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奥田民生に聞く、YouTubeでの活動に積極的に取り組む理由 音楽の身近さを伝える一貫した姿勢

リアルサウンド

20/6/18(木) 12:00

 2010年に行った、客前でレコーディングしながら1公演1曲完成させて配信し、あとでアルバム(『OTRL』)にまとめる、という前代未聞のツアー『ひとりカンタビレ』の延長線上にある「ひとり宅録全部見せます」企画、『カンタンカンタビレ』(途中からゲストミュージシャンも参加)。

 寺岡呼人・斉藤和義・浜崎貴司・トータス松本・YO-KINGとのバンド=カーリングシトーンズ全員で、演奏したり大喜利をやったり、岸田繁・伊藤大地とのバンド=サンフジンズ全員で、演奏したり電車の話をしたりする、そんなさまを見せ、聴かせる、『カンタンテレタビレ』。

 バーチャル背景を活用して「弾き語り映像」や「メンバー全員奥田民生バンドの映像」や「メンバー全員奥田民生のコーラスグループ映像」をアップしていく『カンタンバーチャビレ』。

 機材を紹介したり、自分が持っている「家が買えるレスポール」とその再現モデル2本ではいかに音が違うのかを比較したり、ヘロスタジオでドラムを録れないものかと工夫する『謎ドラム実験』を行ったり、ギターの弦2本だけでロックンロールを弾く方法を伝授したりする、『カンタンカンタビレ番外編』。

 と、企画別に並べてみたが、これでも全然拾いきれていないくらい、奥田民生のYouTube活動が、めったやたらと精力的なものになっている。ソロもユニコーンもそれ以外のバンドも、セッションも人のプロデュースも曲提供も、もうとにかくやりまくる、マイペースっぽいキャラだけど超ワーカホリックなミュージシャンが奥田民生であることは周知のとおりだが、新型コロナウイルス禍でライブ活動を奪われたことで、そのアウトプット欲のすべてがYouTubeになだれこんでいる、と推測される。

 そんな現在をどう捉え、何を考えているのか、リモートインタビューで本人に問うた。なお、6月17日には新曲「サテスハクション」がCD化。アニメ『ハクション大魔王2020』の主題歌として書き下ろした新曲で、放送では4月からオンエアされている。各ストリーミングサイトでも、本人の55歳の誕生日である5月12日から先行配信が始まっている。(兵庫慎司)

(関連:奥田民生の新グッズ「老眼鏡(RGM)」が大人気 邦楽ロックファンの高齢化を今だからこそ考える

■『カンタンカンタビレ』から広がったYouTube活動

ーーYouTubeの投稿ペース、このコロナ禍で相当上がってますよね。

奥田:そうですね。YouTubeの投稿自体は前からやってたけど、今は、なんならそれしかやることがなくなった、っていうのもあるし。弾き語りだったら毎日でもできるけど、それよりも、いろいろアイデアを考えてやる方が楽しいと思って。小賢しいことをね、やってますよ。

ーーそもそも自分のレーベル(RAMEN CURRY MUSIC RECORDS)を立ち上げたのは、配信などをスピーディーにやれるようにしたかったから、とおっしゃってましたよね。

奥田:はいはい。

ーーその時からYouTubeでの活動も念頭にはあった?

奥田:YouTubeでこういうことをしたいなとか、はっきり思ってたわけじゃないけど、なんか思いついた時にね、曲ができたら次の日には出てるぐらいのスピードがほしい時代なんだろうな、というのはありましたから。そこでいちいちお伺いを立ててるヒマはないと。そういう理由で、ひとりになったんですけど。

 まあ、だからといって、「じゃあすぐにこれをやって、次はあれをやって……」っていうのが、あったわけじゃないので。「これでできるようになったけど、どうしよう?」みたいな順番だったかな。だから、最初は、自分のアルバムの曲のMVを作ったりとか、そういうとこから始まりましたけどね。

ーーそれがだんだん『カンタンカンタビレ』で、自宅録音をやってみせるのを始めたりして、積極的になっていったのは?

奥田:あのー、前にあれやったじゃない? 『ひとりカンタビレ』、ライブで。みなさん生でライブを観るけど、実際その音を録音してる時の様子は、あんまりわからないじゃないですか。それを、興味がある人はもちろん観たいだろうし、まったく知らないで暮らしてる人も、こんな感じで音は録れていくんだ、みたいなのがわかるっていうのは、楽しいんじゃないか、と思いまして。

 それで、『ひとりカンタビレ』の時みたいに、自分で新しい曲を作って、それをやっていくのもいいんですけど、半分ぐらい知ってる曲を1から作ってる画を見せる方が、わかりやすいかなと思ったから、『カンタンカンタビレ』では、今まで人に提供した自分の曲をやることにしたんですよね。まあ新曲を作るのがめんどくさかったのもありますけど(笑)。

 そうやって始めて、できるだけ、みんなもできるような。機材はね、アマチュアの人が買えないようなものも使ってるんで、そこは真似できないかもしれないですけど、やり方というか、録り方のアイデアとか、そういうのは参考になるところがあると思うんで。

