題名が秀逸だ。意外性の塊。「83歳の」「やさしい」「スパイ」。「83歳」が「やさしい」のは分かるが、職業は「スパイ」？　スパイは普通は「非情」というイメージ。一体、どういうこと？となる。　原題は『El agente topo』。スペイン語はよくわからないが、「agente」はエージェント、「topo」はモグラとか、スパイの意味らしい。 題名もさることながら、中身がバツグンに面白い。南米チリ発、今年の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート作という品質保証付き。 「高齢男性1名募集。80歳から90歳までの退職者求む。長期出張が可能で電子機器を扱える方」。こんな広告を見てやってきた83歳のセルヒオさんが、老人ホームに潜入して、依頼主の母が施設内で虐待を受けていないか、盗難被害にあっているのではないかを捜査する……。 劇映画のように見えるが、ドキュメンタリー。言ってみれば、事前にカメラを仕込んだリアリティ・ショーの作り方なのだが、登場人物が若者ではなく、シニアというのが新鮮。しかも、味わい深い。世話を焼かずにはいられない、やさしいセルヒオさんを始め、登場人物の全てがいとおしい。高齢の親を持つ大人たち、必見！

21/7/3(土)