長めの作品から抜けると「ニュートラルを更新しよう」という感覚が体の中から湧いてくる。作品を作り上げる過程においては、演技の参考になるコンテンツに触れたりトレーニングをしたり、生活習慣を変えたりとそこに合わせた生活をするので、新しいニュートラルを作るために少し立ち止まる。そうすると良かった部分は残しつつ、次に行こうという気にもなる。例えば今回は、身体は引き続き鍛え、プロティンも飲んでいる。食事についても、いいものを摂るようにしている。

ただ2021年明けてすぐに「今年の目標は何ですか？」と何度か訊かれて、毎回「舞台をやり切ること」と答えてきたから、さてやり切った今は何を念頭に生きていけばいいのかなと、ここ数日ボンヤリ考えていた。どうしたって、時計はどんどん進んでいく。先にあるものに対して準備し続けなければいけない。

本当に舞台に合わせて生きていたなって、終わってみてしみじみ思う。モチベーションが高くないとできなかったことだと、痛感もしている。今回終わってみて難しかったのは、終わり方だ。いつもとどうしても勝手が違う。千秋楽が終わったら「お疲れさまでした」と荷物をまとめて劇場を出て打ち上げ会場へ行く。そこにスタッフさんたちも全員集まってお互いを労い、2次会も3次会も行って飲んだり食べたり話したり。朝方に「お疲れ様!!!」で解散。帰宅して寝て、昼過ぎに起きて身体の疲れを感じながら「終わったな～」と実感する。それがないのはやっぱり寂しさがあるね。

今回は、千秋楽の後、劇場でみんなに「お疲れ様でした」で終わり。劇場にはまだ作業している人がまだまだいて「後で集まるけど、ひとまずお疲れ！」みたいな感じでなく「お疲れ様でした、また会いましょう」と。最後のお疲れ様を動いている人にしなきゃならなかった。なんだか締まらなかったが、そういうことにも慣れていかなければいけない。

目標をやり切った今、避けていたカップラーメンとか食べてみたし、我慢していたサウナにも行ってみた。身体と頭と心を整えて、新しい生活を組み直し、そこに向けての自分を、次の準備のためのニュートラルを作るぞと。

引き続き体調管理はしつつ生きていく。少し気が緩んでも最低限のラインは守るというか、その「最低限のライン」が必然的に上がっているので前より体調管理を気を張り過ぎずにできるような気がする。

一人での作業に熱中できると素晴らしいなとも思う。「そんなにやってるの？」って人が言う領域になった方が、面白いというか。サウナもそうだしね。たとえば料理も作ったことないものを作ろうというマインドに今なっていて。自分の中で定番になったもののほかに新しいメニューに挑戦したい。外食のクオリティは素人では届かないが「家でこんなの作れるんだ！」みたいなものが、出来るようになりたい。自粛期間が1年過ぎた中で身に付いたもののアップデートを始める時期なのかもしれない。

本来なら人に会って刺激されるのが理想的だけどそれはなかなか難しいからね。それは何というか「言ってもしょうがないこと言っても、しょうがなくない？」というか。これは『僕の名前はズッキーニ』の中のセリフで、僕のセリフではないんだけど、すごく腑に落ちる。これは両親を亡くした女の子と、母を亡くした男の子の2人の孤児がいて、男の子はお母さんに会いたいと思っていて、もっと言えば会えると思っている。“死”という現実を受け入れられていない状態。それで女の子に「お母さんに会いたいと思わないの？」と訊ねるんだけど、その女の子の返事が「そんな思ってもしょうがないことを思っても、しょうがなくない？」そこで男の子は「じゃあ会いたくないんだ」と返すと、女の子は「会いたいに決まってるじゃない」と更に返して。そんなシーンがあった。

マスクもしないで時間も気にしないで、楽しい仲間と集まってご飯食べたりお酒飲んだりしたい。お客さんでパンパンになっている劇場でお芝居してとか夢に見ることもある。でもそんな思ってもしょうがないことを思っても、しょうがない。それでも、しょうがなくても、思ってしまうものは思ってしまう。

思ってしまうけれど、以前のようにを望むより前を見て今楽しめて充実できることを探しながら、新たなニュートラルを作っていきたい。

次回の更新は4月14日（水）です。お楽しみに！

プロフィール

稲葉友（いなばゆう）

1993年1月12日生まれ、神奈川県出身。
2010年、ドラマ『クローン ベイビー』(TBS)で俳優デビュー後、ドラマ、映画、舞台と幅広く活動。
主な出演作に、ドラマ『仮面ライダードライブ』(‘14～’15 EX)、『MARS～ただ、君を愛してる～』(’16 NTV)、『ひぐらしのなく頃に』(’16 BSスカパー!)、『レンタル救世主』(’16 NTV)、『将棋めし』(’17 CX)、映画『ワンダフルワールドエンド』(’15)、『HiGH&LOW』シリーズ、『N.Y.マックスマン』(’18)、『私の人生なのに』(’18)、舞台『すべての四月のために』(’17)、映画『春待つ僕ら』(’19)『この道』(’19)など。
J-WAVE『ALL GOOD FRIDAY』(毎週金曜11:30～16:00生放送)ではレギュラーパーソナリティ―を務める。

衣装協力／ストライプシャツ¥35,200／ディスカバード（ディスカバード TEL:03-3463-3082）
Vネックシャツ¥39,600／アン（アン TEL:085-921-5420）
中に着たトラックジャケット¥44,000／クルニ
リング各¥74,800／シンゴクズノ（ともにシアン PR TEL:03-6662-5525）
パンツ¥34,100／ケンイチ（サカス PR TEL:03-6447-2762）
シューズ¥28,600／ウォルシュ（カメイ・プロアクト株式会社 TEL:03-6450-1515）
IDチェーンブレスレット(右手)¥44,000／トゥエンティー エイティー、
ハンマーバングル(左手)¥13,200、コッパーバングル(左手)¥5,500／ともにノース ワークス（ともにヘムト PR TEL:03-6721-0882）