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SUPER BEAVER、“一対一の対峙”続けて辿り着いた日本武道館 過去と現在をつなぐ名演を見て

リアルサウンド

18/5/16(水) 18:00

 音楽を志す者にとって、日本武道館という場所はひとつの目標であることは今も昔も変わらない。そんな聖地に14年かけて辿りついたインディーズバンドがいる。結成から4年後にはメジャーデビュー、順風満帆に思えた矢先の2011年にインディーズに戻って以来、折れずに地道に歩き続けた先にあった2018年4月30日、満員御礼の東京・日本武道館にて、SUPER BEAVERの単独公演『都会のラクダSP at 日本武道館』が行われた。

 定刻を少し過ぎたあたりで場内が暗転し、過去のバンドの映像とともに60からカウントダウンが始まり、それが0になると、柳沢亮太(Gt)、上杉研太(Ba)、藤原“29才”広明(Dr)が登場、そして満を持して渋谷龍太(Vo)もステージに姿を表す。「山あり谷あり紆余曲折、そんな言葉では表せないほど色々ありましたけど、この日がひとつの答えだと思っています」「ライブハウスから日の丸の下にやって参りました。14年目のインディーズバンド・SUPER BEAVERはじめます。宜しくお願いします!」という渋谷の挨拶とともに、ライブは「美しい日」で幕を落とした。

 「ギア上げていくんでよろしく」の一言から始まった「証明」でライブはぐんと速度を上げる。また、スクリーンに大きく歌詞が映し出された「うるさい」では、柳沢が「でかい声ぶつけてきてくれ」と煽って感情的にギターをかき鳴らし、オーディエンスから割れんばかりのシンガロングが巻き起こる。「俺たちが14年間どんな戦い方をしてきたか見せてやるよ」と渋谷がフロアを真っ直ぐ指さした「正攻法」では上杉の歪んだベースと藤原のパワフルなドラムが会場のボルテージを上げ、「赤を塗って」ではピンボーカルの渋谷が「俺も楽器ができるんだってとこ見せてもいいですか」とタンバリンを持ち出し会場の笑いを誘った。また、MCでは「うまくいかなかった時に、そこにはうまくいった時よりももっとうまくいく可能性があると思う」と話す。14年かけてこの場所に辿りついた彼が武道館のステージで言うからこそ説得力のある言葉だった。

 「歓びの明日に」はそんな彼らがメジャーで挫折し、インディーズに戻って最初にリリースした曲であり、過去や不安を振り切って前を向くような曲だ。当時の彼らの背中を押すようなこの曲を、この武道館では「あなたの背中“だけ”押しに来ました」と高らかに宣言して演奏した。真っ暗な一秒先の未来を“歓びの明日に”するために、音楽を続けてきたSUPER BEAVER。その積み重ねがこの日の日本武道館につながっている事実に胸が熱くなる。さらに、ストリングス隊とともに演奏され、セットリストで唯一メジャー時代の楽曲から選ばれた「シアワセ」の冒頭では「唯一、俺たちがメジャーにいた時にこれなんじゃないかと胸を張ってやっていた曲、今日も胸を張ってあなたの前でやれそうなので、やってもいいでしょうか」と語り、苦しかったメジャー時代の気持ちもしっかりと昇華させた。

 SUPER BEAVERはこうやって成功と挫折を繰り返しながら、一歩一歩自分の足で歩き進んできたバンドだ。自分とは何者なのか、自分らしさとは何か、愛するとは何か、幸せとは何か、その時ぶつかった壁に対して、時に暑苦しすぎるほどに真っ直ぐに、時に吐き捨てるように攻撃的に、時に寄り添うように優しく、SUPER BEAVERなりのロックを鳴らしてきた。そんな彼らが掴み取った武道館単独公演、渋谷は武道館を通過点にしなければいけないと思っていた考えを改め、ひとつの立派な到達点であると話した。その理由として、これまで片手間で人と向き合ってきたつもりはないし、いつだってその場所その場所を大切な到達点として足を止めて歌を歌ってきた自負を語った。それがSUPER BEAVERのやり方であり、さらにはこの日の武道館という到達点が終着点ではないところに、俺たちの面白さがあると思うと付け加えた。

