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マスク着用で通した『#リモラブ』が構築した新しい恋愛ドラマの形 ニューノーマルの先駆的作品に

リアルサウンド

20/12/27(日) 14:00

 ドラマと関係ない個人的な体験だが、今年最も“素で”驚いたのは、10月頃、終電間近の新宿駅で若い男女がマスク越しにキスしているのを目撃したこと。改札前、彼が彼女をぎゅっと抱きしめて白い不織布マスクをしたまま唇を合わせていた。いえ、嘘じゃないんです。本当なんです。仕事帰りの私は「えええええー!」と思いっきり心の声で叫んだ。そして、「そこまでしてキスしたいのか? それで本当に感染防止になるのか。するならするでもう普通に濃厚接触すればよろしいのではないのか」というツッコミの嵐が脳内でしばらく収まらなかった。

 ちょうどその頃、『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)が放送スタート。わずか半年前、2020年4月から物語が始まり、波瑠が演じる大企業の産業医・美々(みみ)先生をはじめ、登場人物はみなマスクをしていて、顔が半分見えない。これは新しい!というかリアルというか無謀というか。緊急事態宣言が出るか出ないかの瀬戸際で、美々は社内でマスクとアルコールスプレーを持ち歩き、発熱した営業部社員を無理やり帰宅させる。その感染防止の徹底ぶりを見て気付いた。私が目撃したマスクキスの男女も、もしかしたらどちらかが医療従事者で「キスはしたいが、マスクは外せない!」と譲れない一線があったのかもしれない。『#リモラブ』はそんなふうに恋の新しい障害が生まれたさまを最も早くラブストーリーに採り入れた。

 脚本は『スカーレット』(NHK)の水橋文美江。既に6月には単発ドラマ『世界は3で出来ている』(フジテレビ系)でウィズコロナの物語を描いており、朝ドラという長丁場が終わったばかりで、さらに連ドラを書くことにしたのは、クリエイターとして大きく変わりつつある世界を記録したいという気持ちに駆られたのではないか。前述したように人物の顔がマスクで見えないのは役者の表情で語らせるドラマとしては決定的なマイナス要素なのだが、水橋と制作スタッフはリアリティを優先した。エンターテインメント業界のみならず、どのビジネスシーンでも、誰もやったことがないことをやるのが評価される条件であり、失敗のリスクもあるが成功の条件にもなってくる。また、主演の波瑠も、『あなたのことはそれほど』(TBS系)で不倫する役に挑戦したように、新しいことを面白がってやるタイプの俳優。顔がマスクで隠れてしまうのもマイナスとは考えなかったのだろう。

 番組発表当時、櫨山裕子プロデューサーは「コロナ(の感染拡大)が再燃したとしても、撮影を止めずにやれる形はないかと考えた結果がこのドラマ」だと語っている(引用:波瑠主演で地上波初の「コロナのある世界観を描く」ドラマ『リモラブ』10・14スタート…日テレ10月改編会見:スポーツ報知)。

 登場人物がマスクを着用すれば、実質的にキャストの感染防止にもなるわけで、苦肉の策であるが同時にリアリティも出せる。劇中では、美々の恋のお相手となる人事部の社員・青林(松下洸平)と同僚・我孫子(川栄李奈)のマスク越しのキスシーンがあったし、最終回のラストシーンも、美々と青林が唇を合わせる寸前でカメラが引いて遠景になっていた。

 「ウィズコロナ」「ニューノーマル」と呼ばれるこの時代に新しい恋が生まれたらどうするのか? デートは? キスは? その先は?という誰もが気になっていることを描いたこのドラマ。生真面目な性格の青林は濃厚接触を避け、それに不満を抱いた我孫子から別れを告げられてしまった。その後、付き合うことになった美々ともなかなか進展せず、スキンシップがないせいか、ちょっとしたことで気持ちがすれ違ってしまう。これも、ウィズコロナの恋の“あるある”かもしれない。結局、ここで描かれたのは、誰もが新型コロナウイルスに感染しているかもしれないというリスクを抱えながら、家族や恋人、友人や同僚とそのリスクを共有していくしかないという現実だ。

