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いきものがかり水野良樹の うた/ことばラボ

w/堀込高樹(KIRINJI) 中篇

隔週連載

第42回

基本的な作り方を確認したら、次はその音楽的な個性がどんなふうに生み出されるのかという謎に分け入っていくことになる。水野は、KIRINJIの音楽が常に持ち合わせている奥ゆかしさと、だからこその受け入れやすさの秘密を探っていく。

水野 KIRINJIの歌詞を読み解いていったときに、“わりと激しい内容のことを言ってるな”とか“かなり隠微な世界を描いてるな”とか、はっきりと立ち上がってくるイメージがあるんですけど、そういうものを僕が書くと、下世話というかよくない生々しさが出てしまう気がするんです。どうしてこんなにスマートに受け取れるんだろう?と思うんですけど、それは僕には絶対出せない品があるからなんですよね。もちろん、サウンドも含めたことではあるんでしょうが、その秘密を知りたいなとすごく思うんです。

堀込 ひとつ思うのは、声質とか歌い方とか、もちろん曲調も含め、そういういろんなものが合わさって、どちらかと言うと、ビビッドと言うよりは中間色の感じになるということはあるでしょうね。いきものがかりの場合は、やっぱり吉岡さんのボーカルはすごく強いし、曲も明快じゃないですか。

水野 はい、申し訳ないくらいそうですよね。

堀込 (笑)。例えば「ありがとう」という曲は“ありがとう”という言葉をバーンとサビに持ってくるわけですよね。それは、なかなか勇気がいると言うか、そういうことをやりながらちゃんと作品として説得力を持っているというのはすごいことだと思うし、それは僕にはないものですよね。

水野 ご自身の声質というのは、意識して書かれるんですか。

堀込 そんなに意識はしないんですけど、でも歌いながら作るから、結果としては意識してるのかもしれないですね。今は僕が歌ってますけど、前は(堀込)泰行が歌ってて、彼もどちらかと言えばソフトな感じの声で、自分の声、あるいは泰行の声だと“これはあまりいい感じに響かないな”ということを考えることもあるんですけど。やっぱり怒りは怒りとして、猥褻なものは猥褻なものとして表現したいんだけどなあっていう。そういう思いはあるんですよね。

水野 むしろ、もっとフラットな印象になるようにしようと考えていらっしゃるのかなと思ってました。

堀込 いやいや、それはないですよ。

水野 とすると、そこの緊張感と言うか、猥褻なものを猥褻なものとして表現したいという思いとそれでも漂ってしまうフラットな感じとのバランスが唯一無二の世界を生み出してるんでしょうか。

堀込 どうでしょう……。難しいですね。

水野 自分の話をして恐縮なんですが、僕は最初“みんなに聴かれる”みたいなところにいこうとは思ってなかったんですね。

堀込 そうなんですか!?

水野 今のように老若男女に向かって歌を投げかけるような人間になるとは思っていなかったので、そういうものを作ろうしたときに“自分自身を消さないといけない!”という意識でやっていた時期が長かったんです。そういう僕からすると、堀込さんの作る曲の、あのニュートラルな感じというのはどうやったら出せるんだろう?と思うんですよ。しかも、ニュートラルな感じだからと言って、無色透明なのかと言えばまったくそんなことはなくて。KIRINJIにしか表現できない概念のようなものがあるなあと感じるんですよね。

堀込 う〜ん……、そこは難しいところで、水野さんが言ってくれたような感じというのは、言い方を換えると、ツルッと聴こえている可能性があるということでもあると思うんです。でも、ポップスとして届けるということから言えば、もうちょっとひっかかりのある声とかわかりやすい言葉とか、そういうほうがいいのかなと思ったりもするんですよね。

── 例えばアルバム『cherish』に入っている「shed blood!」という曲は、今の世の中の情勢に対してひと言、言っておきたいというか……。

堀込 僕が何か言ったからって、どうなるものでもないんですけどね(笑)。

── (笑)。それにしても言っておきたいという切実な気持ちというか、もっと言えば怒りに近い感情がベースにあると思うんですが、音楽全体の印象としてはそういう感情に通じる激しさは感じさせない仕上がりになっていますよね。それは、怒りのような感情をストレートに表現することにブレーキがかかる感じがあるんでしょうか。

堀込 たぶん、音楽的な心地よさのほうを優先しちゃうんでしょうね。感情を表現するとは言っても、音楽的な心地よさは絶対に大事、っていう感覚があるんですよ。

水野 なるほど!