ーー確かに、ドラムの代わりにそのへんのものを叩いてリズムを録ったりとかもしてますよね。

奥田:そう。ドラム、家で叩くわけにはいかんから、代わりになんかないかな、とか。今これができないけど、そこでやめるんじゃなくて、代わりのものを探す、というのは、うまくいったらモチベーションが上がることですし、「私もやってみよう」みたいな人もいると思うんで。

 たまたま立ち寄って買ったハンバーガーの箱、「これ、スネアに合うな」と歩きながら思って。で、中身はすぐ食べて、箱を叩いて録って、みたいな。そんな感じで思いついたことを取り入れていますね。

ーー『カンタンカンタビレ番外編』で、民生さんのレスポール3本の音の違いを検証する回がありましたよね。ああいうのも『ひとりカンタビレ』と同じ趣旨で、ギターを弾かない多くの人が疑問に思うであろうことを、解き明かしていくというか。

奥田:うん。まあ、レスポールなんて、俺が高い楽器を持ってることは知っていても、それが実際音がどう違うのかっていうのは、わからないと思うんで。ライブとかで観てもね。同じ状況で聴き比べて、どれぐらい違うのかというのは、自分でもやってみたかった。

 俺も最近はもう、レコーディングで、「この曲にはこれが合ってる」ってギターをとっかえひっかえするのも、どうでもよくなってきていて。「こんなにいっぱいギターいらないよ」みたいな感じになってきてたんですけど、ああやって比べると、やっぱり違うもんだなと、自分で思いましたよ。あの回で、自分でも言ってるけど、いちばん高いやつがいちばん好きな音だったことに、ホッとしたというか(笑)。

ーーそういうふうに、曲を作って発表するのとライブをやる以外の、音楽にまつわることをエンターテインメントにできないか、というのは、『カンタンカンタビレ』を始めた頃からずっと、民生さんのテーマのひとつになっていますよね。

奥田:なってます。もちろんライブと作品を作るっていうのは、メインですよ? ただ、普段の生活の中で、それだけじゃないわけで。そういうところが、見せられて、おもしろかったらいいかもね、と。CDを作ってライブをやるっていうことも、今や誰だってできることではありますけど、それをさらに、もっと誰でもできるレベルで、おもしろいかどうか、っていうか。

 たとえば、照明とかがちゃんとセッティングされたライブ会場でやるのは、もちろんかっこいいわけだけど。それに憧れて音楽を始める人もいるけれども、もうちょっと身近なところで音楽をやってるのを観て、やりたくなる人もいるんじゃないかなと。最初に始めたときはそんな感じで思ってましたね。

ーー簡単なんだよ、身近なんだよ、誰でもできることなんだよ、というのが、民生さん的には大事みたいですね、一貫して。

奥田:そうですね。もともとだって、演奏がすごい上手なわけじゃないですし、そんな難しいことはやってないですからね。教則ビデオみたいなわけではないじゃない? 俺がやってるのは。プレイ自体も、そりゃまあ、ヘタじゃあないですけど、ものすごく高等なことでもないのよ。ただ、組み合わせで、どういう音楽になるか、っていう話で。

 だから、音をバラバラに聴かせたからわかること、っていうのは、あると思うんですよ。できあがりをポンと聴くと、そのできあがりをいいか悪いかで判断して、好きだなとか嫌いだな、とかなるわけですけど。それがどういう組み合わせでできてるのか、っていうところまで知りたい人もいるだろうと。そんな感じですよね。

■「やりづれえなあ!」みたいなのも悪くない

ーーで、コロナ禍でライブができなくなって以降、YouTubeのバリエーションがどんどん増えていきますよね。

奥田:もうこれしかやることがないもんだからさ、そりゃあいろいろ浮かぶよ。それこそ、ZOOMにバーチャル背景っていうのがあるじゃない? あれに僕が、非常に食いついてですね(笑)。要するに背景を変えれば、どこでも行けるじゃん、海辺で弾き語りもできるじゃん、と。だから、バーチャル背景から広がりました(笑)。あの『カンタンバーチャビレ』は。

ーーあと、カーリングシトーンズでも、サンフジンズでも、ウェブ上で合奏をするじゃないですか。あれは、それぞれが元の曲を聴きながら演奏するんですよね。

奥田:そう、「せーの」で一緒にプレイボタンを押して、それを聴きながら演奏してるんで。他の人が今何を演奏してるのか、まったく聴かないでやってるんです。

ーーその時に民生さん、「録ったあとで編集で直すから」っておっしゃってましたけど、どの程度直してるんですか?

