Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『ハリー・ポッターと秘密の部屋』は“2回目”が楽しい 振り返ると気づく魅力的なシーンの数々

リアルサウンド

20/10/30(金) 10:00

 今年もまた、ハロウィンの時期がきた。ジブリ特集が夏の訪れを教えてくれたなら、ハリポタは秋の訪れを教えてくれる。三週にわたって『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)で放送される『ハリー・ポッター』シリーズ。今週の放送はシリーズの中でもっともっと評価されるべき2作目『ハリー・ポッターと秘密の部屋』だ。ハリーたちは再び学校に戻る。しかし、そこはもはや生徒が安心できる場所ではなかった……。

 放送に合わせて今一度本作の魅力を振り返りたい。なお、本記事の内容は『死の秘宝PART2』までのネタバレを含む。もしあなたが先週放送された『賢者の石』で初めて魔法の扉を開けたのであれば、是非そのままハリーたちの旅路を最後まで見届けた上で本記事に戻ってきていただきたい。

今後重要になってくるキーワード・伏線のオンパレード

 『賢者の石』が『ハリー・ポッター』の世界観を紹介する作品だとしたら、『秘密の部屋』は今後の展開で非常に重要になってくるキーワードや伏線を紹介する作品だ。「ああ! こんな時からすでに!」「これが後にああなったんだよなあ!」と、映画を観ながらツッコミまくること必至。

 例えばダドリー家から脱出したハリーたちが向かった、ウィーズリー家。初登場となり、これが『不死鳥の騎士団』以降、ハリーや騎士団のメンバーのセーフスポットになった。

 しかし、『死の秘宝 PART1』でロンの兄・ビルがフラーと細やかな結婚式を挙げた直後、死喰い人の襲撃を受けベラトリックスの手で燃やされてしまう。そのためウィーズリー家の暮らしぶりが垣間見える貴重なシーンは『秘密の部屋』でしか堪能できないのだ。ハリーはそこで未来のお嫁さん・ジニーに初めて「やあ」と声をかけ、彼女の頬を赤く染める。

 彼が彼女に話しかけたのはこれが初めてだが、実は彼らは『賢者の石』のキングズクロス駅ホームですでに出会っていた。柱に突進するのに緊張していたハリーに、幼いジニーは「頑張って」と応援したのだ。未来のお嫁さんからの最初の言葉が「頑張って」って胸熱すぎない?

 その後買い出しに向かう際、ハリーはダイアゴン横丁に迷い込んでしまう。ここで怖い魔女やおじさんに囲まれ、どこかに連れて行かれそうになるシーンがさらっと描かれているが、今思うとこの時点ですでにハリーをヴォルデモートに差し出そうとしていた死喰い人が人だかりの中に紛れていてもおかしくない。

 本屋ではルシウス・マルフォイが、ジニーのバケツにトム・リドルの日記を忍ばせる。これが最初に壊されることになる分霊箱なのだが、このシーン、毎回観るたびにガッツリそれを目撃し眉を潜めてさえいるハリーに「その場で指摘しなよ!」とツッコミたい気持ちを抑えなければならない。余談ではあるが、この背景でなんとハーマイオニーの両親がロンの父・アーサーと歓談している様子が一瞬だけ映る。彼女の両親が再登場するのは、『死の秘宝PART1』。そう、ハーマイオニーが自分にまつわる記憶を全て彼らの中から消す悲しいシーンだ……。

 ホグワーツに到着後ももちろん、今後の作品に出てくる重要なものがテンポよく登場する。『アズカバンの囚人』に繋がる、館の入り口になっていた暴れ柳(生えている位置から考えて別固体ではあるが)が出てきたり、ハグリッドがアズカバンに連れて行かれたり。その後の作品を連想させるかのように、マクゴナガル先生の授業では動物をゴブレットに変える呪文を練習するし、空飛ぶ車が一面を飾った日刊予言者新聞の記者も『炎のゴブレット』に登場する。

 そして決戦の地である秘密の部屋は、後に『死の秘宝 PART2』でロンとハーマイオニーが再びやってくることを考えると、それだけでニヤニヤしてしまう。ジニーが未来の旦那に命を救われた場所で数年後、兄・ロンは未来の妻に初めてキスをしたわけだ。

 決戦といえば、ここで大活躍する不死鳥(フェニックス)はハリー自身のメタファーだったのではないだろうか。フォークスという名前も、どこかホークロックス(分霊箱)に少しサウンドが近い気がする。何より、「死ぬ時は炎となって燃え、一度灰になるとその中から蘇る」のがまさにその後のハリーの運命を想起させるのだ。しかも、全てが終わったあとダンブルドアはパーセルマウスのハリーに「君に傷を負わせた夜に力の一部を移したのだ。意図せずにな」と語っていた。ハリーが分霊箱の一つだという伏線は、この時からすでにあったわけだ。

 それに、フォークスが持ってきたグリフィンドールの剣も重要アイテム。この『秘密の部屋』でネビル・ロングボトムは授業中にピクシーのせいで散々な目に遭う。その前はマンドレイクの悲鳴で気絶してしまうし、「なんでいつも僕なんだ……」と愚痴る彼。しかし、そんな彼がまさか、真のグリフィンドール生のみが出すことができるあの剣を持って、全てを終わらせることになるとはこの時、彼自身夢にも思っていないだろう。目頭が熱い……。

シリーズで最もホグワーツのデス・トラップ具合が光る作品?

