内戦が続くシリアの首都ダマスカスが舞台。戦争映画であるのにかかわらず、市街戦の描写はまったく出てこない。映画の冒頭で、一発の銃撃が描かれるだけだ。以降、すべてのシーンは集合住宅のある世帯の中だけで進む。外の戦争は轟音や銃声、爆発音などの“音”だけでしか表現されない。 それなのに、展開はおどろくほどにドラマチックであり、切迫感があり、緊張でまばたきもできないほどだ。幼子をかかえた若い夫婦が部屋を爆撃で壊され、戦地に行った夫の留守を預かる女性のところへと避難してくる。脱出の準備を進めようとする若夫婦。あくまでも“わが家”にとどまろうとする女性。そのふたつの選択が対比として描かれる中で、若夫婦の夫がスナイパーの銃弾に倒れ、生死不明となる。そしてそんな状況のところに、暴漢たちが部屋に押し入ってこようとする……。 緊迫するセリフによって畳み掛けられている物語は、非常に良質で完成度の高い演劇を見ているようでもある。密室劇であるのにもかかわらず、外の戦場へ観客の意識が持っていかれる感があり、映画の想像力の底しれぬ奥行きを感じさせる。