堀込 確かに「shed blood!」というのはちょっとポリティカルな内容ではあるんですが、それを強く押し出すことには照れというか、ちょっと抵抗があって、まず音楽として聴いて、楽しいとかきれいだなとか、あるいはいいグルーブだなとか、そういう楽しみがあった上でのメッセージというような形であってほしいと思ってるということなんじゃないでしょうか。

水野 メッセージそのものが、作品の顔になってしまうのはちょっと違う気がするということですか。

堀込 そうですね。そういうものにしたいんだったら、最初から文章で書けばいいと思うし、今だったらTwitterで呟けばいいじゃないかと思うんです。やっぱり音楽だから、音楽ありきで僕は考えたいんです。仮に詞が先だったとしても、メッセージが先にあったとしても、それを伝えるとなったら、エンタテインメントとして伝えたいなと思うんですよね。

水野 だから、そのメッセージもフラットに受け取れるんでしょうね。詞は、どの段階で書くんですか。

堀込 ある程度サウンドの方向が決まってからです。そのほうが、イメージがわきやすいので。ただ、アレンジャーによっては、「詞がないと、アレンジができない」という人はいるんじゃないですか。

水野 いらっしゃいますね。

堀込 先にサウンドを作ってしまって、後から歌詞ができてきたときに「そんな詞だったら、ブラスを使ったのに……」とか、いろいろあると思うんですよね。水野さんがアレンジャーに発注するときには、もう歌詞はあるんですか。

水野 歌詞がないこともありますけど、最近はあることがほとんどです。

堀込 歌詞はない場合でも、イメージはできてる、という感じですか。

水野 アレンジャーさんに渡すものがもう、その曲のイメージになっちゃうので、サビの大事なところは歌詞を付けたり、「歌詞の内容はこういうことです」というようなものを添えたりとか。それに、ウチは“歌もの最右翼”みたいな感じなので……(笑)。

堀込 (笑)。

水野 どんなサウンドがきても大丈夫、というようなものにしないといけないということは最初にすごく叩き込まれたんですよね。

堀込 だから、強いんじゃないですか。曲そのものの強さがあるんでしょ。

水野 いや、あの……、はい、どうでしょう(笑)。

堀込 (笑)、アレンジはやらないんですか。

水野 いや、それはあまりにも技術がないので……。

堀込 そんなことないんじゃないですか。たぶん、玉田(豊夢)さんとかを「ちょっとやってくださいよ」とか誘って、デモテープを一緒に聴いてやればすぐできちゃうような気がするけど。その上で、ストリングスとか必要だと思ったら、それはストリングスのプロにつけてもらうとか、それでやれそうな気がしますけどね。

取材・文=兼田達矢 写真=映美 ヘアメイク=長谷川亮介(水野良樹)

次回は3月22日公開予定です。

プロフィール

水野良樹(いきものがかり、HIROBA)

1982年生まれ。神奈川県出身。
1999年に吉岡聖恵、山下穂尊といきものがかりを結成。
2006年に「SAKURA」でメジャーデビュー。
作詞作曲を担当した代表曲に「ありがとう」「YELL」「じょいふる」「風が吹いている」など。
グループの活動に並行して、ソングライターとして国内外を問わず様々なアーティストに楽曲提供。
またテレビ、ラジオの出演だけでなく、雑誌、新聞、webなどでも連載多数。
2019年に実験的プロジェクト「HIROBA」を立ち上げ。
2/24、33枚⽬のシングル「BAKU」、3/31、9枚⽬となるニューアルバム『WHO?』をリリース予定。

堀込高樹(KIRINJI)

1996年、実弟の堀込泰行と「キリンジ」を結成。1997年のインディーズデビューを経て、翌年メジャーデビュー。
2013年の堀込泰行脱退以後、新メンバー5人を迎えたバンド編成「KIRINJI」として再始動。
8年間の活動を経て、2021年からは堀込高樹のソロプロジェクト「KIRINJI」として活動中。
自身の作品のほか、他のアーティストなどへの楽曲提供、劇伴音楽、テーマ曲制作等、幅広い分野で活躍している。

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