 ちょっとセンチメンタルな感じで伏線について振り返ってきたが、『秘密の部屋』はそんな生温い作品では決してない。むしろ、シリーズで一番「一歩間違えたら死んでいた」が多い、危険な映画なのだ。ファンタジー描写に目を向けてワクワクする一方で、『ハリポタ』は子どもがこれでもかってぐらい何度も死にかける。ヤバい。何よりホグワーツが学び舎というより、存在自体デス・トラップであることは『賢者の石』で薄々感づいてしまう事実である。ここで、今一度ハリーと仲間たちが回避した「死」を振り返ろう。

・暴れ柳に叩き殺されかける
・泣き声で死ぬと言われているマンドレイクの苗を軽装備で交換
・相変わらず殺意の高いクィディッチの試合(ブラッジャーはいい加減使用禁止にすべき)
・決闘クラブという名の合法死闘場
・使用者に催眠をかけ、命を吸い取るダイアリー
・禁じられた森で大量の蜘蛛に血肉を求められる
・純血以外の生徒を根絶やしにするコンセプトで作られた秘密の部屋の存在自体
・秘密の部屋に向かう途中の落石
・バジリスク

 ブラッジャーは骨折したし、バジリスクに関してはフォークスの涙がなければ、ハリーは死んでいた。ちゃんとある程度のダメージを受けていながらも彼らが本作で生き延びたのは、それこそマジックだろう。こんな末恐ろしい学校の仕組みを放置するどころか、生徒の危機にしっかりと対応しきれない学校側の杜撰さも、本作では明らかになっている。

 まずは生徒が死にかけているにも関わらず、“樹齢を重ね貴重だから”という理由で暴れ柳を傷つけたことを叱るスネイプ先生。スプラウト先生はマンドレイクの苗交換の際、気絶したネビルを医務室に連れていくこともなく呆れて放置する。クィディッチではハリーを殺そうとするブラッジャーの暴走を先生らはただ傍観し、現場にかけつけた低学年のハーマイオニーが代わりに処理した。そして秘密の部屋が開かれ、犠牲者が複数出ているにも関わらず(そして過去に死人が出ていることも知っているのに)学校を即時閉鎖せず、「注意喚起」に止まったダンブルドアの判断もいかなるものだろうか。PTA待ったなしの大問題だ。

 そして何よりも根本的に、最も重要な科目と言っても過言ではない「闇の魔術に対する防衛術」の担任にギルデロイ・ロックハートを採用したことだ。面接時に実技は確かめなかったの!? その後も、明らかに教師陣は彼がビッグマウスなだけで実際何もできない、役立たずだと知っているかのようだった。ジニーが秘密の部屋に攫われた際、スネイプはロックハートに「昨夜、秘密の部屋の入り口を知っていると言っていましたよね。あなたの出番です」と言う。こんなの、明らかにほらふきだとわかっているはずなのに、先日の決闘クラブの仕返しでもするかのように彼は意地悪をしたのだ。たちが悪いことに、これにマクゴナガルが便乗して「決まりですね、あなたのその伝説的な力で何とかしてもらいましょう」とほくそ笑みながら、彼を討伐隊に任命するのだ。しかも、彼一人だけ! 酷い! 教師同士のいじめ現場を目撃してしまったような後味の悪さを、その後のロックハートのクズな態度で相殺した演出がとられている。「ああ、こんな奴ならどうなっても良いか」という観客のヘイトゲージを貯めるだけのキャラに徹されたロックハートは、クズではあるものの少し可哀想かも。

 とにかく、ホグワーツは基本的に子供に優しくない。

おどろおどろしいクリーチャーに胸躍る!

