個人の趣味・嗜好を別にすれば、音楽は人種や民族、文化や国境を超えて人々を魅了する。とはいえ、それは音を享受できることを前提にした物言いであり、“ろう”の人にとっては音楽とはいかなる存在なのだろうか。そんな“ろう”の写真家夫婦が「聴者」の息子の誕生によって“うた”と出会うまでを描いたドキュメンタリーだ。“ろう”であるがために音楽を忌避してきた齋藤が泣き止まぬ赤ん坊に向かって思わず子守唄を歌ってしまうシーンには深く魅了される。演奏されるギターに触って音の振動を確かめるシーンのように、音には視覚的な色や形状などはないが、触覚的に確かめることは可能であり、音が身体的な存在であることがわかる。そんな“ろう”と音（音楽）の関係に迫った世界が興味深い。

20/2/20(木)