奥田:音を別で録ってるファイルがあって、それを6人なら6個集めて、タイミングを合わせて、あとで動画を合わせる、っていうだけの話なんですけどね。

ーーほかのバンドが、ウェブでセッションしている動画を観ると、まずドラムを録って、その音源を送って、ベースをかぶせて、ギターをのっけて……っていうふうに、きれいに作ってる人が多くて。それ、完成度は上がるけど、ウェブでデータをやり取りしてるだけで、やってることは普通のレコーディングだよな、と思うんですよね。

奥田:ああ。まあ、レコーディングと同じですよね。

ーーだから、カーリングシトーンズも、サンフジンズも、あえて一緒に演奏して、ウェブ越しだからどうしてもぴったり合わなくて……というのがいいなあと(笑)。生だからこそこうなりますよ、っていうのを見せたいのかな、と。

奥田:そうですね。本当にちゃんと音を仕上げたかったら、一個ずつ録るのが正解なんですけど、それだと「せーの」感が出ないんで。いきあたりばったりな方が、生々しいかなと。結局、音自体もそんなにちゃんと録ってないから。音自体が、なんか、悪いじゃん?

ーー(笑)。そうですね。

奥田:そこに臨場感があるよね、と。音楽のジャンルによっては、それじゃダメなのもたくさんあると思うけど。たかが俺らの音楽は、こんなもんよ、っていう(笑)。

ーー2月末以降、表立った活動が止まってしまってからは、YouTube以外の創作活動はしておられます?

奥田:いや、もう、ひたすらYouTubeのことを考えたり、撮影したり。

ーーライブを再開しようにもこの状況だし、今後のことを聞かれても困りますよね。

奥田:困るね。本当に困る。だからやっぱ、ライブをやりたいけど。みんな困ってるもんね。

ーーとにかく何よりも、まずはライブをやりたい?

奥田:はい。そりゃあそうですよ、やっぱり。ただ、まずそれがいちばん大変だっていうのがあって。いちばんの難題ですよね、今のところ。

ーー「はい、ライブやってもいいですよ」ってなっても、「じゃあ来週やろう」ってわけにいかないし。

奥田:そうなのよ。

ーー会場を押さえて、メンバーとスタッフのスケジュールを調整して、リハーサルの予定を組んで、券売は……っていうタイム感は、どうしても必要ですもんね。

奥田:そうなのよ。だから、シトーンズの残りのライブとかも、一回中止って言うしかなかったんだよ。いつライブやってもOKになるかがわかんないから、次の予約もできないで。で、「ライブやっていいですよ」ってなって、そこから小屋を押さえて、ってなると、また時間かかるから。もう果てしないね。

 最近は無観客ライブとか、やってる人もいますけど。でも……やってもいいんだけど。ありはありですよ? ありだけど、ライブをやるのとは違うよね。ライブとは別の、番組のようなものだから。

 それだったら、それこそ『テレタビレ』で、ゲームしたり、演奏したりっていう方が、よっぽどライブなんじゃないか? とか。そういうふうに、「今だからこんな感じでやってます」みたいなのを見せた方が、リアルなんじゃないか、と思ったりしてるんですけど。まあでも、ずっとこれだと、当然煮詰まりますからね。

ーーシトーンズに限らず、ソロでもユニコーンでも、無観客ライブというのはやらない?

奥田:いや……あのー、やる理由がいろいろあると思うんで。

ーーまあ、やっている人たちは、そうですよね。

奥田:うん。だから、なしではないですよ、全然。それこそライブハウス救済のためってやってる人もいるし、そういうのは絶対いいと思うんです。理由によるよね。まあ、俺もいつかやるかもしれないですよ。ただまあ、「ライブをやるんだ」っていう心意気ではないと思うね。別のものです。でも、俺、別のものをけっこう好きだから、なんなら。

ーー(笑)。確かに。

奥田:だから、タイミングとか、理由とか、そういうのがあれば。……でもさあ、ほんと、スタッフも集まらないで、こういうテレワークでもなくて、なんかできないかな? とか、そういうことを考えてんのよね。ユニコーンでひとり10m離れて演奏するとか……どこでやんのよ、それ、みたいな案だけど(笑)。

 だから、やるんなら、スケールダウンするんじゃなくて、機材とかも含めて、いつもの規模でやんないとさ。なんかこう、画期的なアイデアがないものかと、日々思ってるけどね。誰かがなんかやってくれないかな、とか(笑)。それを見て真似したいな、と思ったりしてますね。

ーーそういう話を、スタッフとか、他のミュージシャンと、したりします?

奥田:しますよ。シトーンズもね、ああやって集まると、収録してる時以外で、いろいろ話をしてますよ。まあでもさ、テレワークのこういうアプリだとかが、あってよかったね。これが10年前だったら、なんにもできないよ。

 たとえばこれが、将来的にもっと進化して、タイムラグがなくなるとか、画とか音もきれいになるとか、容易に想像がつくじゃないですか。10年後ぐらいは、全然よさそうじゃない? だから、ギリできる、今のこの感じっていうか、これも悪くないのよね(笑)。「やりづれえなあ!」みたいなのも、悪くないというか。

 まあでも、この程度できてはいる状況が、あるとないとじゃ違うなあ、と思いますね。もともと俺、Twitterとかそういうのも全然しないんで。

ーーそうですよね。SNSとか……。

奥田:全然やんないから。だから、こんな状況になったけど、YouTubeを何年か前からやりだしていたおかげで、俺的にはわりとすんなり対応はできたわけよ。それやってなかったら、「1からかい!」ってなるでしょ? そこはね、前からいろいろやってたのが、役に立ってますね(笑)。

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