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常田大希が描き出す純度の高い“驚き” millennium parade「Fly with me」から感じた比類なき創造性を考察

リアルサウンド

20/5/1(金) 18:00

 millennium paradeが4月23日に新曲「Fly with me」を配信リリースした。ビート&ボーカルから漂うヒップホップに通ずる地下性とブラスの頭打ちによるゴージャスさ、それらが共存することによって生まれる両価性が印象的な曲だ。

(関連:常田大希、石若駿、小田朋美……芸大出身アーティストたちが生む音楽シーンの新たな潮流

 「Fly with me」は、Netflixオリジナルアニメシリーズ『攻殻機動隊 SAC_2045』の主題歌。アニメの公式ホームぺージで常田大希が「攻殻機動隊の主題歌を作って欲しいというオファーを頂いた時、身体中の血が湧き上がったのを今でも覚えている。なぜなら俺たちがmillennium paradeで作ろうとしている世界観は攻殻機動隊から多大なる影響を受けているから」とコメントしているように、millennium paradeにとって――というよりかは、自身の創作テーマとしてしばしば「トーキョー・カオティック」というワードを掲げている常田にとって、代名詞といえる作品となった。

 レイモンド・ローウィが提唱したMAYA理論というものがある。MAYAとは、Most Advanced Yet Acceptableの略で、非常に先進的でありながらも受け入れられるものという意味。人には新しいものに惹かれる気持ちがある一方、理解できないものに対して不安を抱く。刺激は手にしたいが理解できる範囲のものであってほしい、という思いがある。だからヒットするコンテンツとは“なじみのある驚き”を有するものだと言われている。

 ロックバンド・King Gnu。様々なクリエイターを巻き込んだ複合的音楽集団・millennium parade。これらの首謀者であり、メンバーとして活動する常田大希とは、そんな大衆の性質に疑問を抱きつつ、同時にそれを逆手に取りながら「ポピュラリティとクリエイティビティをどう両立させるか」という部分に挑んでいる音楽家であるように思う。芸術を生業にする人たちには――なかでも自分の作品を大衆に届けたいと思っている人たちは、しばしば“自分のやりたいもの“と“世間の求めるもの“をどう擦り合わせるかという問題に直面する。”Advanced(先進的)”という名の毒を、”Acceptable(受け入れられる)”という名の水に如何にして溶かすか。毒入りの水を、如何にして大衆に飲ませるのか。常田はそういう部分に挑んでいるように見える。

■2019年の大衆歌となった「白日」

 この件を語るうえで無視できないのが、2019年にリリースされたKing Gnuの楽曲「白日」。

「『白日』に関しては、売れてるヒットチューンを研究して狙ったわけではないですけど、新しい要素はほとんど入れてなくて。今までKing GnuがJ-POPとしてやってきて食いつきがよかったものを入れる、という方向性で作ったものです。曲の作り方が変わっているのは、全部サビのつもりで作っているからかな。Aメロ、Bメロもサビに持っていけるくらいの強度のもので構成しているから、そういう強さはあると思う。でも、こういうものがこんな広がり方をするんだ、というようなサプライズは別にないんですよね」

――との発言があるように(参照:Rolling Stone Japan)、「白日」はいわば“当てようと思って当てた”曲とのこと。「白日」は井口理のファルセットの美しさを活かしたバラード曲だが、2018年9月リリースの「Prayer X」などを聴けば、「白日」は突然変異的に生まれたものではなく、そこまでの活動を通じて得た手応えを反映させることによって生まれた名曲なのだということがよく分かる。King Gnuは「白日」を携え、昨年末の『第70回NHK紅白歌合戦』に出場。これは「白日」が2019年の大衆歌として受け入れられた証といって過言ではないだろう。

 “全部サビのつもりで作った”というメロディのフックの強さ。曲の構成。そして「人に嫌われない声」と常田が称したというほど、透明度の高い井口のボーカル。常田は、“歌”を重視して音楽を聴く傾向にある日本のリスナーの特性を鑑みて、”Acceptable(受け入れられる)”の鍵をそこに握らせた。そのうえで歌謡曲と他ジャンルの接続を試みた。

 King Gnuでもmillennium paradeでも、常田の生み出す音楽はミクスチャーサウンドにあたる。ここで言うミクスチャーとは、“複数のジャンルを参照し、それらを組み合わせることによって観たことのないものを生み出す”という意味での手法としてのミクスチャー、“人と人、クリエイター同士がぶつかり合うときに発生する熱量を面白がる”という意味での思想としてのミクスチャーでもあり、先に挙げた「トーキョー・カオティック」というワードもここに通ずる。ヒルズもストリートも共存する、雑多で、景観に統一性のない街のイメージだ。このサウンドこそが”Advanced(先進的)”を担っている。

