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瀬戸山美咲が新国立劇場で海外戯曲『あの出来事』を演出

ぴあ

19/11/13(水) 0:00

『あの出来事』に出演する南果歩と小久保寿人

南果歩と小久保寿人が出演し、ミナモザの瀬戸山美咲が演出を手がける『あの出来事』が本日11月13日に東京・新国立劇場で開幕する。

今作は、新国立劇場の演劇芸術監督である小川絵梨子が立ち上げたシリーズ「ことぜん」の第2弾。シリーズを通じて、「個と全」つまり個人と全体の関係性を描くプロジェクトで、10月にはゴーリキー作『どん底』が上演され、12月には『タージマハルの衛兵』の上演が控える。スコットランドのデイヴィッド・グレッグが書いた『あの出来事』は、2013年にエジンバラ演劇祭で初演、これが日本初演、初翻訳となる。新国立劇場初登場の瀬戸山に話を訊いた。

「今回のお話をいただいたときは、まだ戯曲が決まっていない状況。いくつか候補を検討していたなかで、翻訳の谷岡健彦さんがふと、エジンバラ演劇祭で『あの出来事』をご覧になった話をしてくれたんです。戯曲を取り寄せて読んでみたら面白くて」

映画『ウトヤ島、7月22日』の題材ともなった、2011年にノルウェーで起きた極右青年による銃乱射事件を題材にした物語。

「英語は得意ではないんですけど、この作品は、初めて英語で読みきった戯曲でした。わからない単語をどんどん飛ばしながら読んだにもかかわらず、読み終えたら泣いてしまった。すぐ担当の方に電話して“ほかの候補作を一旦置いておいて、この戯曲にしたいので読んでいただけませんか”と伝えました」

瀬戸山自身も、自らが戯曲を書く作品で現実の事件を扱うことがある。『あの出来事』を読んで、自分の追うテーマとの共通点を感じたという。

「デイヴィッド・グレッグの興味のあるところが自分と近いな、とまず思いました。大きな出来事があって共同体がどう変化し、その中で個人がどうなるのか。その、再生の一歩を踏み出すまでのささやかだけど大きな戦いがこの作品には描かれている。あと、デイヴィッドとは物事が起きたときにすぐ反応するところが似ていると思います。2011年に起きた事件を2013年の時点で戯曲化している。批判もあると思いますが、やらなくてはという衝動と、それをきちんとフィクションの中に落とし込んでいるところがいい、私もこんなふうにできたらと思います」

役者はたったふたり。生き残った合唱団の女性指導者・クレアと、犯人である少年。他にもさまざまな役柄が登場するが、そのすべてを少年役が演じることとなる。

「日々発見のある戯曲です。とくに少年の演じる複数の役は外側から作ってみたり、内面を掘り下げてみたり……。なぜさまざまな役をひとりで演じるのかについてはいろんな解釈があります。ひとりの人間にいろいろな面があるともとれるし、クレアから見るとすべての人が少年に見えるともとれる。そういう存在を生身の人間が演じるってとても難しくて、ぎりぎりまで試行錯誤をしています」

ある出来事に直面する女性・クレアを演じるのは南果歩。

「事件前のクレアのオープンな感じが、果歩さんのポジティブさと重なる。クレアは大きい出来事によって傷を負い、そこから心の旅をしていくことになります。色んな経験を経て怒りや悲しみ、憎しみをくぐり抜けるという姿を、果歩さんは実感をもってやってくださる。こんなにぴったりのキャスティングはないと思います」

少年役は、さいたまネクスト・シアター出身で蜷川幸雄のもと多数の作品に出演している小久保寿人。

「正直言って、小久保さんは今、悩んでいます(笑)。でも悩まなくてはできない役だと思います。いろんな人物をただ声色や雰囲気で演じ分けるのではなく、ひとりひとりの背景をどこまで想像できるかの勝負だなと思って、稽古場でひとつひとつの役について全員で考えています。その分プレッシャーも大きくなると思いますが、まっすぐな方なので、とにかく一生懸命考えて毎日新しいものを持ってきてくれるんです」

役者はふたりだが、この作品でもっとも特徴的なのは合唱団が登場すること。「上演地の合唱団が出ること」が上演の決まりとしてあるのだ。今回は既存の合唱団に依頼するのではなく、オーディションを行って今作のための合唱団を結成した。

「条件は“楽譜が読めること”だけ。200人も応募してくださって、面白い方がたくさんいたので30人を選ぶのはたいへんでした。結果、プロの方もカルチャーセンターで合唱をしている方も、20代から70代までが集まりました」

合唱団は歌詞を通じてふたりのキャストに訴えかけるなど、歌担当だけではない存在感を見せる。

「彼らが舞台上にいることの持つパワーがとても大きいですね。合唱団が入ることで見え方がまったく変わったり、シーンの意味がわかったりもするんです」

関わる全員で物語に対峙しながら、少しずつこの作品を形づくっている瀬戸山。

「なぜこの事件が起きたのか、この事件に遭遇したときにどうあるべきか……。答えのない問題を、観ている間観客の方も考えることになると思います。分かり合えない人とも一緒に生きていくということについて考えつつ、前向きな気持ちで観終えられる作品にできたらと思っています」

新国立劇場 小劇場にて11月26日(火)まで上演。

取材・文:釣木文恵

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