 人と向き合う――これが14年間貫いてきたSUPER BEAVERのやり方である。彼らの楽曲には“あなた”というワードがしばしば使われ、“あなた”に向けて歌われたものが多い。こうした一対一の対峙が、SUPER BEAVER最大の強みなのだ。そして、その対峙の仕方は、たとえ満員の日本武道館であっても変わらない。オーディエンスのひとりひとりと向き合い、“あなたたち”ではなく“あなた”に向けて歌を歌う。日本武道館に意味があるのではなく、“あなた”がいる日本武道館に意味があるんだと胸を張る、SUPER BEAVERはそんなバンドなのだ。

 「青い春」で〈生きていく意味とは全ての「あなた」にある〉と歌い、「東京流星群」ではミラーボールが輝き武道館に星が降るなか、柳沢、上杉、そしてフロアがお互いの心を一つにシンガロング。「秘密」を披露し終えたあと、渋谷はこう話し出した。

「毎日、繰り返す当たり前があること、近くに誰か居てくれること、そんな毎日がとってもとっても特別だと思っています」「あなたの近くに居てくれる人、絶対大事にしてください。俺はその人に直接伝えることはできないけど、今日この場を借りて、あなたを介してあなたの大切な人に伝えることならできるんじゃないかなと思ってます」

 会場のそこかしこからすすり泣く声が聞こえるなか、始まったのは「ありがとう」。柳沢がイントロのギターを少し弾くとその音が止み、静寂に包まれる武道館に「少しも当たり前だと思ってませんので!!! これからも宜しくお願いします!!!」と渋谷の肉声が響き、拍手に包まれる中メンバーは深々と頭を下げた。私はこの日の「ありがとう」を一生忘れないと思う。それくらい心を揺さぶられる演奏だった。続く本編ラストに演奏された「愛する」を含めて、SUPER BEAVERから“あなた”と“あなた”の大切な人たちに向けた最大級の愛の歌。自分の周りにいる大切な人たちひとりひとりに会いに行って抱き締めたくなるような、そんな多幸感に溢れた本編の締めくくりだった。

 アンコールでは6月にリリースされる約2年ぶりのフルアルバム『歓声前夜』と、それを掲げたバンド史上初の全国ワンマンツアーについて告知された。ツアーファイナルのShibuya eggman公演について、渋谷は「俺たちは腐ってもライブハウスのバンドなのでライブハウスに帰ります」と話すと同時に「もっとでかいところも考えてるんで安心しといてください」と、ファンを期待させた。また、『歓声前夜』から新曲「ラヴソング」もいち早く披露。<あなたが幸せでありますように>という歌詞が印象的な朗らかな楽曲だった。

 「これからもあなたたちでなくてあなたに歌うバンドでいたいと思います」と改めて挨拶し、続けて喋ろうとするも感極まり言葉を詰まらせる渋谷。「今日をゴールにしないために絶対に泣かないって決めてんだ」と涙をこらえながら残り2曲。「それでも世界が目を覚ますのなら」では<ユメカラサメタクナイ>と終わりを惜しむように歌う。そして、この夢のような時間の最後に見せてくれたのは金色の紙吹雪が舞う「素晴らしい世界」だった。<素晴らしい人生と 素晴らしい世界だと笑うにはさ 独りでは意味がない わかってるかい あなたがいなきゃ意味ない>という最後のサビでは、渋谷の歌と柳沢のコーラスがひと際力強くなった。

 誰しもの一秒先の未来に歓びがある保障はない。それでも、彼らは前に進み続ける。真っ暗な一秒先の未来を素晴らしい世界にするために、これからもSUPER BEAVERは“あなた”と向き合い、手を取り、当たり前で特別な日々を生きていく。(取材・文=小崎恒平)

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