 もうひとつ、テーマになっていたのは、そんな現実の中で人々が抱える精神的な不安。最終回で明かされたが、「健康管理室の独裁者」と呼ばれた美々は1000人超の社員を感染から守るため、産業医として大きなプレッシャーを感じていた。その頃、美々はSNSを通じて「檸檬」という人と頻繁にメッセージ交換をするようになり、緊急事態宣言が出て会社全体がリモートワークになってからも、「草モチ」というハンドルネームでテキストを送り合う。お気に入りの写真を送ったり、「どっちが好きか」という大喜利をやったり、仕事には関係なくたわいないおしゃべりをする。それがお互いにとって癒やしとなり、相手の年齢も外見も分からないままに恋に落ちたのだ。

 現実で恋に落ちるより、ネットやSNSでのコミュニケーションが先行するというのは、1998年のヒット作『WITH LOVE』(フジテレビ系)を振り返るまでもなく、今に始まった設定ではないのだが、リモートワークの時代にはいっそうリアル。そういう恋のメリットとデメリットがうまく描かれていた。交際した男性を食べ物に例えていた美々はプライドが高く、実際、医師で美人というハイスペック。会社では青林を恋愛対象としては見ておらず「檸檬が青林というのだけは嫌だ」とまで言っていた。青林も美々を「医師の先生」として見ていたので、SNSで毎日会話していた草モチとは思えず、実際に素性を明かし付き合うことになっても、顔を合わせての会話はうまくいかない。いわば「会社での自分」と「SNSでの自分」が別人格で2人いるようなもの。それだけに終盤、2人がSNSを禁止してまで相互理解を深め、ついに青林が「(美々も草モチも)2人とも抱きしめに来たよ」とメッセージを送ってくるラストは、胸をときめかすエンディングとなった。

 ただ、美々に思いを寄せる青林の同僚・五文字(間宮祥太朗)が嘘をついて檸檬になりすますのは、アカウントを乗っ取ったわけでもなく、メッセージ交換ですぐにバレるので、SNSのシステムをよく知る20代の男性ならありえない行動ではないかと思った。

 キャストもみな好演。波瑠は部屋の中でのひとり芝居や、心の声を言いながらのコミカルな動きなど演劇的な要素もこなしてみせた。『スカーレット』で注目され、ヒロインの相手役としてはプライム帯の連続ドラマで初レギュラーとなった松下洸平は、ちょっとズレていて面倒くさい性格の青林をリアルにいそうな男性として体現。クールな性格の精神科医を演じた江口のりこと“昭和おやじ”的な営業マンを演じた渡辺大の上手さも光った。高橋優斗(ジャニーズJr.)と福地桃子が演じる若いカップルが交わす「かわいいぞ、このやろう」も最初はちょっと引いたが、次第にないと物足りなくなってしまった。

 12月26日、東京都では新型コロナウイルスの変異株による感染が確認された。2021年にはワクチンの摂取も始まるというが、みんなそろそろ分かってきたのではないか。おそらく2021年もマスクなしの生活は送れない。元通りの世界はまだまだ戻ってこない。そんな状況下で恋愛ドラマを作っていくのなら『#リモラブ』は先駆的な作品としてひとつのひな形になりそうだ。

※高橋優斗の「高」ははしごだかが正式表記。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■配信情報
『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』
TVerにて最新話配信中
出演:波瑠、松下洸平、間宮祥太朗、川栄李奈、高橋優斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、福地桃子、渡辺大、江口のりこ、及川光博
脚本:水橋文美江
演出:中島悟、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
チーフプロデューサー:西憲彦
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/remolove/
公式Twitter:@remolove_NTV
公式Instagram:@remolove_NTV

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