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立川直樹のエンタテインメント探偵

ポン・ジュノ監督『殺人の追憶』、アダム・ドライバー主演『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』…テレビ桟敷で怪作映画を楽しむ

毎月連載

第64回

『殺人の追憶』/【4Kニューマスター版】Blu-ray 4,400円(税込)、DVD3,520円(税込)/発売・販売元:TCエンタテインメント (C)2003 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

終了してもなお安物のブラックコメディ映画のような情況が続いているアメリカの大統領選挙から映画までテレビ桟敷で過ごす時間を楽しんだ2週間だった。

中でも唸らされたのはポン・ジュノ監督が農村を舞台に起きた猟奇殺人事件を題材に描いたサイコミステリー『殺人の追憶』。『パラサイト 半地下の家族』を観て、その才能に驚かされたポン・ジュノ監督の2003年の作品で、公開当時は全くノーマークだったが、ジュノ監督の常連ソン・ガンホ以下俳優陣のうまさと一瞬たりと気をそらせることのない演出が申し分なく、音楽の使い方も抜群で、これは“日本映画しっかりしないと本当にヤバイぞ”と思わずつぶやいてしまった。

映画の終了後、本人とジュノ監督を見出し、ずっと行動をともにしているプロデューサーのインタビューも観ることができたが、コメントも実に理知的で納得させられた。

同じ11月15日にWOWOWで観た『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』は『殺人の追憶』とは真逆のストーリー展開も俳優たちの演技も完全にブッ飛んでいる強力な1本。「25年に及ぶ挫折を乗り越えて……」というテロップが入って始まった133分の映画は自らをドン・キホーテだと信じる老人と、アダム・ドライバー演じる若手映画監督の奇妙な旅の行方を現実と幻想を織り交ぜて描いたものだが、撮影も演出も何もかもが規格外で、本当にこの人は一筋縄ではいかないと、変な感心をさせられてしまった。スペイン、ベルギー、フランス、イギリス、ポルトガル5ヶ国の共作という形で仕上がったが、興行的には絶対成立しなかっただろう筋金入りの怪作だ。

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(C)2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mat o a Don Quijote A .I.E., Tornasol SLU

そして怪作と言えば、翌16日にチャンネルNECOで観た『犬神の悪霊〈たたり〉』も凄かった。『さそり』シリーズで名を挙げた伊藤俊也監督が1977年に東映で撮った映画だが、謎めいた山村で起きる“たたり”ものを最近の映画にはまずないドロドロした演出で描いていて妙にはまってしまった。主演は大和田伸也。山内恵美子と泉じゅんが共演で、岸田今日子、小山明子、白石加代子といった人たちも出ていた。白石加代子は舞踊指導で霊媒師を演じ、強力なパフォーマンスで思わず笑わされた。その後に観たテレンス・クロフォードvsケル・ブルックのWBO世界ウェルター級タイトルマッチで現実の世界に戻ってこられた気分になった、かなりの怪作だった。

金沢・泉鏡花記念館の企画展『鏡花本ー美しき書物のつくり手たちー』が掛け値なしに素晴しかった

勿論、お出かけもしている。11月6日には来年が誕生百年ということで、本を作ることも考えている、昭和歌謡の歴史に輝ける足跡を残している吉田正の日立にある音楽記念館に行き、レコードジャケット690枚の壁や、映画ポスターなどの充実した展示とその偉業に改めて驚かされたが、同じ記念館では11月18日に行った金沢の泉鏡花記念館で観ることができた企画展『鏡花本ー美しき書物のつくり手たちー』が掛け値なしに素晴しかった。

『鏡花本ー美しき書物のつくり手たちー』ポスター

鏡花の著作はその装幀の美しさから“鏡花本”と呼ばれ、多くの人に愛好され続けているが、明治、大正、昭和にわたって、そして現代もなお本好きの心を惹きつけてやまない装幀の美を送り出してきた鏑木清方、鰭崎英朋、小村雪岱という画人たちや出版社に焦点を当て、溜息が出るくらいに美しい書物の誕生の背景を辿る展覧会になっていて、本当に時の経つのを忘れて見入ってしまった。

その妖しい美しさが完全に時を越えている鰭崎英朋の『続風流線』の初版本口絵、鏑木清方の『三枚続』初版本口絵、「鏡花先生の作品は勿論、鏡花先生の生活の全般……その奥の奥、裏の裏、骨の髄にまで本当に透入していたのは、奥さんはべつとして、じつに小村さんただ一人だった」と久保田万太郎に言わしめた小村雪岱の『日本橋』初版本表紙や『星之歌舞伎』表紙校正摺などは、物を作る人たちの美意識の高さと技術力というものは絶対に機械によって生まれるものではないことをはっきりと示していて、大いに勇気づけられもした。

泉鏡花『風流線』初版本

作品紹介

『殺人の追憶』(2003年・韓国)

監督・脚本:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ/キム・サンギョン/パク・ヘイル/キム・レハ/ソン・ジェホ
放送日:2020年11月15日
WOWOW

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(2003年・韓国)

監督・脚本:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ/キム・サンギョン/パク・ヘイル/キム・レハ/ソン・ジェホ
放送日:2020年11月15日
WOWOW

『犬神の悪霊〈たたり〉』(1977年・日本)

監督・脚本:伊藤俊也
出演:大和田伸也/鈴木瑞穂/泉じゅん/室田日出男/岸田今日子/山内恵美子
放送日:2020年11月16日
チャンネルNECO

『鏡花本ー美しき書物のつくり手たちー』

会期:2020年11月14日〜2021年2月23日 会場:泉鏡花記念館(石川県金沢市) 公式サイトはこちら

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著にSUGIZO、TAKUROとの対談集『CONVERSATION PIECE ロックン・ロールを巡る10の対話』(PARCO出版)、『I Stand Alone』(青幻舎)。

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