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『ジョジョリオン』ラスボス・明負悟の不気味さーー第4部・吉良吉影との違いとは?

リアルサウンド

20/11/2(月) 13:00

 第24巻が発売され、いよいよ最終局面に入った『ジョジョリオン』(集英社)。月刊誌の『ウルトラジャンプ』で連載されている本作は、荒木飛呂彦が手掛ける長編漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(以下『ジョジョ』)の第8部(Part8)にあたる物語だ。

 『ジョジョ』は、様々な時代を舞台に、ジョジョと呼ばれる青年が活躍する姿を描いた大河漫画。

 大きな特徴は、第3部から登場する「スタンド」と呼ばれる可視化された超能力の存在。スタンドは、生物とも機械ともとれない奇妙な姿をしており、背後霊のように登場して人智を超えた特殊攻撃を仕掛けてくる。ジョジョたちスタンド使いは、まず敵のスタンド能力の正体を見極め、その弱点を突いて自身のスタンドで応戦するという、ミステリー要素の強い頭脳バトルの応酬が展開されていく。

 今回の第8部は、第4部と同じ杜王町を舞台に2011年3月11日に起きた大震災によって発生した「壁の目」と呼ばれる謎の隆起物の下で、広瀬康穂が記憶喪失の少年を見つけ出したところから物語が始まる。

 少年は東方家で引き取られ東方定助と名乗るようになる。触れたものから音、水分、摩擦といった「物理的な何か」を奪うシャボン玉を飛ばすスタンド「ソフト&ウエット」が目覚めた定助は、記憶を取り戻すために奔走する中で、自分たちを苦しめる「呪い」と直面することになる。

 以下、ネタバレあり。

 24巻では、第21巻の♯084から続く長編エピソード「ザ・ワンダー・オブ・ユー(君の奇跡の愛)」の12~15回が展開される。

 病気を治す「新ロカカカの実」が実る枝を、東方家から奪った敵が、TG大学病院の救急車で逃げたことを知った定助は、豆銃礼と共にTG大学病院を訪れる。今まで襲ってきた敵・岩人間がTG大学病院に所属していたことを知った定助は、院長の明負悟が黒幕だと疑い追いかけるが、逆に明負の反撃に遭う。

 明負のスタンドは「追跡」の意思のある対象に対して何かを「激突」させる能力。その「激突」してくるものは傘、車など様々で、後に「災厄」という言葉で表現される。定助たちは明負を追うのだが、「追跡」の意思を見せた瞬間、別のスタンドが背後に現れて攻撃。やがて定助は「空から振ってきた猛スピードの雨粒」に撃ち抜かれて、重体となってしまう。意識不明となった定助は救急車に搬送され、TG大学病院で治療を受けることになるのだが、これは定助が明負に近づくための作戦だった。

 一方、東方家もまた、明負の攻撃を受けていた。その渦中で、東方家の長男である常敏が実は「新ロカカカの実」の枝を隠し持っていたことが明らかになる。常敏は、枝の秘密を知った父の憲助の命を奪い、息子のつるぎを助けるために「新ロカカカの実」を守ろうとする。しかし、明負の攻撃を受けた常敏も、血まみれになって倒れてしまう。

 『ジョジョ』のラスボスは毎回魅力的で、圧倒的なスタンド能力でジョジョを苦しめると同時に悪役ならではの独自の哲学を披露するのだが、『ジョジョリオン』の明負は、杖を持った老紳士という地味な風貌で、背中越しのカットばかりで、顔が見えない。「追跡」の意思を示すと「災厄」が「激突」するというスタンドも、今までラスボスのスタンドにくらべると地味で、どうにも掴みどころがないのだが、だからこそ薄気味悪い。

 「正体不明の敵」という意味では、第4部のラスボスだった杜王町に潜み猟奇殺人を繰り返す吉良吉影と近い存在だが、平和な日常の中に潜む殺人鬼という異形の存在だった吉良に対し、明負は病院の院長という社会的立場もあってか、震災によって異界化した杜王町を具現化したような存在だ。同時に「顔の見えない老紳士」というビジュアルであらゆる場所に現れる明負の姿は、本作の重要なモチーフである「呪い」そのものだと言える。つまり明負は『ジョジョリオン』という作品をもっとも象徴する存在なのだ。

 やがて定助は、実は明負院長と思われる老人の正体はスタンドで、つきまってきたスタンドと同体の自動追尾型だと気づく。そして、病院で命を助けてくれた吉良・ホリー・ジョースターから「絶対に追いかけるのは駄目よ」「追いかけさせるのは良い」と言われ、ロカカカの実が置かれている病院の実験室で明負を迎え撃つ。

 スタンドで罠を張り、椅子に座って待ち受ける定助と豆銃の元に、壁をすり抜けて現れる明負悟(の姿を模したスタンド)。実験室の床に足を踏み入れば、定助のスタンドが何かを仕掛けてくると察した明負は、床に同化できる“岩昆虫”を放つ。岩昆虫の攻撃を定助が打ち返すと「追撃」とみなされ、明負の「厄災」が発動するという一進一退の攻防が続く中、物語は次巻へと続く。

 定助が座っているためか、ラスボス戦とは思えない地味なやりとりの応酬なのだが、そのことによって静かな緊張感が戦いの中に生まれている。このじわじわと不気味なものが迫ってくる嫌な手触りこそ『ジョジョリオン』の真骨頂である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『ジョジョリオン』既刊24巻(ジャンプコミックス)
著者:荒木飛呂彦
出版社:集英社
<発売中>
ジョジョリオン公式サイト(ウルトラジャンプ サイト内)

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