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『劇場版 アイドルキャノンボール2017』は“中年アイドルファン”の気持ちを代弁する

リアルサウンド

18/2/4(日) 14:00

 複数のAV(アダルトビデオ)監督が目的地に向かう途中でテレクラや出会い系サイトなどで女性をナンパしながら「キス+1点、ハメ撮り+5点」といった独自のルールを設定し、監督同士がポイントを競い合う姿を面白おかしく描いたAV『テレクラキャノンボール』。

参考:濱野智史 × 渡辺淳之介が語る、アイドルとプロデューサーの関係性

 1997年に第1作がカンパニー松尾監督によって製作され、それ以降も定期的に作られてきた本作だが、2014年には『劇場版 テレクラキャノンボール2013』が映画として公開され、大きな話題となった。

 そして、2015年にはアイドルグループBiSの横浜アリーナでの解散ライブのドキュメンタリー撮影という名目で行われた『劇場版 BISキャノンボール2014』が公開された。こちらは『テレクラキャノンボール』を下敷きとしたドキュメンタリー映画で、AVではないものの、監督たちがあの手この手でBiSメンバーたちを口説き落とそうとするところにスリリングな面白さがあった。

 これ以降、渡辺淳之介が主催するWACK所属のアイドルを題材にしたドキュメンタリー映画が次々と作られ、今回の『劇場版 アイドルキャノンボール2017』に至るのだが、面白いのは、作品が進むにつれてAVとしての要素がどんどん後退していっていることだ。

 本作の監督のカンパニー松尾とバクシーシ山下は90年代にV&R製作プランニングのAVを多数手がけた。それらの作品はユニークなアイデアとエログロ路線が受けてサブカルチャーの界隈でカルト的な評価を受けていた。

 その後、AV業界が実用性重視になっていく時代の変化によって、彼らのような作家性の強い監督が自由に作品を作ることは年々難しくなっていく。

 そんな中、『テレクラキャノンボール』シリーズが支持されているのは、元々あったドキュメンタリー性にゲーム性を加味することで、バラエティ番組的なエンターテインメント性を獲得することに成功したからだろう。

 本作の影響は多方面に広がっており、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)の『モテない男No.1決定戦』でオマージュが捧げられ、TBSの名物プロデューサー藤井健太郎は『芸人キャノンボール』というバラエティ特番を2016年から放送している。

 他にもマッスル坂井が監督したプロレス団体DDTのドキュメンタリー『劇場版プロレスキャノンボール2014』という作品もあるのだが、他業種の人間が真似したくなる気持ちはよくわかる。

 本作を見ていると、男同士でわちゃわちゃしている時の楽しさを思い出させてくれる。まるで男子校の部室のような、男同士のわちゃわちゃ感は、被写体がアイドルに変わったことでより加速していく。

 これはAVでは描けたハメ撮りのようなHなシーンが、アイドルを対象とした作品ではなかなか見せることが難しいという物理的な理由もあるのだが、そういった理由とは別に、アイドル系の『キャノンボール』作品を見ていると、女の子たちを撮影したドキュメンタリー的な場面よりも、その映像を見ながら男たちが会議しているシーンの方が増えているように見える。

 女の子のHな姿や赤裸々な内面を告白したドキュメンタリーだと思って映像を見たら、映っているのは、おっさんたちのはしゃいでいる姿。やっていることはくだらないのに時々、感極まって泣いてしまうくらい切実なものが映っているというのが『キャノンボール』シリーズの本質なのだろう。カメラを向けられた女たちではなく、カメラを向けている男たちの心と体がさらけ出されているのだ。

 そんなおっさんのストリップ、しかも集団によるものが面白いのかと、未見の方は思うかもしれない。しかし、困ったことに、そっちの方が女の子たちのパートよりも何倍も面白いのである。

 と、ここでやっと、『劇場版 アイドルキャノンボール2017』の説明となるのだが、今回はWACKオーディションに参加したアイドル候補生を対象にした企画となっている。

 参加する監督はカンパニー松尾、バクシーシ山下、梁井一、嵐山みちる、アキヒト、エリザベス宮地、岩渕弘樹。

 見どころは世代交代だ。これまでの『テレクラキャノンボール』にはカンパニー松尾やバクシーシ山下がAV監督として老いていく姿が刻印されていたのに対し、今回はエリザベス宮地と岩渕弘樹というAVやキャノンボールに憧れてMVやドキュメンタリー映画を撮っていた監督が参加したことによって、今までとは違う化学変化が起きている。

 特に岩渕弘樹の、自分が尊敬する先輩たちに認められたいという気持ちと、なんとか爪痕を残したいというドキュメンタリー監督としての執念が、どんどん加速していくのは見どころである。大森靖子のMV「魔法が使えないなら」や彼女が出演した映画『サマーセール』でその存在は知っていたが、ここまで面白い人だとは思わなかった。

 考えさせられるのはAV監督VSアイドルという構図だろう。これは、翻訳するとカメラを構えたおっさんVS何者かに成りたい若い女の子という対比なのだが、これはそのまま高齢のアイドルオタクとアイドルの関係にも見える。

 本来なら相いれない存在が、偶然出会ってしまった時に起きるコンフリクトの奇蹟。特におっさん側の、狼狽する様は愛おしいものがある。だからこれは、おっさんアイドルファンの気持ちを代弁した映画でもあるのだろう。(成馬零一)

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