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下ネタ満載のコメディからファミリー映画まで 俳優ウィル・フェレルの多才な魅力

リアルサウンド

20/12/19(土) 8:00

 12月1日からNetflixドキュメンタリーシリーズ『僕らを作ったクリスマス映画たち』の配信が開始された。制作陣へのインタビューと撮影の舞台裏映像を交えながら、今や名作として知られるようになったクリスマス映画製作の苦労を知ることができるのは、とても興味深い。同シリーズでは『エルフ サンタの国からやってきた』と『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の2作品が取り上げられている。

 後者は日本でも説明不要の大人気作品だが、『エルフ』はあまり知られていないかもしれない。2003年に製作された本作は、日本では劇場公開されず、DVDリリースされた。しかし本国アメリカでは大ヒットし、ファミリーで楽しめるクリスマス映画の定番となっている。本作の監督は、当時は主に俳優として活動したジョン・ファヴロー。彼はこの作品で監督としての手腕を認められ、のちにマーベル・シネマティック・ユニバースの『アイアンマン』などを手掛けることになる。またヒロインのジョヴィーを演じたズーイー・デシャネルなど、本作のヒットで人気を獲得したキャストも多い。

 『エルフ』の主人公は、人間でありながら北極の妖精エルフに育てられたバディ。サンタクロースの工房で働いていた彼は、あるとき自分がエルフでないと知り、本当の父親を探してニューヨークに行くことになる。そこで大騒動を巻き起こすわけだが、純粋無垢なバディに感化され、周囲の人々が変わっていく心温まる作品だ。未見の人はぜひ観てみてほしい。 

 この名作で主人公バディを演じ大人気となったウィル・フェレルも、日本ではあまり知られていないのではないだろうか。彼はアメリカでは知らない人はいない有名コメディアンだが、それだけではない多才な人物だ。2020年6月26日には彼を主演に迎えたNetflixにてオリジナル映画『ユーロビジョン歌合戦 〜ファイア・サーガ物語〜』も配信され、今ますます注目すべき俳優である。

 ウィル・フェレルは、ビル・マーレイやエディ・マーフィを輩出した長寿コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』に1995年から2002年までレギュラー出演し、ジョージ・W・ブッシュなどのモノマネで人気を博した。日本でもヒットした『オースティン・パワーズ』や『ズーランダー』シリーズにも出演している。これらの作品名を挙げるとだいたい想像がつくかもしれないが、彼の出演作の多くは下ネタ満載のコメディ映画だ。主演映画も多いが、そのほとんどが日本では劇場公開されていない。

 ウィル・フェレルの主演作として日本で最も有名なのは、おそらく『俺たちフィギュアスケーター』だろう。同作はフィギュアスケート“男子ペア”を描く、やはり下ネタ満載でハイテンションなスポ根コメディで、現役・引退済み問わず多くの有名フィギュアスケーターがカメオ出演したことでも話題となった作品だ。全米初登場1位を獲得した同作は興行収入も1億ドルを超え、その評判を聞きつけたGAGAが日本公開にこぎつけた。そして1日の総動員観客数新記録を樹立するほど好評を博し、日本でのフェレルの知名度を一気に上げたのだ。

 『俺たちフィギュアスケーター』ヒットの影響もあり、やはりウィル・フェレルといえば下品なコメディのイメージが強い。日本ではやはり劇場未公開ながら、コメディファンには広く知られている『俺たちニュースキャスター』などをはじめとするスラップスティックコメディが、彼の主戦場なのだ。

 それらの作品で、フェレルは常にテンションが高く意味不明で下品な行動をする人物を演じている。そんなパワフルで型破りなキャラクターを体現できるパフォーマーはそうはいないだろう。とんでもなくバカバカしい演技を全力でこなす彼のコメディアンとしての魅力は、その力強さと明るさだ。190センチを超える長身からくり出される驚くほど軽快な動きは、観客の目を釘付けにする。2005年のミュージカルコメディ『プロデューサーズ』では見事なダンスとともに歌声も披露し、ゴールデングローブ賞助演男優賞にもノミネートされた。同作で彼が演じたのはナチス大好きな脚本家という際どい設定のキャラクターだが、フェレルの手にかかると憎めない人物になってしまうから不思議だ。彼が演じる楽天的でおバカなキャラクターは、そのパワーで観客に笑いと元気を与えてくれる。

『俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』

 ウィル・フェレルは実は『エルフ』だけでなく、ほかにもファミリーで楽しめる作品に出演している。映画版『おさるのジョージ/Curious George』やドリームワークスの『メガマインド』、そして『レゴ(R)ムービー』などアニメーション映画への声の出演も多い。そのどれもが良作として知られているので、特に小さなお子さんのいる家庭では大人も一緒に楽しめること請け合いだ。また『パパVS新しいパパ』では、2人の子どもを持つ女性と結婚した継父を演じ、マーク・ウォールバーグ扮するワイルドな実の父ダスティと、子どもたちの支持を奪い合う。フェレル演じるブラッドは穏やかで真面目だが、子どもたちが喜ぶようなクールなことは何一つできない。この作品はフェレル得意のドタバタコメディではあるが、多少ファミリー向けにジョークがマイルドになっている。

 一方で、彼はシリアスな演技もこなすことができる俳優だということも忘れてはいけない。2006年に公開された『主人公は僕だった』で、フェレルはある日突然謎の声が聞こえるようになったハロルド・クリックを演じている。その声によって自分の死を悟った彼は、決まりきった退屈な日常から少しずつ脱出していく。ハロルドは、それまでフェレルが演じてきた役柄とは正反対の、真面目で面白みのない男だ。しかし物語が進むにつれ、彼はテンションこそ低いが、まもなく訪れる死に怯えながらも悔いのない人生を送ろうと静かに奮闘する。繊細な演技が要求されるこの役で、彼はゴールデングローブ賞主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされた。

 フェレルはコメディの才能だけではなく、俳優としてその演技力も評価されているのだ。コメディアンがシリアスな俳優として認められるまでに苦労する場合も多いことを考えると、フェレルがすでにそれを両立していることは、特筆すべきだろう。

 また彼は、近年では自身の出演作で製作を兼任する以外に、他作品でもプロデューサーとしてその手腕を発揮している。彼が製作を手掛けた作品はドタバタコメディが中心なのは想像にかたくないが、『バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!』や『ハスラーズ』、『ブックマート 卒業前夜のパーティーデビュー』など、女性が主人公のものも多いのは意外だ。さらに『サタデー・ナイト・ライブ』時代からの朋友アダム・マッケイの監督作品に関わることもあり、政治ドラマ映画『バイス』のプロデューサーにも名を連ねている。

 ウィル・フェレルは下ネタの多い映画にばかり出演しているコメディアンというだけではない。彼は演技の幅が広く、ファミリー向けの映画やドラマ要素の強い作品にも出演し、その演技力は高い評価されている。さらにプロデューサーとしても活躍の場を広げているのだ。

 そのうえで、2020年には彼が主演を務めるNetflixオリジナル映画『ユーロビジョン歌合戦 〜ファイア・サーガ物語〜』の配信も開始された。本作を観ると、やはりフェレルはドタバタのコメディこそが自分の主戦場だと考えていることがわかる。すでに充分なキャリアがありプロデューサー業もこなしているが、まだまだ第一線から退かないコメディアン魂を感じさせる。ウィル・フェレルは、多才ながらもやはり根っからのコメディアンなのだ。

■瀧川かおり
映画ライター。東京生まれの転勤族で、第二の故郷は島根。幼少期から海外アニメ、海外ドラマ、洋画に親しみ、思春期は演劇に捧げる。高校時代に留学していたため、イギリスびいき。大学卒業後、IT企業での勤務を経てフリーライターに。

■配信情報
『エルフ』
Netflixにて配信中
監督:ジョン・ファヴロー
出演:ウィル・フェレル、ジェームズ・カーン、ズーイー・デシャネル、メアリー・スティーンバージェン、エドワード・アズナー、ボブ・ニューハート

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