 「白日」の次にリリースされた曲「飛行艇」のことを常田は「たぶんヒットしない」と言っていたが(参照:『ROCKIN’ON JAPAN』2019年9月号)、それでも「飛行艇」は配信開始直後に各種チャートで1位を獲得した。この辺りからKing Gnuは、攻めた曲でも受け入れられるゾーン、毒の配分を多めにしても受け入れられるゾーンに差し掛かっていたのかもしれない。「白日」「飛行艇」も収録された3rdアルバム『CEREMONY』は、インストトラックを除く9曲中7曲がタイアップ曲であり、残った2曲のうち1曲は、家入レオに提供した曲「Overflow」のセルフカバーである。「J-POPの皮を被らなければ受け入れられない」「J-POPの皮を被れば受け入れられる」という実感を基に、どこまで尖ることができるのか。そんなせめぎ合いが垣間見えるようなアルバムになっている。

■J-POP的なカタルシスを再現した「Fly with me」

 そんな状況で突入した2020年。そして「Fly with me」である。「Fly with me」は、2019年5月に開催されたライブ『“millennium parade” Launch Party!!!』ですでに披露されている。そこからブラッシュアップを重ね、King Gnuの活動で学んだ“J-POP的なメロディのつけ方と歌モノの要素”を取り入れたことによって、現在の形にまとまったそうだ(参照:Movie Walker)。

 つまりKing Gnuでの活動、とりわけ2019年の躍進を経て生まれた曲ということ。「Fly with me」の構成を分解すると以下のようになる。

A-B-A-B-C-A-B-B’-A’

 「A」はMVで言うところの0:34~、〈Money make the world go around〉から始まるパート。コードの数が少なく、ボーカルの譜割りが「白日」並みに細かい。「B」は0:57~。ブラスによるキメ(イントロにも登場するもの)と〈~with(With) me〉と歌うボーカルが交互に登場する。「A」と比べ、ボーカルに伸ばしの音が多いのが特徴的だ。「C」は2:23~のラップパート。

 一方、J-POPで頻繁に見られる「Aメロ→Bメロ→サビ」「2番が終わったあと、さらにもう一展開あってからラスサビに入る」という構成は以下の通り。

A-B-C-A-B-C-D-C(C’)

 こうして並べてみると、「Fly with me」はいわゆるJ-POP的な構成をした曲ではないことが分かるだろう。では、どこに“J-POP的なメロディのつけ方と歌モノの要素”が取り入れられているのか。それを考えるうえで焦点を当てたいのが、曲の終盤に登場する「A」「B」の発展形、「A’」「B’」だ。

 順を追って見ていこう。キメ→ボーカル→キメ……という構成の「B」に対し、「B’」では、ボーカルの二声が掛け合いを展開しており、そこに変形バージョンのキメが被せられている。この変更により、ワンフレーズの周期が10拍(「B」)から4拍(「B’」)に早まっている。メロディを変えることにより、テンポを速めずとも聴き手の焦燥感を煽る効果を獲得。そうして「B’」では曲がクライマックスに差し掛かっていることを暗に示している。

 そして「A’」のボーカルはE♭の音を軸にしており、Cの音を軸とした「A」と比べ、全体的に短3度分ほどメロディの音域が上がっている。さらに、ボーカルの声もしっかり張っているため、曲の冒頭よりも、感情がグッと入っているように聴こえる。ちなみに「Fly with me」には転調が一度もない。しかし(メロディ、ボーカルを含めた)“歌”を工夫することにより、(J-POPでよく見られる)“ラスサビでの転調”に近いカタルシスを再現することに成功しているのだ。

 King Gnuをきっかけに常田大希という音楽家にアクセスするようになったリスナーの数はこの1年で明らかに増えた。常田自身も「King Gnuのお客さんも多かったと思うんだけど、いわゆるJ-POPフィールドのKing Gnuのお客さんが、前知識なしでああいうライブを観ることや、初めて聴くビートがあったり、そういう音楽を楽しむ状況ってお客さんにとってもすごくいい経験というか……。(中略)だからこのプロジェクトを体験することで、新しい音楽の楽しみ方を知るきっかけになってくれたら嬉しいね」と言及しているように(参照:HIGHSNOBIETY JAPAN)、おそらく、King Gnuをきっかけにmillennium paradeを知った人も少なくはないだろう。

 そんななか、2020年以降の彼が目指すところは何なのか。それは、純度の高い“驚き”を生み出していくこと、毒入りの水における毒を増やすこと、未知で異端な音楽もJ-POPとして普通に受け入れられる世の中の土壌を作ること――なのかもしれない。ここからもっと面白くなりそうだ。(蜂須賀ちなみ)

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