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木村拓哉の眼差しに走る緊張感 『教場』が問いただす私たちの選択とは

リアルサウンド

20/1/5(日) 6:00

 フジテレビ開局60周年特別企画『教場』(フジテレビ系)が、ついに幕を明けた。主演・木村拓哉、『若者のすべて』『ギフト』『眠れる森』『空から降る一億の星』『プライド』(フジテレビ系)など木村と多くの名作を生み出してきた演出家・中江功の強力タッグで、警察学校という特殊な舞台で繰り広げられる珠玉のミステリー。『踊る大捜査線』シリーズを手がけた君塚良一が脚本を担当したと聞けば、スピード感あふれる展開と重厚なストーリーに頷くよりほかはない。

 そして、木村演じる冷徹教官・風間公親に教えを請い、警察官を志す生徒役に工藤阿須加、川口春奈、林遣都、葵わかな、井之脇海、西畑大吾、富田望生、味方良介、村井良大、大島優子、三浦翔平と若手実力派俳優たちが名を連ねる。見応えがないわけがない。

【写真】『教場』後編の追加キャスト

 ここで生き残った者だけが、警察官になれる――。そうコピーがある通り、警察学校では過酷な訓練が繰り返される。警察になるということはどういうことなのか、まさに体に叩き込む。「罵倒されても我慢しろ」「街中で酔っぱらいに絡まれでも我慢しろ」「怖いなら辞めてもいい」「警察官は忍耐だと覚えておけ」……。

 警察は“悪い人を捕まえて終わり“ではない。その裏で、様々な書類作業が発生する。その裏方作業に忙殺されては、本来の街を守るパトロールに手が回らなくなってしまう。風間の教えは一見、冷ややかだが真理をついている。そして、生徒たちにこう尋ねるのだ「君は、なぜ警察官を目指す?」と。そのまま“警察官“を”表現者“という言葉に変えても、しっくりとはまる。

 宮坂定(工藤阿須加)が、命の恩人である駐在所の警官に憧れたからだと答えれば、「憧れているようでは先が思いやられる」と眉をひそめ、都築耀太(味方良介)が、警察に文句があると答えれば、「君はここに向いている」と意味深につぶやく。そして、インテリアコーディネーターから突然転身した楠本しのぶ(大島優子)にも執拗に、「何故だ」と本心を問いただす。

 憧れているだけでは、理想と現実の間に打ち砕かれてしまうことがある。ときには、その世界を恨むほどの強さがなければ、立ち向かえない大きな波がある。そして、誰かを貶めるためだけでは本当のゴールが見えなくなる。生き残ろうとする者には、いくらでも悪魔の囁きがやってくるし、協力者を間違えれば一緒に堕ちることも……。警察官(表現者)は想像よりも遥かに厳しい環境で、報われることなんて、ほんの一瞬しかない。それでも、警察学校(芸能界)に身を置き続ける覚悟はあるのかを、風間教官こと木村は問い詰めていくのだ。

 そして、この警察学校という閉ざされた世界は芸能界にも、さらにこのドラマを見る一人ひとりの職場や学校に通じるものがあるのではないだろうか。最初は白髪、義眼という木村のイメージにない姿に少し戸惑った。だが、物語が進むに連れて、このわかりやすい“別人“のアイコンがあればこそ、トップアイドルとして、俳優として闘い続けてきた“木村拓哉“と風間が、本質で繋がっていることが強調されるようだ。

 完成披露試写会では、生徒役の俳優たちから撮影時の木村の様子が明かされた。生徒役のキャストは実際に警察学校の指導を受けながら「気をつけ」「安め」「楽に休め」から練習をし、「行進」はもちろん、手帳、警笛、手錠、警棒の「出す、収める」を繰り返し行なったのだそう。撮影は、2019年の夏の暑い2カ月間。そこに木村は自らの意思で付き合い、生徒たちはその眼差しにさらなる緊張感を持ったという。

 「コミュニケーションを取っておかないと、まず」かつて、テレビの収録時に楽屋に戻らず、スタッフと積極的に会話をする木村の“仕事の流儀“が披露されたことがあった。木村は、この現場でも率先してスタッフとコミュニケーションを取り、撮影の合間にも椅子になかなか座ろうとしなかったとも。それを見ていた三浦翔平と大島優子は「自分が先に座りにくい」と感じていたと言い、逆に葵わかなは「立っているのが好きな人なのかなって」と気にせず座っていたと話す。そんな個性豊かな教え子たちのやりとりを見て、木村も思わず笑っていた。

 仕事に対する姿勢は、世代によって大きく変化してきた。そして近年では、より個の考えが尊重されるような風潮にある。変わりゆくものの中で、変わらないものも。それは人と生きていかなければならないということ。どんな職業を選んでも、どんなキャリアを目指しても、その覚悟がなければ「辞めていい」と風間が退校届を突きつける。それは「ふるいにかけられる」と思う人もいるだろうが、見方を変えると「逃げてもいい」という選択肢を見せてくれているようにも感じる。

 完成披露試写会で木村が「フジテレビはお正月にこれをやるんだ」と気にするほどの重みのある作品。だが、1年の始まりだからこそ「なぜ自分は、この場所を選んでいるのか」を私たちに問いただす、とてもいいドラマだと思う。明日の後編も、じっくりと見届けたい。

(佐藤結衣)

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