Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

時代劇研究家ですが趣味は洋画観賞。見知らぬ世界に惹かれます。

春日 太一

映画史・時代劇研究家

アイダよ、何処へ?

絶望的な映画だ。唯一の救いは、これが約30年前という“過去”に起きた出来事であり、今は収まっているという事実のみ。 だが、最近のアフガン情勢をめぐるニュース映像を観ていると、場所は違えど同じような状況は今でも世界のそこかしこで起きているのだとも思い知らされる。やはり救いはないのだ。重苦しさばかりが残る。 だからこそ、本作は普遍的な人間の業を描いた、優れた作品ともいえる。 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争下、民族浄化を掲げて虐殺を続けるセルビア人武装組織に占拠された街が舞台。市民たちは国連軍の基地に逃れるが、国連はまるで機能しない。武装組織は基地に押し寄せ、難民たちを容赦なく連れ去ってしまう。阿鼻叫喚が響くにもかかわらず、国連軍は彼らを守ろうとすらしない。基地で通訳をするアイダは家族を守るため必死に動くのだが、その想いは押し潰されていく。 本来なら頼りになる味方のはずの国連側がまるで悪役のように立ちはだかる様に、作り手の拭えない怒りを感じ取ることができた。 また、少し前まで近所付き合いしていた者が、残虐な行為に平然と加担する姿も衝撃的。民族や宗教が純化していく際に浮き彫りになる人間の残酷さが、生々しく描き出されている。

21/9/14(火)

アプリで読む