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大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

春興行の主要作品がまるまる消えたー公開延期30本近く、コロナ・ウィルスがもたらした映画界の危機

毎月29日掲載

第20回

20/3/29(日)

状況は一変した。前回、新型コロナウイルスの拡大の影響による、映画の公開延期や映画館の休館などに触れた。2月28日時点の話だ。この1カ月、新型コロナは中国からアジア、日本、さらに欧米から地球規模で爆発的に広がった。その間のことは、すでに周知の事実だ。今回、記録的な意味を込めて、この1カ月の映画界の動きを、公開延期作品に限って整理しておきたい。映画館の休業なども重要だが、とてもここでは収まり切れない。

——と、書いている矢先に、都内の新型コロナウイルスの感染者増大に伴う都知事の外出自粛の要請があり(3月25日)、興行大手をはじめとする多くの映画館が、都内、神奈川、埼玉を中心に、この週末(3月28、29日)の映画館休業を決めた。日ごとの動きは、全く目まぐるしい。この休業は一過性の話ではないかもしれない。さらに、この土日(28、29日)の興行の集計はどうなるのか。気になることばかりだが、今回は先に触れたように、公開延期作品のみに絞り、そこから推測できる興行事情に触れようと思う。ただ、あくまで、3月27、28日あたりの時点だということをお断りしておく。では、公開延期作品(比較的、公開規模の大きな作品に限る)を、延期が決まった順に挙げてみよう。

公開延期作品一覧

▽東宝『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(本来の公開時期:3月6日)
▽ディズニー『2分の1の魔法』(3月13日)
▽ディズニー『ムーラン』(4月17日)
▽SPE『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(3月27日)
▽東宝東和『ドクター・ドリトル』(3月20日)
▽東宝東和『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(4月10日)
▽東和ピクチャーズ『ソニック・ザ・ムービー』(3月27日)
▽SPE『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』(5月22日)
▽東和ピクチャーズ『クワイエット・プレイス PARTII』(5月8日)
▽東宝東和『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(5月29日)
▽ディズニー『ブラック・ウィドウ』(5月1日)
▽東宝『STAND BY ME ドラえもん2』(8月7日)
▽ギャガ『ランボー ラスト・ブラッド』(6月12日)
▽東宝東和『ミニオンズ フィーバー』(7月17日)
▽東映『映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』(3月20日)本作は延期発表が遅くなった
▽WB『ワンダーウーマン 1984』(6月12日)
▽アニプレックス『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]III.spring song』(3月27日)
▽KADOKAWA『エジソンズ・ゲーム』(4月3日)

延期の作品は、30本近くにのぼる(3月末時点)。大変な事態である。洋画の延期に関しては、当初は国内の事情であったが、日が経つにつれて、米国の事情が大きくなった。『007』『クワイエット・プレイス』『ワイルド・スピード』『ブラック・ウィドウ』『ミニオンズ』などが、米国での公開延期に伴うものだ。延期という事態に、邦画も洋画もないが、米国本国の延期の増加は、とくに今後に大きな影響を及ぼすことも考えられる。延期作品の新たな公開時期が重なることもありえる。そうなると、上映回数に限界も出てくる。というより、その延期自体のさらなる延期も視野に入れていく必要がある。

では、具体的な数字に触れてみれば、この1~2月興収は、大手11社の配給会社の累計で257億3243万円だった、これは、昨年の1~2月対比で、83・9%である。さらに3月の推定を聞いてみれば、昨年3月の70%も興収を下げる映画館も出てくると見られる。昨年の70%ではない。70%減である。それは、そうだろう。さきに羅列したように、春興行の主要な作品が丸々ない。ざっと大雑把に計算したところでは、作品累計興収では、今年の春興行は100億円以上のマイナスとも推定できる。この100億円云々は、3月分にすべてが入る興収ではないが、本来なら3月中旬から下旬分はフォローするので、3月興行が大打撃であるのは言うまでもない。さらに、もし、延期の話が4月GW興行にまでは波及すれば、事態はさらに深刻の度合いを増す。

「このままでは、もう、もたない」と、悲鳴を挙げるミニシアターも出てきた。映画館でいえば、資本力が相応にある興行大手はともかくとして、資本力がそれほどではない中小興行会社の映画館、ミニシアター、名画座などが、これからもっとも厳しい局面を迎えるだろう。事態の打開は、映画界だけではどうしようもない。今後、当然ながら様々な産業分野の領域で、国の支援の話が出てくるだろうが、ここに全面的な信頼が置けないのが、今の日本の政治、行政のシステムである。とはいえ、映画界の各団体が一致団結して、その支援対策へのアピールを、積極的に行っていくことが求められるのは言うまでもない。

この3月31日、金沢市にある成人映画館の「駅前シネマ」が閉館する。成人映画館は、もともと経営は厳しい。「駅前シネマ」もまた同様で、今年の東京五輪・パラリンピックをめどに、閉館の予定だった。それが、新型コロナの猛威でここ数週間、動員が激減し、閉館の前倒しを余儀なくされたのである。これは、「駅前シネマ」だけの話ではないだろう。これまで、何とか踏ん張ってきた映画館が、今回の事態を受け、共倒れしかねない危機を迎えたのである。踏ん張ることができなくなるのだ。そのような事態も、一つ一つ見ていく必要があるように思う。


プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、静岡県浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイなどで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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