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速水奨、黒田崇矢、緑川光、遊佐浩二……確かな経験とスキルによって培われた、ベテラン声優の歌声の魅力

リアルサウンド

20/8/7(金) 6:00

 近年、『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』『ARGONAVIS from BanG Dream!』などのメディアミックスプロジェクトをはじめ、次々とソロ歌手としてデビューを果たし、まさしく戦国時代といった様相を呈している若手声優シーン。そうした現在のシーンの土台となるものを作り上げたのは、誰であろうベテラン勢だ。時には若手をサポートし、時には主役を食ってしまうほどの圧倒的な個性を放つベテラン声優は、どんなに人気の若手が出てこようとも、決して欠くことのできない存在だ。ベテランならではの経験とテクニックを武器に、青年から渋い役まで幅広く演じ、その歌声にはますます磨きがかかっている。

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■圧倒的な個性と存在感で君臨するベテランの魅力

 たとえば『ヒプノシスマイク』で、シンジュク・ディビジョン「摩天狼」のリーダー=神宮寺寂雷を演じる速水奨。ゆったりとした口調と、冷静で落ち着いたその声はどこか狂気すら感じさせる。『麻天狼-Before The 2nd D.R.B-』に収録の「君あり故に我あり」では、ゴスペルのサウンドの中で実にグルーヴィーな歌声を聴かせ、空気成分を多く含んだ独特の声質が明るく光を見いだすようなサウンドともマッチしている。速水は1982年に『超時空要塞マクロス』にて青髪の美青年パイロット=マクシミリアン・ジーナスを好演しブレイク。その後『BLEACH』の藍染惣右介、『戦国BASARA』の明智光秀、『Fate/Zero』シリーズの遠坂時臣など、多くの人気作でキーパーソンとなる役を演じている。『FAIRY TAIL』の一夜=ヴァンダレイ=寿役では、声とコミカルさのギャップにやられた人も多いだろう。90年代からソロでも音楽活動を行っており、2007年の『LOVE STORY』など計9枚のソロアルバムをリリースしている。また『ご注文はうさぎですか?』でマスターの香風タカヒロも担当し、「Fantastic Rabbit House」など同作のキャラソンでは女性声優陣に混じって低音の美声を聴かせている。

 同様に『ヒプノシスマイク』では黒田崇矢が、オオサカ・ディビジョン「どついたれ本舗」のメンバーである詐欺師の天谷奴 零を演じている。関西弁の社交的な雰囲気ながら、腹の底では何を考えているか分からない油断のならないキャラクターで、『あゝオオサカdreamin’night』収録の「FACES」では、極太の低音で不穏さをまとった歌声を聴かせている。1980年代から俳優として活動し、2000年代から声優に転身した黒田は、ゲーム『龍が如く』シリーズで伝説の極道と呼ばれた主人公の桐生一馬役や、『妖怪ウォッチ シャドウサイド』のジバニャンなどコワモテの役が有名。『龍が如く』シリーズのゲーム中で桐生が歌うカラオケ楽曲も好評で、2016年には『桐生ベスト -龍が如く 桐生一馬 KARAOKE ALL TIME BEST COLLECTION-』がリリースされたほど。また、5人組ロックバンド=黒田崇矢 & Goodfellasとしても活動し、2019年にアルバム『Goodfellas』をリリース。ここでは楽曲プロデュースや作詞も黒田本人が手がけ、声優とはまた違った魅力を発揮している。

 また、キャラクターソング界では、『あんさんぶるスターズ!』(以下『あんスタ』)や『うたの☆プリンスさまっ♪』(以下『うたプリ』)シリーズなどで、数多くのキャラソンを歌って知られているのが緑川光だ。『SLAM DUNK』の流川楓、『新機動戦記ガンダムW』のヒイロ・ユイ、『スレイヤーズ』シリーズのゼルガディス=グレイワーズといった役で人気を得ている。『うたプリ』ではST☆RISHのライバルユニット=HE★VENSのリーダーで、眼鏡がトレードマークの鳳瑛一を演じ、『あんスタ』では夢ノ咲学院の生徒会長で学院最強ユニット=fineのリーダーである天祥院英智を演じている。頼れるお兄さんといった雰囲気の、真っ直ぐで誠実さのある歌声が秀逸で、『あんスタ』シリーズの「The Tempest Night」ではスウィングジャズ、「Holy Angel’s Carol」では煌びやかなクリスマスソングを歌い、『うたプリ』ではダンスチューンも披露している。また、HoneyWorksによる『告白実行委員会 ~恋愛シリーズ~』の最新作『好きすぎてやばい。~告白実行委員会キャラクターソング集~』では、古典の先生=明智咲として、芹沢千秋(木村良平)と共にロックチューン「ラブヘイトマジョリティ」をデュエット。熱くソリッドな歌声を聴かせるなど、実に多彩な音楽性に対応する懐の深さが魅力だ。

■磨き抜かれた大人のテクニックでファンを魅了

 前述の緑川と共に、男性声優5人組ユニット=E.M.Uのメンバーとして人気を博した置鮎龍太郎もまた、数え切れないほどのキャラソンを歌っている声優のひとりだ。E.M.Uはメディアミックス作品『卒業M』の声優で結成されたユニットで、1995年~2000年の活動の中で8枚のアルバムをリリース。ライブでは楽器演奏やダンスと共に歌を披露し、アイドル顔負けの多彩なパフォーマンスで人気を博した。置鮎はソロ活動も行い、シングル『Holy Love』のほか『DAY AFTER DAY』などアルバムも3枚リリースしている。また、『BLEACH』の朽木白哉や『テニスの王子様』シリーズの手塚国光といったキャラクターを演じ、両作のキャラソンも数多く歌っている。低音の効いたいわゆるイケボが魅力で、手塚のキャラソン「Infinity Sky」では、熱く真っ直ぐな歌声を聴かせる。歌声から放つ、絶対的な正義と存在感は偉大で巨大だ。

 そして、『弱虫ペダル』で京都伏見高校の御堂筋翔、『TIGER & BUNNY』では敵役のルナティックなど、不気味な存在感を放ち好演、さらに『BLEACH』の市丸ギン、『黒執事』の劉(ラウ)、『鬼灯の冷徹』では遊び人の白澤と、一筋縄ではいかない役を演じさせたら天下一品の遊佐浩二もまた、数多くのキャラクターソングを歌っているひとり。特に有名なのは、佐藤健の出世作である『仮面ライダー電王』の後期主題歌「Climax Jump DEN-LINER form」だろう。遊佐が演じたウラタロスら出演声優4人が歌い、本家であるAAA DEN-O formが歌った同曲を超える、オリコンシングルチャート2位に輝いた。『薄桜鬼』では新選組十番組組長=原田左之助を演じ、『アニメ「薄桜鬼」キャラクターCD 幕末花風抄 原田左之助』をリリースしている。腹に一物ありながらそれをおくびにも出さず、敵なのか味方なのか、そんなミステリアスを放つ演技と歌声がファンを魅了している。

 歌えるベテラン声優の需要は、現在も非常に高い。例えばメディアミックスシリーズ『ACTORS』や『百歌声爛 -男性声優編II-』など、彼らの美声を堪能することができる作品は数多く、『オジサマ専科』というシリーズもある。炭酸が弾けるソーダのような瑞々しさが若手の魅力だとすれば、ベテランの魅力は、熟成されたワインのような芳醇さだろう。長年の経験によって培われた柔軟な対応力と、磨き抜かれた大人のテクニック。若手とはまた異なる、魅惑のよろこびを感じることができる。(榑林 史章)

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