 シビアな学校生活はさておき、本作は何より魔法動物がたくさん登場するのが魅力的だ。それも、なんとなく魔法世界っぽく、少しおどろおどろしい姿をしているのがグッとくる。しかし、アラクノフォビアの方はご注意。禁じられた森のシークエンスで、常時絶叫することになるだろう。ここで登場したアラゴグはアクロマンチュラという生物で、人並の知能を持つ巨大蜘蛛だ。一度に最高100個の卵を生むとのことで、一体あの森にどれだけの蜘蛛が存在するのか、考えただけでもゾッとしてしまう。

 ろくでなしロックハートの授業で登場したピクシーも印象的な存在だった。モデルとなったピクシーは悪戯好きの妖精パックが名前の由来となっており、イングランドの伝承に登場する。それによると普段は透明で、ポルターガイストを起こし、赤ん坊を攫うという。映画で登場したピクシーは群青色で目に見えるが、そのサイズ感は伝承に基づいた20センチほどのものだ。ちなみに彼らは『死の秘宝 PART2』でも再登場している。

 先述したマンドレイク、フェニックスと、一作目より多くの動物が登場するが、やはり目玉はなんと言ってもバジリスク。これが興味深いことに、なんと鶏の卵をヒキガエルの腹の下で孵化させると誕生するらしいのだ。そして映画の中ではハーマイオニーの調べた文献にしっかり記述されていたのに、「蜘蛛が逃げるのは前触れ」に気を取られてすっかりスルーされていた弱点がある。雄鶏による鶏鳴だ。鶏の卵から生まれることと何か関係があるのかもしれない。その鋭い歯には、分霊箱を破壊することさえできる猛毒が含まれている。

 そしてバジリスクを貫いたグリフィンドールの剣は、その「刀身よりも強い物質を吸収する」という特性により、毒を吸い込んだ。それが後に最重要アイテムとなるのだから、バジリスク様々である!

ドビーに嘆きのマートル、いじめられっ子が物語のキー

 私が個人的に本作をとても気に入っているのは、ひとえにドビーが出てくるからといっても過言ではない。ドビー大好き! そして50年前にトム・リドルにバジリスクをけしかけられ、トイレで殺された少女マートルも良い味を出している。彼らは日々、虐げられてきた存在である。ドビーに関しては主人のルシウスから「1日5回は脅迫されている」とハリーに話していたが、英語ではDeath threatと言っていて、ただの脅しではなく生命を脅かされていることがわかる。マートルも死んでいるから痛みを感じないだろう、と在校生に物を投げられる的のような扱いをされている。彼女はいつも、シクシク泣いている。そんな彼らが本作のみならずその後も重要な鍵を握っている存在なのが意味深い。マートルはその後も『炎のゴブレット』で一役買うし、ドビーに関しては『死の秘宝 PART1』でハリーたちの命を救う。

 『秘密の部屋』のラストも痛快で、ドビーがハリーから靴下をこっそりもらったことで自由の身となる。仕組みを噛み砕くと、ハリーがリドルの日記に靴下を忍ばせて、ルシウスにまず手渡す。それをルシウスがドビーに渡したことで、“主人から衣類をもらった”ということになったのだ。ルシウスはこれに腹を立て、「アブラ…」と例の死の呪文をハリーにぶつけようとするが(校長室の目の前なのに凄い度胸だ)、この時もドビーは前に立ちはだかり、難なくルシウスを吹っ飛ばす。実は屋敷しもべは魔法使いより強い魔術を持っていたりする。自分を助けてくれたドビーにハリーはお礼を言いつつ、「もう二度と僕を救おうとしないで」と、約束させた。数年後、ドビーはこの約束を自らの命を投げ打ってまでして破ることになる。ああ……目頭が……。

てんこ盛りなのに製作費はシリーズで一番安い!

 最後に、もうひとつ『秘密の部屋』が凄い作品である理由に触れておきたい。それは、ここまで見どころがてんこ盛りなのにも関わらず$100million(1億円)というシリーズで最も低い製作費で作られていることだ。世界興行収入は$878,979,634(約918億円)と、下から2番目の成績ではあるものの(最下位はアズカバン)、わずかに届かなかった世界興収$896,911,078(約936億円)の『炎のゴブレット』の製作費が$150million(1億5千万円)だったことを考えると、『秘密の部屋』はなかなか優秀な作品である。

 何よりクリス・コロンバス監督が続投し、あの素晴らしい1作目からのテンションを失速させることなく世界観を保つこともできただけでも上出来だ。

 列車から逃れ、魔法の車が湖畔をヘッドライトで照らしながら飛んでいく。ジョン・ウィリアムズによる天才的で壮大なテーマ曲とともに映されるホグワーツの景観を見て、笑顔が抑えきれないハリーに「おかえり」とロンは声をかけるが、これは観客である私たちにかけられた言葉でもある。『ハリー・ポッター』の世界に戻って、またあの冒険を味わえる。『秘密の部屋』は、その嬉しさを噛み締めることのできる素晴らしい作品なのだ。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードハーフ。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆。InstagramTwitter

■放送情報
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』
日本テレビ系にて、10月30日(金)21:00〜23:24放送
※放送枠30分拡大
原作:J・K・ローリング
監督・製作総指揮:クリス・コロンバス
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、マギー・スミス、アラン・リックマン、ケネス・ブラナー、トム・フェルトン
TM & (c)2002 Warner Bros. Ent. , Harry Potter Publishing Rights (c) J.K.R.

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む