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いま、最高の一本に出会える

MUCC、lynch.、DEZERT、the GazettE……定額配信で広がるV系アーティストの可能性

リアルサウンド

19/9/3(火) 7:00

 ヴィジュアル系は、独自の世界観が魅力のひとつだ。また、さまざまな形でファンを楽しませようするサービス精神が旺盛なシーンでもある。そのため、音楽と世界観の両方を深く、楽しく体験してもらえるよう、豪華な限定盤を早い時期から発売してきた。

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 たとえば、PIERROTが2002年に発売した『HILL -幻覚の雪-』は、CDに加えてシリアルナンバー入りのプレートが付いたミニボストンバッグに、DVD、リストバンド、Tシャツが封入された、10000セットのみの限定盤が制作された。当時、ライブ参加時にボストンバッグを持つファンが多かったことを考えての仕様だったのだろう。お揃いのTシャツとリストバンド、そしてボストンバッグを身に着けたファンは、一体感をもってその後のライブに臨んでいったに違いない。ファッションを音楽体験に取り込んだ好例といえる。

 また、DIR EN GREYが2008年に発売した『UROBOROS』では、2CD+DVD+2LPの完全生産限定盤が制作された。音楽的な影響力の高い本作は、限定盤のDVDに収録されたドキュメンタリーなどで、その世界観をさらに深く体験することができる。当時としては珍しかったLP仕様からも感じられるように、彼らは音質やパッケージにまでこだわって、濃厚な音楽体験をリスナーに届けようとしたのだろう。

 2010年代では、BAROQUEが2015年に発売した『PLANETARY SECRET』と、2019年に発売した『PUER ET PUELLA』に注目したい。会場・通販限定盤では、ハイレゾ音源が鍵型のUSBに収録されている。”作品の鍵を開く” という身体的な行動を音楽体験に取り入れたことで、作品の世界観とコンセプトがより心に染み込むようになっている。

 以上の作品は、フィジカル・パッケージが作品やライブと連動して深い音楽体験をもたらしている。だからこそか、いずれのバンドもApple MusicやSpotifyなどのサブスクリプションサービスでは一部を除いて取り扱われていない。これには、もちろんマーケティングの観点も関係してくるのだろうが、パッケージも含めた音楽体験を伝えたいというミュージシャン側の想いもあるに違いない。

 一方で、定額配信を積極的に活用するバンドも少なくない。その筆頭がMUCCだろう。彼らは、2017年12月25日より順次Spotifyでの配信を解禁していった。同年に、初期作の再録版『新痛絶』『新葬ラ謳』と、セルフカバーアルバム『殺シノ調べII This is NOT Greatest Hits』を発売し、過去作に注目が集まっていたタイミングでのことだった。また、解禁の2日後には20周年の集大成イベント『20TH ANNIVERSARY MUCC祭「えん7 FINAL」in 武道館』が開催され、会場最寄りの九段下駅に「MUCCをSpotifyで聴こう」と書かれた大型ポスターが設置された。過去作へのアクセスのしやすさ、モバイル性という定額配信サービスの特性と、うまく結び付いた解禁だったといえる。現在はSpotify以外のサービスでも配信を解禁しており、セットリストや開演前BGMのプレイリストを作成するなど、配信を活用している。

 また、lynch.が2018年に発売した『XIII』は聴いてもらうハードルを限界まで下げるために発売日当日から定額配信サービスでの楽曲配信を行った作品だった。そして、CD版はオリコンデイリーアルバムランキングで初日9位を記録して以降も売れ続け、週間アルバムランキング8位とバンド史上最高位を記録した。ボーカルの葉月は、定額配信がCDの売上に悪い影響を与えないか不安だったこと、結果としてより多くの人に手に取ってもらえたことを誇りに思うことを、自身のTwitterに綴った(参照)。定額配信だけが8位の理由ではないとは思うものの、初日以降も長く売れたひとつの理由だったことは確かだろう。

 彼らの例を踏まえると、より広く自分たちの音楽を届けるために大手事務所<MAVERICK>へ移籍したDEZERTが、移籍後に入手困難となっていた過去作品も含めて定額配信を解禁したことも納得がいく。

 こうした流れもあってか、これまで定額配信に積極的ではなかったバンドの作品も解禁されつつある。たとえば、the GazettE。立体仕様ボックスなどでパッケージまで含めた体験を伝えてきた彼らだけあって、これまで配信は一部のシングルに留まっていた。ところが2019年8月21日に、2018年発売の『NINTH』の全曲が定額配信で解禁された。横浜アリーナで2019年9月23日に開催される『the GazettE LIVE TOUR18-19 THE NINTH TOUR FINAL 「第九」』の最終公演に向けたプロモーションの一環とも取れるが、現在のヴィジュアル系シーンで “一強” を自称するバンドだけに、これを機に彼らとシーンにさらに注目が集まることを期待したい。

 さて、上記4バンドはいずれも2019年の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』に出演したバンドだ。彼らは、それぞれのやり方でヴィジュアル系というものに真剣に向き合いながら、その外側のロックシーンに働きかけているように思える。だからこそ、定額配信の活用に踏み切った面はあるだろう。一方で、同フェスに2011年から頻繁に出演しながらも、定額配信は<FlyingStar Records>時代の作品の解禁のみに留まっているのがPlastic Treeだ。前述の4バンドはいわゆるラウド系だが、Plastic Treeはオルタナ系で、音楽的にはより『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』と親和性が高い。それだけに、定額配信で最新作や初期の名作を聴きやすい環境になれば、今以上に広く注目を浴びると考えられる。

 ヴィジュアル系と定額配信でいえば、GLAYが専用の定額アプリを制作したことも話題となった。彼らは、豪華な限定盤と専用定額配信アプリで、既存ファンにフィジカル体験と利便性の両方を提供し、さらにファン以外には通常盤やSpotify・Apple Musicなどのサービスを通じて門戸を開いている。これまでリスナーを想った数々の企画を行ってきた、国民的バンドの彼ららしい盤石の体制だ。

 さらにゴールデンボンバー「令和」では、新元号発表1時間後に曲を発表するという、CDではできない企画が行われた。配信という形式が普及したことで、アーティスト側の表現の可能性も広がっていくのだろう。

 定額配信で聴くのはライトリスナーという考え方は根強い。一方で、定額配信単体で収益を上げるためには、長い期間、不特定多数に聴き続けられる工夫をするか、何度も聴くコアなリスナーを育てる必要がある。その点を踏まえると、定額配信のユーザーは、豪華盤を買う熱心なファンと必ずしも相反する存在ではない。コアなリスナーの多いヴィジュアル系は、定額配信とは相性が良いのかもしれない。今後、定額配信サービスがより広い層へと彼らの魅力を届け、体験をさらに深めるこだわりの限定盤とともに、アーティストとリスナーの強い結びつきを作っていくに違いない。(エド)

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