしくスリリングな映画だが、観ているうちに物語の主人公「イーサン・ハント」を心配しているのか、生身の俳優「トム・クルーズ」を心配しているのか分からなくなってくるのも事実だ。本当に足を折ってしまった逸話も込みで、2018年、こんなに頑張ったおじさんはいないだろう。それでいて若手のキャラもきちんと立たせ、最後は伝家の宝刀トムクル・スマイルで映画を〆る。おじさん映画として完璧だと言っていいだろう。

 他にも家族のために七転八倒するヒーローを描いた『アントマン&ワスプ』。自警団モノの金字塔をリメイクした『デス・ウィッシュ』。失うものが何もない男たちのバカ騒ぎ具合が光る『ザ・プレデター』。終始目が死んでいるコンビが中間管理職&フリーの立場で苦しみもがく『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』も忘れ難い(今年はジョシュ・ブローリンの当たり年)。2018年のアメリカは、充実の1年だったと言えるだろう。

 しかし、「おじさん映画」に関して言えば、アメリカをも凌ぐ“聖地”が存在する。毎年のように傑作おじさん映画を輩出し、おじさん映画を撮らせたら世界でもトップ・レベルの国……韓国だ。今年も話題作が多かった韓国映画だが、今回は3人のおじさん俳優をピックアップしたい。

 まず1人目は、行き過ぎた役作りで知られるソル・ギョングだ。今年、日本ではギョングが出ている映画が3本公開されている。『1987、ある闘いの真実』(本国では2017年公開)、『殺人者の記憶法』『名もなき野良犬の輪舞』。ギョングはそれぞれで全く別人になっており、その変貌ぶりが凄まじい。『1987』はまだ通常営業という感じだが、『殺人者~』ではアルツハイマーの老人殺人鬼という役柄に合わせて激やせを敢行。思わず「誰!?」と驚くほどの、骨と皮だけの老人スタイルに変身した。その上で若手殺人鬼と投げ技主体の格闘戦を展開するのだから、もはや演技というより人体の神秘レベルである(あんなに痩せたり太ったりして内臓は大丈夫か)。そんな老人スタイルから一転、『名もなき~』ではスーツでビシっと決めたギンギラのヤクザに変身。爆笑しながら大乱闘を繰り広げる荒々しさと、若いヤクザに惚れ込み堕ちてゆく儚い魅力も存分に魅せてくれた。

 2人目はユ・ヘジン。『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』『コンフィデンシャル 共助』『1987、ある闘いの真実』(全て本国では2017年公開)の3本の出演作が公開されているが、その全てで完璧な仕事をしている。北朝鮮と韓国の刑事が事件解決のためにバディを組む『コンフィデンシャル』では、間が抜けているが、情に厚くて正義感の強い理想の“愛され兄貴”を好演。『タクシー運転手』でも、同じく窮地に立たされた主人公らを救う義に厚い男を演じた。そして『1987~』では民主化運動に携わるも、当局によって苛烈な拷問を受ける名もなき市民を熱演。家族と正義を天秤にかけられ、嗚咽と共に決断を下すシーンは彼のベストバウトだろう。

 そして3人目は、言わずと知れた韓国の国民的俳優、ソン・ガンホ。ユ・ヘジンも出ている『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』に主演し、鮮烈な印象を残した。ひょんなことからガンホ演じる平凡なタクシー運転手が、軍隊がデモ隊を虐殺した「光州事件」に巻き込まれる物語だが、彼はここでキャリア屈指の名演を見せてくれた。娘のために何とか生活を支えようと頑張るガンホ、儲け話を聞いて飛びつくガンホ、おどけるガンホ、そして自分の無力さに打ちひしがれながらも、正義を成すために一世一代の決断を下すガンホ……。あらゆるガンホが見れる傑作だ。この映画を成させているのは間違いなくガンホの魅力である。彼が演じきったのは、ごく平凡なおじさんであり、それゆえに誰もが自分を投影できる存在だ。まさに国民的俳優の面目躍如である。

 これら3人の名優が三者三様、それぞれの「おじさん」力でスクリーンを輝かせてくれた。今年公開の韓国おじさん映画は非常に充実していたと言えるだろう。

 そんなわけで、2018年のおじさん映画シーンは元気だった。では来年はどうなるだろうか? 私が期待しているのは、ジャッキー・チェンが久しぶりに年相応の役を演じる『The Foreigner(原題)』(2017年)。娘を殺された元特殊部隊のジャッキーが、死んだ目で復讐を繰り広げる物語らしい。リーアム・ニーソンが主演する『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』(2014年)のリメイク、『Cold Pursuit(原題)』。この辺りは間違いないと思っている。きっと来年も、おじさん映画は作られ続けるだろう。今後も私は、悲哀と不満を背負いながらも悪と戦うおじさんたちを応援していきたい。最後に改めて、50・80、喜んで!(加藤よしき)

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